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トヨタ新型「クラウン」は異端じゃない!? 4代目“クジラ”に通じる型破りこそ日本が求めていたエナジーだ

トヨタがイチかバチかの大勝負に打って出た

 トヨタ新型「クラウン(クロスオーバー)」に対する世間の反応は、肯定的なものから否定的なものまでさまざま。SNSをざっと見たところ、ほぼ二分されている。否定派でいちばん多いのが「クラウンらしくない」という意見。肯定派は「カッコいい」とか、「新しい」と評価している。

トヨタ新型「クラウン クロスオーバー」
トヨタ新型「クラウン クロスオーバー」

 僕はといえば肯定派なのだが、先代までの「クラウン」がバッチリよく似合いそうな某モータージャーナリストが「クラウンらしくない」と話しているのを聞いて妙に納得した。たしかに“The昭和オジサン”にとって、従来のクラウンは最高のクルマだったのだ。

 会社に入ったら「カローラ」を買い、課長になったら「コロナ」に乗り換え、部長になったら「マークII」に、重役になったらクラウンへ……日本の男性社会のヒエラルキーを見事に体現したトヨタセダン群の頂点に位置するクラウンは、成功の証であり、と同時に日本社会にオーソライズされた高級車でもあった。メルセデス・ベンツやレクサスだと「アイツは生意気だ」と陰でいわれてしまうが、クラウンにはそういう嫌みが一切ない。にもかかわらず、みんなが高級車と認めてくれる。そんなクルマはほかにちょっとない。

 ついでにいえば、背広姿はもちろん、スラックスにゴルフ用シャツ、裾はもちろんパンツインという昭和オジサン定番週末ファッションにバッチリ似合うというオマケまでついていた。「こいつに乗ってれば間違いない」という安心感と満足感こそが、クラウンのサクセスストーリーの原動力だ。

 しかし、世の中は常に移り変わる。右肩上がりの経済成長が終わり、終身雇用制がくずれ、ファッションが変わり、人々の価値観も変化した。しかし、過去の成功体験にしばられたクラウンは変わることができず、時代に取り残されていくことになる。

 それが表面化したのが13代目(2008年)だろう。伝家の宝刀・ハイブリッドを搭載するも12代目超えはならず。14代目は“ピンククラウン”で話題を呼ぼうとしたが空振り。先代の15代目はニュルブルクリンクを走り込むなどスポーティ路線を志向したものの、下降曲線を止めることはできなかった。さらにいえば、この先にクラウンを待っているのは、かつてクラウンを愛用した人々のさらなる高齢化と免許返納である。

 小手先の変化では、もうどうしようもない。このまま座して死を待つべきか、イチかバチかの大勝負に出るべきか。トヨタが選んだのは後者だった。冒頭で新型クラウンに対して賛否両論が出ていると書いたが、これはクラウンにとって必ずしも悪いハナシじゃない。昭和オジサンから「ノー」を突きつけられるのは開発陣も予想していたことだろう。むしろそういう反応を見て「ねらいどおり」だと内心ほくそ笑んでいるかもしれない。

 もちろん、トヨタは昭和オジサンを切り捨てたわけじゃない。その証拠に、直線基調の端正なセダンも同時に発表してきた(ほかに2台のSUVも同時発表)。セダンはそのフォルムを見ると明らかに「MIRAI」のストレッチ版であり、燃料電池車の可能性が高い。さらにMIRAIのプラットフォームがレクサス「LS」ベースであることを考えるとハイブリッド版もつくれる。パワートレインについての発表はまだないが、燃料電池版とハイブリッド版の両方をそろえてくる可能性が高いと予想しておく。

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