「グランドセイコーらしさ」って何? 世界が認める“独自デザイン”を決める9項目を知ってる?
世界に誇るデザインを作り上げるために意識した“日本らしさ”
腕時計の歴史は、工業デザイン史とも深く関係する。腕時計が広がり始めた20世紀初頭は、工業製品の大量生産時代の幕開けにも重なる。工場で製品を大量生産するためには、加工しやすい形が求められる。もちろん日用品であれば、それでもかまわない。しかし贅沢品はどうだろうか? 例えば香水の瓶やシガレットケースといった製品は、毎日を豊かにするものなので、どこかに色気や遊びがほしい。いうなれば工業化と芸術性のせめぎ合いである。
工業製品として大量生産しやすく、しかし贅沢品らしい雰囲気も加えるという折衷案から生まれたのが、フランスで生まれた「アール・デコ」というデザイン様式である。このアール・デコが、フランス文化の影響を強く受けているスイスの時計産業に馴染むのは当然であり、贅沢品である腕時計のデザインにも大きな影響を与えることになる。
他方ドイツでは、第一次大戦の敗戦で国内は疲弊していた。そのため優美なデザインにかまける余裕はなく、時計などの贅沢品であってもシンプルな形と機能性を追求した。それが“Form Follows Function =形態は機能に従う”と定義された「機能美」のデザイン様式へと結びつく。
このように腕時計のデザインは、優美さを楽しむアール・デコ(スイス系)と、端正な形状を楽しむ機能美(ドイツ系)という2派が中心となって現代まで継承されている。

ではグランドセイコーは、どういったデザイン哲学を持っているのか?
1960年にデビューした「グランドセイコー」は、まずはスイス時計を意識した。無垢素材を使った美しい仕上げや均質な曲面、そしてしっとりとした鏡面仕上げは、贅沢品らしい美しいオーラがあった。しかし、これではスイス時計に並ぶことはできても、超えることはできない。日本の時計ならではの美意識を表現できないだろうか……。そこで意識したのが、“光と陰”が織りなす美だった。例えば屏風のようにシャープな面と面が組み合うことで生まれる陰影は、まさに日本的美意識も象徴となっている。
独自のデザインコードを築き上げてたどりついた「グランドセイコー」のデザイン
しかし時計という小さくて立体的な製品に、シャープで美しい面を作ることは容易ではない。そこでグランドセイコーが目を付けたのは、スイスのザラツ社(SALLAZ)のポリッシングマシンだった。これは半世紀以上前戦前に購入していた古い機械だったが、この機械を使って下地処理を行うとゆがみのない面が仕上がり、理想的なポリッシュ面が出来上がる。この技術を確立することで、シャープな面構成というグランドセイコー独自のデザインが生まれた。
この独自のデザインは1967年に誕生したの三代目グランドセイコー(通称44GS)によって“完成”し、このデザインを基にして9項目からなる「セイコースタイル」というデザイン文法が生まれた。
列記すると、
①他インデックスの2倍の幅を持つ12時略字
②多面カットの略字
③鏡面研磨されたガラス縁上面
④鏡面研磨されたケース平面
⑤半ばボディに埋まるポジションに収まったりゅうず
⑥フラットなダイアル
⑦多面カットの太い時分針
⑧接線サイドライン
⑨逆斜面ベゼル側面と胴側面
というもの。もちろん全てのモデルが全ての条件を満たしているわけではない。しかし、こうやってデザイン文法を明言することで、時計のイメージをより強固なものとして、グランドセイコーのブランド力を高めていった。
現在のグランドセイコーにも、もちろんセイコースタイルは継承されている。しかしその一方で、50年以上も継承されてきたデザイン文法は、時代に合わせたアップグレードも必要になるだろう。そこで2020年からは、伝統ある「セイコースタイル」を発展させ、使いやすさと美しさをさらに深めた新デザイン文法「エボシューション9スタイル」が、並行して採用されることになった。

これは光と陰を意識した従来のスタイルに加えて光と陰の間にある“中間の美”も意識し、平滑な曲面やヘアライン仕上げといった新しいエレメントを加えるというもの。進化の軸は審美性と視認性、装着性の向上にあり、具体的なデザインコードとしては、
①筋目を主体に鏡面と連ねた多面ケース
②接線サイドライン
③他の2倍以上の幅を持つ12時インデックス
④フラットダイヤル
⑤多面カットを施した長い分針と明確に違う幅広の時針
⑥深い溝を入れた多面的なダイヤカットインデックス
⑦低重心なケース
⑧しっかりした厚さをもたせたブレスレット
⑨ケース径の1/2以上の幅を持つブレスレット」
の9項目。全体的にボリューム感があり、堂々としたプロポーションになっている。
スイスやドイツにも、ウブロやA.ランゲ&ゾーネにように、デザインコードを守ることでブランドのイメージを強く印象付ける戦略をとるブランドがある。グランドセイコーも同様に、独自のデザインコードを守りながら、進化を続けている。変わらぬデザインは安心と信頼の証であり、ブランドの魅力に厚みを作ってくれるのだ。
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