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メカメカしさが最高! 機械式でもクォーツでもない腕時計!? 「音叉」が再び時を刻む “アキュトロン”復活の真意とは【The Interview】

音叉が変えた“時間の常識”──1960年の革命とアキュトロンの誕生

 1960年、機械式時計が絶対的な主流だった時代に、「アキュトロン」は時計史を根底から揺るがす存在として登場しました。それが、世界初の電子式音叉腕時計「アキュトロン」です。

 そして2026年1月、ついに正当な後継機として復活を果たすのが「チューニングフォーク スペースビュー 314」です。今回はマーケティング・ディレクターのマイケル・ベナベンテ氏にインタビューを行い、その歴史と新作への思いを聞いてみました。

 まずは1960年のオリジナルから振り返ります。

 従来の機械式時計がテンプの往復運動によって時を刻んでいたのに対し、アキュトロンは電流で駆動される金属製の音叉を振動させ、その周期で時間を制御するという、まったく新しい発想を採用しました。
音叉は360Hzで振動し、これは1秒間に360回という極めて安定した振動数です。その結果、当時としては驚異的な高精度を実現しました。

 この構造が生み出したのが、ほとんど止まることなく進むスイープ運針と、耳を澄ませばわずかに聞こえる“#Fのハム音”です。精度を視覚と聴覚の両方で体感できる時計は、当時としては極めて異質な存在でした。

ついに音叉時計として復活を果たす「チューニングフォーク スペースビュー 314」
ついに音叉時計として復活を果たす「チューニングフォーク スペースビュー 314」

 マイケル・ベナベンテ氏は、この革新を次のように語ります。

「アキュトロンは、300年以上変わらなかった時間計測の常識を一変させました。音叉の振動が、比類なき精度と信頼性を生んだのです」

 その高精度と信頼性は、腕時計という枠を超えて評価されました。

 航空機の計器や軍用用途、さらにはNASAの宇宙開発計画における計時装置としても採用され、アキュトロンは“電子時計の象徴”として確固たる地位を築いていきます。

 さらに象徴的だったのが、内部構造をあえて露出させた「スペースビュー」です。グリーンの基板、コッパー色のコイル、音叉そのものをデザインとして成立させたこのモデルは、機能そのものを美へと昇華した存在として、今なお語り継がれています。

ブローバ、マーケティング・ディレクターのマイケル・ベナベンテ氏
ブローバ、マーケティング・ディレクターのマイケル・ベナベンテ氏

革新はどこへ向かったのか──静電誘導、そして“真の音叉”復活へ

 アキュトロンの革新は、1960年で終わったわけではありません。むしろその後、大きな転換を経て、現在へとつながっています。その歴史を簡単に振り返りましょう。

 2020年、アキュトロンは「静電誘導ムーブメント」を搭載した新生モデルを発表します。腕の動きによってツインタービンが高速回転し、静電誘導で発電かつ駆動するという世界初の仕組みでした。

 それが「アキュトロン スペースビュー 2020」と「アキュトロン DNA」の2モデルです。

「アキュトロン スペースビュー 2020」
「アキュトロン スペースビュー 2020」

 これは音叉式とはまったく異なるアプローチですが、「電子の力で、機械式とは異なる精度と体験を生む」という点では、初代アキュトロンの思想を現代的に解釈したものだったと言えます。

 マイケル氏は当時をこう振り返ります。

「静電誘導は、アキュトロンの革新性を現代に示すための重要な一歩でした。ただ同時に、音叉こそがアキュトロンの核であることも、より明確になったのです」

 そして2026年、アキュトロンは再び音叉式ムーブメントへと立ち返ります。ここで重要なのは、今回のモデルが単なる1960年代の単純な再現ではないという点です。

 オリジナルモデルは、当時の技術的制約の中で生まれた実験的な側面も強く、耐久性や素材、仕上げには“時代なり”の限界がありました。

 一方、復活モデルでは以下の点が明確にアップデートされています。ケース素材には904Lステンレススチールと、Grade5のチタンを採用し、耐食性と質感を向上。ケース径は39mm、厚さ13.4mm(チタンモデルは13.25mm)と、現代の腕に合うバランスに再設計したほか、ドーム型サファイアガラスを採用し、当時の立体感と現代的な耐傷性を両立。

 重量は約60g(チタンモデルは約52g)と軽量で日常使いを意識した設計となっており、ストラップは牛革とし、ツールではなく“精密機器”としての立ち位置を明確化しています。

 一方で、防水性能は3気圧防水に留められています。これは実用性を犠牲にしたのではなく、音叉ムーブメントの構造美と繊細さを優先した結果だと考えられます。

「アキュトロン DNA」
「アキュトロン DNA」

 マイケル氏は、今回の復活を次のように位置づけています。

「今回の音叉式ムーブメントは、アキュトロンの本質を取り戻すプロジェクトでした。静電誘導を経たことで、ようやく音叉に戻る準備が整ったのです」

 今回の音叉式アキュトロン復活は、10年もの開発期間を要しました。その背景には、単なる技術ではなく“作り手の喪失”という問題がありました。

「音叉時計を作れる技術者は、世界中でほとんど残っていませんでした。今回のプロジェクトは、技術の再発見であり、文化の継承でもあったのです」

 音叉の重量バランスを1ミクロン単位で調整する工程、超微細歯車の再現など、60年前の技術は途絶えかけていました。復活とは、“失われた知識を、現代の技術で蘇らせる”極めて挑戦的なプロジェクトだったのです。

未来へつながる技術とブランド戦略──アキュトロンという選択

 また今回のアキュトロン復活の背景には、明確なブランド戦略があります。本年、創業150年を迎えたブローバですが、時代の移り変わりからスマートウォッチが当たり前となった今、アメリカの若い世代の間では“デジタル疲れ”を抱えているそうです。

 その点について、マイケル氏はこう語ります。

「アップルウォッチやスマートフォン、SNSやさまざまなオンラインコンテンツなどが氾濫し、20代の若者はデジタルに疲れています。そんな彼らが求めているのは、“実際に体験できるアナログ”なのです」

牛革ストラップは2種類。ケースもSSとチタンの2種類になる
牛革ストラップは2種類。ケースもSSとチタンの2種類になる

 音叉が奏でる微かな振動音、止まらずに流れる秒針、視覚的に理解できる内部構造。アキュトロンは、時間を“見る”だけでなく、“感じる”時計です。

 音叉式アキュトロンは、量産効率や合理性とは真逆の存在です。それでも復活させた理由について、マイケル氏はこう断言します。

「アキュトロンはブローバの象徴です。この技術を失うことは、ブランドの未来を失うことと同じです」

 アキュトロンは過去の遺産ではなく、“未来へ受け継がれるべき文化”として、新たな時を刻み始めていくのでしょう。

製品詳細
「アキュトロン チューニングフォーク スペースビュー314」
価格(消費税込):26A211、26A212/99万円、26A213/102万3000円
ムーブメント:音叉(360Hz)
ケース素材:ステンレススチール(904L)/26A213 はチタン(Grade5)

ストラップ素材:牛革ストラップ
ケース径:39mm
ケース厚:13.4mm/26A213 は13.25mm
ガラス素材:ドーム型サファイアガラス
防水性:3気圧防水
重量:約60.73g
発売日:1月下旬発売予定、
取扱店舗:3店舗限定販売【CITIZEN FLAGSHIP STORE TOKYO/ CITIZEN FLAGSHIP STORE OSAKA/ BULOVA公式オンラインストア】

Gallery 【画像】えっ…メカメカしててカッコいい「アキュトロン」新旧比較を画像で見る(12枚)
「カチッ」と日常をオフに。至福の時を刻む、マインドフルネス
三宅隆
三宅隆
VAGUE編集長
1978年大分県生まれ。ライフスタイル誌等の編集部を経てWebメディア『VAGUE』編集長に就任。スイスで行われる世界最大の時計見本市「Watches & Wonders Geneva」を取材するなど、腕時計からモビリティ、最新家電、アウトドアまで大人の審美眼にかなうモノを幅広く追究。自らもキックボクシング歴17年の非常勤インストラクター(KNOCK OUT GYM)として活動し、ビジネスパーソンにウェルネスを提唱。「自分らしく輝く」ために自らをデザインする前向きな生き方の基準として、心身を整える実践者の視点を交え、自分らしい豊かさへの指針を発信中。

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