VAGUE(ヴァーグ)

光と音が織りなす、モデナの夜の祝祭

 北イタリアの小都市「モデナ」。エミリア=ロマーニャ州にある人口18万人ほどの街は、イタリアの高級スポーツカーにゆかりの深い場所であり、周辺も含めて「モーターバレー」と呼ばれることもある地域です。

  • 2025年、マセラティの歴史がまたひとつ動いた

 2025年11月5日〜9日にかけて、そんなモデナの街を舞台に「マセラティ メッカニカ・リーリカ」と題した特別なイベントが開催されました。

 このイベントは“機械工学の精密さ”と“音楽の旋律”というモデナを象徴する2つの文化の融合をたたえるもの。“美”と“感性”を表現しながら、エンジニアリングと芸術が響き合ったのです。

 歴史ある中心街をはじめとするモデナの街が光に包まれ、祝福の舞台となったのはマセラティの象徴である「ヴィアーレ・チロ・メノッティ工場」と「テアトロ・コムナーレ・モデナ・パヴァロッティ=フレーニ劇場」です。11月5日には同劇場でアート、音楽、そしてデザインが融合した壮麗なショーが開幕しました。

  • 「ロッソ・ヴェルート」の「グラントゥーリズモ」がイベントで登場。観客の歓声が一気に会場を包んだ
  • イベントの照明に照らされた「ロッソ・ヴェルート」の「グラントゥーリズモ」

 オペラ「トゥーランドット」の物語とマセラティの象徴であるトライデントの伝説が交錯する舞台が観客を特別な世界へと誘ったのです。

 ハイライトは「誰も寝てはならぬ」の旋律が劇場を包み込み、「Il Suo Nome è Amore(その名は愛)」と歌い上げた瞬間に訪れました。「グラントゥーリズモ」のワンオフモデル「メッカニカ・リーリカ」がそのベールを脱いだのです。

 劇場のイメージにインスパイアされ深赤の「ロッソ・ヴェルート」に彩られた「グラントゥーリズモ」の登場に客席からは大きな歓声があがりました。

  • 「ロッソ・ヴェルート」の「グラントゥーリズモ」がイベントで披露され、マセラティの新章が始まった

 何を隠そう、このイベントはマセラティ「グラントゥーリズモ」と「グランカブリオ」の全モデルの生産が、歴史あるモデナの工場で再び行われるようになったことを記念したもの。そして今回のイベントにおいて、マセラティを象徴するモデルともいえる、「グラントゥーリズモ」と「グランカブリオ」の生産拠点がモデナに戻ってきたことが宣言されました。

モデナの工場へ回帰、原点で生まれる“真のグラントゥーリズモ”

 マセラティは1914年に創業された、イタリアを代表する高級スポーツカーブランド。同社にとってモデナは本社と主要工場を置く本拠地であり、聖地と言ってもいいでしょう。

  • モデナの街角にマセラティがずらり。新旧モデルが並び、色とりどりのボディが映える

 性能とともにそのメーカーのストーリーが重視される高級スポーツカーにおいて、「どこで製造される車両なのか」は重要なポイントです。

 そこでマセラティは、「グラントゥーリズモ」と「グランカブリオ」の生産をそれまで現行世代を生産していたトリノの「ミラフィオーリ工場」から、マセラティの本拠地であり高級スポーツカーにとっての聖地であるモデナへと回帰することにしたのです。

 これは単に生産拠点の変更というだけでなく、ブランドの方向性をより明確にするという狙いを持ったものと受け取っていいでしょう。

  • 新型「グラントゥーリズモ」と「グランカブリオ」の新しい生産ライン開設を祝うテープカットセレモニーが行われた

「グラントゥーリズモ」はマセラティの象徴となるクーペモデル。高性能な走りでありながらも走行性能だけに特化するのではなく、長距離ドライブを楽しむことができる快適性を兼ね備えたツーリングカーです。

 マセラティにとって初の「グランドツアラー」となる「A6 1500」が登場した1947年当時、そのコンセプトは他に例のない画期的なものでした。2007年にはそのコンセプトを車名とした4シータークーペの初代モデルがデビュー。2022年には2代目が登場し、エンジンは490psもしくは550psを発生する排気量3リッターのV型6気筒ターボ。駆動方式はAWDです。

 490ps仕様エンジンを搭載する「グラントゥーリズモ」は0−100km/h加速3.9秒、最高速度302km/h。そして550ps仕様エンジンを積む「グラントゥーリズモ トロフェオ」は0−100km/h加速3.5秒、最高速度320km/hとさらなる速さ。いずれも息をのむような美しいデザインとともに、高性能を具現化しつつ、広い居住空間と快適性によるハイレベルなツーリング性能を併せ持つのが大きな魅力です。

  • 「グラントゥーリズモ」2台と「グランカブリオ」1台が、モデナを象徴するイエローとブルーのカラーで彩られた

「グランカブリオ」は、そんな「グラントゥーリズモ」のルーフを電動開閉式のソフトトップとしたオープンモデルになります。490ps仕様の「グランカブリオ」と550ps仕様の「グランカブリオ トロフェオ」が選べるこちらは、美しいデザインと高い走行性能、そしてハイレベルな快適性に加え、開放的なオープンドライブを楽しめるのがハイライト。より人生を楽しみたい人に向けたモデルと言っていいかもしれません。

伝統と革新を体現する「グラントゥーリズモ」と「グランカブリオ」

 さて、話を再びモデナに戻しましょう。

 モデナは、約90年にわたってマセラティの鼓動を刻み続けてきた街。マセラティの故郷であるだけでなく、マセラティブランドの精神はこの街で生き続け、常に進化を遂げているといっても過言ではありません。

  • モデナの工場で新たな鼓動が始まる。伝統と革新が息づくその場所で、マセラティは再び新しい命を吹き込まれた

 マセラティは1939年にそれまでのボローニャからモデナへと本拠を移しました。そこからマセラティにとってモデナは特別な場所として深い絆で結ばれるようになったのです。

 モデナの工場では自動車史に名を刻む数々の名車が世に送り出されました。1954年と1957年のF1世界選手権で優勝した「250F」や、高性能エンジンを初めてセダンに搭載した「クアトロポルテ」は、マセラティの革新性と技術力を象徴する存在としていまなお伝説は続いています。また新時代の象徴となるスーパースポーツカー「MC20」もここで生産されているのは言うまでもありません。

「グラントゥーリズモ」と「グランカブリオ」の生産が再びこの街へ回帰することとなった2025年は、イタリアの伝統を受け継ぎ、地元モデナをたたえ、マセラティのものづくりの原点がここにあることを再び示す節目の年になったといえるでしょう。

 そして記事冒頭で紹介した「ロッソ・ヴェルート」に彩られた「グラントゥーリズモ」の他にもう1台、「オーロ・リーリコ」が塗られたワンオフモデルがあります。

  • 「グラントゥーリズモ」の限定カラー「ロッソ・ヴェルート」に彩られたワンオフモデル
  • 温かみのある輝かしい色彩効果を生み出す「オーロ・リーリコ」のボディ

「オーロ・リーリコ」は光に照らされると赤みを帯びるシャンパンゴールド。温かみのある光沢と虹色のような輝きを放ち、オペラの伝統的な雰囲気を想起させます。

 21インチの“ブラック”クリオホイールは、ダイヤモンドカットを施し、クリアコート・ペールゴールドのマット仕上げ。モデル名、エンジンロゴ、バッジ類は特別加工され、「グラントゥーリズモ」は“ホワイトゴールドマット”、「グランカブリオ」は“ロッソ・ヴェルート マット”で仕上げられた特別なコーディネートとなっています。

 しかし、この2台のマセラティが特別なのは、内外装のコーディネートだけではありません。

  • サウンドの再設計ではソフトウエアの調整も施され、バルブの動きをより繊細に制御。マセラティ伝統の響きを余すところなく体感できる仕様に

オーナー自らがクルマのスタイリストに

 最後に、マセラティが展開する特別なプログラム「フォーリセリエ」についても触れておきましょう。

「フォーリセリエ」は、マセラティならではのオーダーメード技術を余すところなく体験できるプログラムです。ボディカラーからインテリア素材、細部の装飾に至るまで、あらゆる要素を自由にカスタマイズ可能で、オーナーの感性を体現したスペシャルな1台を作り上げることができるというわけです。

  • ボディカラーからインテリア素材、細部の装飾に至るまで、あらゆる要素を自由にカスタマイズ可能

 ボディカラーやリバリー、ブレーキキャリパー、ホイール、インテリアまで、幅広い組み合わせを自由に選択可能。専任デザイナーのサポートを受けながら、オーナー自らがクルマのスタイリストとなり、理想の一台を作り上げることができます。

 もちろん「フォーリセリエ」は日本からもオーダーできます。

  • モデナでの再始動は、ただの生産拠点再編ではない。マセラティが築いてきた美学と哲学の継承なのだ

「グラントゥーリズモ」と「グランカブリオ」の生産がモデナへと戻ってきたこと。それは単に生産拠点の変更というだけではありません。

 この2台がマセラティにとっていかに重要かを示すとともに、伝統とクラフトマンシップにあふれたこの街においてクルマが作られることによって、特別なクルマであることの意味をより深く感じさせるのではないでしょうか。

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