VAGUE(ヴァーグ)

秋と冬の狭間にアウトドア好きが北海道・美深「終り火」を目指す理由とは

スケジュールはなく時と場所を楽しむ

 毎年、11月上旬(2022年は11月4〜6日)に北海道・美深で開催される「終り火」は、1泊2日10名が2クールのこじんまりとしたイベントだ。紅葉が終わりアウトドアツアーが一段落、旭山動物園ほかレジャー施設も休業する静かな時期だが旭川から2時間ほど離れた小さな町に、毎回応募者が殺到する人気ぶり。道内各地はもちろん関東からの参加者も珍しくない。

 「アウトドアシーズンが終わり、雪のツアーがはじまる前のこの時期にガイドたちが集まって焚き火をしながらキャンプをしていました。とても楽しく、ちょうど初雪が降る時期でガラリと風景が変わるのも特別感があります。ぜひゲストを迎えていっしょにアウトドアシーズン最後の日を焚き火とクラフト、夜長を楽しみたいと思って”終り火”というイベントがスタートしました」(BASIS 小栗さん)

 当初はゲストといってもガイドの知り合いが大半だったが、噂が噂を呼び今では募集開始とともに定員に達する。なぜこれほどゲストを惹きつけるのか?

「終り火」運営を行うのはアウトドアを通して道北の自然と文化を伝える文化創造プロジェクト”BASIS”のリーダー、小栗卓さん
「終り火」運営を行うのはアウトドアを通して道北の自然と文化を伝える文化創造プロジェクト”BASIS”のリーダー、小栗卓さん

 イベントを支えるガイドはゲストとほぼ同数の約10人。そのうちメインガイドを務めるのは、道北を舞台に活動するネイチャーガイドの辻亮多さんと北海道出身のネイチャークラフト作家である長野修平さん。両人とも技術はもちろん、その人がらに惚れ込みともにひとときを過ごしたいというファンが全国にいる人気者だ。

 焚き火を囲み、彼らとの会話を楽しみつつ木を削り、食事時には羊肉とサーモンにかぶりつく。とくに予定表はなく、三々五々集まり、翌日の正午くらいまでにひとりまたひとり帰って行くのが「終り火」のスタイルだ。

適当に集まり、焚き火を囲んで木を削る。暗くなったら酒と料理をつまみ、星空を眺め、眠たくなったらテントに入る。決まったスケジュールなどはない
適当に集まり、焚き火を囲んで木を削る。暗くなったら酒と料理をつまみ、星空を眺め、眠たくなったらテントに入る。決まったスケジュールなどはない

 この日も参加者が8割方集まったらガイドたちがゆるりと挨拶をし、道具の使い方・木の扱い方などが語られる。これがイベント開始の合図。

 決してお勉強的なものではなく、何を作るのも自由だし、完成しなくてもいい。ほかの参加者の様子を眺めながら構想を練るだけでもよし。「去年も参加しました。まだ完成していません」という参加者もいた。

 木を眺めながら「このコブをいかしたい」「木目の美しさをそのまま使おう」と思い思いにできあがりをイメージする。その作り方がわからなければ、ガイドたちに相談すればいいし、どうしても難しければ手伝ってもらえばいい。決して無理をしないのでゆるやかに過ごせるのだ。

一夜で雪景色、時の流れを

 夕食はラムとワインのスペシャリストである東洋肉店の東澤壮晃さんらラムバサダーによるラム肉フルコースで、朝食は辻さんのおかゆ。美深が育んだ野菜とキャビア、舞台となるファームイントント(松山農場)のラムなど北海道の恵みがズラリと並ぶ。これも「終り火」の楽しみだ。

 今年はイベント前夜より雪が降り始め、溶けては降り……の繰り返し。

 雪が溶けると草地がのぞき、リスが顔を見せる。かと思えば湿った雪が降り積もり、夜更けにはガチガチに凍る。雪の水分が飛び、夜明け前にはフカフカになって雪板で初滑りを楽しむ参加者の姿も。長野さんが持ち込んだ茶道具で、雪景色を前にお茶を点ててくれたのもいい思い出だ。

ウイスキーやワインを並べた「氷点下10℃バー」もこの通り。飲み過ぎると身体が冷えるので焚き火にかけたお茶やお湯で割りながら、ちびちび飲む
ウイスキーやワインを並べた「氷点下10℃バー」もこの通り。飲み過ぎると身体が冷えるので焚き火にかけたお茶やお湯で割りながら、ちびちび飲む

 わずか1泊だが、移ろう季節がはっきり見えるのは今この時期だけ。

 グランピングのような手厚いサービスはないが、テントと寝袋など宿泊の道具と食事は用意されており、スペシャルな時期にアウトドアの原点とも言えるクラフトと焚き火に明け暮れる。何もない時期だからこそ焚き火のぬくもりや星空の美しさに気づき、クラフトに集中できる。これが何度も訪れたくなる「終り火」の魅力なのだろう。

Gallery 【画像】何度も訪れたくなる魅力とは? 「終り火」の過ごし方を見てみる(14枚)
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