VAGUE(ヴァーグ)

館内どこからでも環境が感じられる――まさに“風景を翻訳する”という「田んぼの中に建てられたホテル」の魅力とは

水田を「演出しない」設計思想

 宿泊棟と共用部をつなぐ渡り廊下を歩くと、床の揺れが壁面のガラスに伝わり、館内にいながらも外の風や音の気配が感じられる。まるで「風景を翻訳する」かのような建物だ。

 このホテルは、宿泊施設というより「風景を翻訳する装置」に近い。

田園風景を見ながらのライブラリー
田園風景を見ながらのライブラリー

 山形県鶴岡市の田園地帯に位置するスイデンテラスは、宿泊・温泉・レストラン・ライブラリーなどを備えた複合型のホテルである。

 建物は田んぼの中心に据えられ、館内のどこからでも周囲の田園風景と地平線が視界に入り、季節・天候・時間帯の変化がそのまま滞在体験に重なって届く。

 観光のための演出ではなく、土地に身を置くことそのものを感じられるよう設計されている。

 日中は光や視界を遮る要素が徹底して排除され、夜間は建物が田園の暗さに自然に沈み込む。建物よりも、まず環境が感じられるように設計されている。

「建物だけが目立つのではなく、景色の一部として存在することで、訪れる人にこの土地そのものに目を向けてもらえるようにしています」

 そう話すのは、スイデンテラス総支配人・中 弥生さん。

部屋から見える風景
部屋から見える風景

 内部を歩くと、歩行が遅くなり、会話が小さくなる。意識の焦点が「自分」から「外」へ移る。

 コンテンツに触れる前に、建築がすでに「状態」をつくっている。

「スイデンテラス は、時間を過ごす場所としてだけではなく、整う場所でもありたいんです」(中さん)

施設が担っているのは観光ではなく「翻訳」

 鶴岡は、信仰・農・食が重層する土地であり、日本で初めて「ユネスコ食文化創造都市」に選出された(2014年)、世界的な評価を受ける稀有な地域だ。

 しかしスイデンテラスは、この土地の魅力を過剰に説明することはせず、環境と滞在を通じてお客様に自然に感じてもらえることを目指している。

 環境や条件さえ整っていれば、地域が本来持つ魅力は自然に伝わっていく。

 スイデンテラスの地域貢献とは、企画や演出で見せるのではなく、地域の良さを真摯に伝えることにある。

インテリアをながめているだけで癒される
インテリアをながめているだけで癒される

 中さんがスタッフに求めるのは、自然体であること。

 過度な接客演出を削ぎ落とすことで、滞在者に観察する余白が生まれ、同時にスタッフ自身の個性も温度とともに自然に伝わると考えているからだ。

「心からの歓迎があれば、スタッフ一人ひとりの個性を大切にして、お客様に接してほしいんです」(中さん)

“創生”とは語ることではなく、条件を整えること

 スイデンテラスは、お客様の目につく場所での仕掛けは最小限に抑え、建築や導線、情報設計といった“余白”を丁寧に整えることで、鶴岡という土地の魅力を自然に体験へとつなげている。

 しかし、その余白こそが、鶴岡という土地の魅力を自然な形で体験として感じられるようにしている。

本を片手に地域を感じる
本を片手に地域を感じる

 観光地化しないことによって、むしろ強度のある魅力が見える——スイデンテラスはそれを実例として証明していると言えるだろう。

 地方創生は、語る前に“整える”が先。そうすれば土地は自然と伝わるということだろう。

Gallery 【画像】心整うホテル館内の雰囲気を画像で見る(16枚)

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