“空気清浄メーカー”の先へ――ブルーエアが“エアウェルネス”ブランドに進化した本当の理由とは【家電で読み解く新時代|Case.26】
ブルーエアが“エアウェルネス”に進化した本当の理由
起業家であり、家電スペシャリストでもある滝田勝紀氏が、連載「家電で読み解く新時代」と題してテクノロジーの奥に潜む“時代の空気”を紐解きます。今回取り上げるのは、スウェーデン発の空気清浄機ブランド「ブルーエア」だ。
アフターコロナの世界で、空気の価値は単なる「清浄」の領域を超えつつある。ブルーエアの日本総代理店であるセールス・オンデマンド(SODC)室﨑肇社長は、その変化を最前線で体感してきた一人だ。
同社が「エアウェルネスブランド」への進化を宣言してから1年——ブランドは何を手に入れ、どこへ向かおうとしているのか。

“空気清浄機専業”からの脱却——わずか一年で8製品を投入できた理由
長い間、ブルーエアといえば「空気清浄機の専門ブランド」というイメージが支配的だった。北欧らしいミニマルデザインと、静電気×メカニカルフィルターを組み合わせた独自のHEPASilent®テクノロジー。
粒子除去性能の高さは世界的に評価され、専門カテゴリーの象徴的存在といっても過言ではない。だが、この1年でブルーエアはその「専業性」すら手放した。室﨑社長は語る。
「従来は2〜3年に1機種、単機能の空気清浄機をローンチするだけでした。しかしエアウェルネスを掲げてからの1年間だけで、加湿空気清浄機、ペット向けモデル、加湿器、ヒーター・ファン付きを含む“8製品”を投入しました」
単なる新製品ラッシュではない。背景にはコロナ禍による価値観の再定義がある。筆者自身、家電スペシャリストとして、これまで多くの世界的メーカーを取材してきたなかで、「空気」という無形資産がここまで生活の中心に浮上した時代を見たことがない。
人々は単に“汚れた空気をきれいにする”だけではなく、季節変動・ストレス・睡眠といった生活行動との関係性に目を向け始めた。
空間そのものを“整える”ことがQOLの中心になる——ブルーエアはその変化を最も敏感に捉えた企業の一つだ。だからこそ、この1年のスピードは必然だった。
機能軸は「清浄」から「清浄+湿度+温度+睡眠」という多層構造へと拡張された。これは“製品の種類が増えた”というレベルの話ではない。ブルーエアが“空気清浄の会社”から、“生活空気を最適化する会社”へと生まれ変わった瞬間なのである。

ユニリーバ傘下で起きた“グローバル化”と、日本市場での葛藤
ブルーエアは2016年12月にユニリーバ傘下に入った。その結果、スウェーデン本社の影響力が薄れ、現在はアメリカがグローバル戦略の舵を握るようになった。
ブランドの中心インテリジェンスが、北欧の牧歌的な空気から、よりスピーディでマーケティングドリブンなアプローチへと変化しつつある。室﨑社長は、この変化を冷静に見つめている。
「体制変化そのものは日本市場に直接影響はありません。しかしユニリーバ傘下に入ったことで、研究開発力、マーケティング力が強化されたのは間違いありません」と語る。
一方で、日本市場ならではの特有の課題も浮かび上がってくる。日本は世界でも稀に見る“空気が比較的キレイな国”だ。
しかし花粉症、ウイルス感染への意識が非常に高く、しかも生活空間は欧米と比べてコンパクト。つまり、単にグローバルプロダクトを輸入するだけでは通用しない。室﨑氏はこう続ける。
「日本の住環境に合わせた加湿空気清浄機の必要性は、何年も前からブルーエアに提案してきました」
グローバルブランドでありながら、日本は“例外扱い”されやすい。法制の違いにより、海外で武器となるメッセージは、日本ではそのまま使えないことも多々ある。クリエイティブの人物像や部屋の雰囲気まで異なるため、素材そのものを別撮りする必要がある。
それでも日本のローカライズ戦略はアジア圏で評価され、周辺国が日本のクリエイティブを採用するほど完成度が高い。ブルーエアの成長は、実はこの“例外市場の成功”が支えている。
筆者はここが非常に興味深いと感じる。グローバルブランドにおける日本市場の意味は、単なる販売拠点ではなく——マーケティングの優良事例としての価値を持ち始めているのだ。
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