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住まいの「小さな快適」が人生を変える——リクシル 2026年ブランドメッセージに読む、暮らしデザインの新潮流【家電で読み解く新時代|Case.40】

「愛すべき日常を、つくろう。」は、なぜ今だったのか

 住宅に関わる膨大な要素を持つLIXIL(リクシル)だが、新戦略発表会で語られた主役は個々の製品分野についてではなかった。それらがつながった先にある暮らし全体を見据え、空間と時間をデザインすることで、住まいの理想を形にしていくブランドへと自らを位置づけ直した。

 その生活者向けの言葉として掲げたのが、「愛すべき日常を、つくろう。」である。この背景について、羽賀氏はまずLIXILという会社の成り立ちから説明した。

「LIXILという会社は窓も、キッチンも、トイレも、浴室もエクステリアも、住宅に関するいろんな建材や設備を総合的に取り扱っている会社なんです。そこでLIXILが世の中に何を伝えていくべきか、もう一回考え直しました」

 個々の製品の完成度は、以前から質が高かった。だが羽賀氏は、それだけでは十分ではなかったと語る。

「1個1個の製品は専門性を追求しています。そして、それを組み合わせた時の価値提供も行ってきました。でも、それがちゃんと伝わっていない。

 LIXILのブランドとして総合的な『住体験価値』を創造することで、より豊かな暮らしを提供していくことがLIXILの企業価値だと考えたんです」

 つまり今回LIXILが行ったのは方向転換というより、本来持っていた強みの再言語化だ。窓やキッチンやトイレを個別に売る会社ではなく、それらを統合し、住体験そのものをつくる会社へと、自らを定義し直したのである。

羽賀豊(はが ゆたか)氏。LIXIL 常務役員 Design & Brand Japan
羽賀豊(はが ゆたか)氏。LIXIL 常務役員 Design & Brand Japan

「製品は前提」の先に見えてきたもの

 この考え方は、筆者が普段取材している家電の世界にも通じる。技術が成熟するほど性能差は見えにくくなり、最後に問われるのは、その製品が暮らしの中でどんな意味を持つのか、という点だ。羽賀氏も、その認識を明確に持っていた。

「美しくて、便利で、長持ちする。それは前提なんですよね。その上で次に何をやるべきかと考えた時に、やっぱり日々の暮らしをどう良くしていくかという話になるんです」

 興味深いのは、LIXILが“製品の会社”であることを否定していないことだ。むしろ製品の完成度の高さを前提にした上で、その先の価値として「日常」を見ている。

 発表会でもLIXILは設備や建材を個別の点ではなく、空間全体、さらに時間の流れの中で作用するものとして捉える必要性を語っていた。羽賀氏はそれをこう言い換える。

「住宅は最も接触回数が多くて、使う期間も長いんですよ。毎日触って、ずっと一緒にいる。だから、そこが良くなることが暮らしを良くすることだし、それが人生の充実にもつながる。そんな考え方から、『愛すべき日常を、つくろう。』というメッセージになっています」

 この言葉を聞いて、今回の戦略の輪郭が見えてきた。LIXILがつくろうとしているのは、家そのものではなく、その中で積み重なっていく日々の体験なのだ。

木目の揺らぎや素材感を活かしたデザインスタイル「COMFORT GRAIN」。均一ではない“自然さ”を意図的に設計し、居心地の良さを生み出している
木目の揺らぎや素材感を活かしたデザインスタイル「COMFORT GRAIN」。均一ではない“自然さ”を意図的に設計し、居心地の良さを生み出している

「日常」を掲げたのは、住まいが"一瞬"ではないから

「空間」だけでなく「時間」もデザインする。最初は少し抽象的にも聞こえたが、羽賀氏の説明はきわめて具体的だった。

「愛すべき日常とか、充実した日常をつくろうと考えると、ワンショットじゃ意味がないんですよね。暮らしは日常の蓄積でできていて、それが人生だと思うので。一瞬だけを捉まえて『いいでしょ?』と言ってもダメなんです」

 この感覚は、住まいを考えるうえで重要だ。家はクルマやスマートフォンのように短い周期で買い替えるものではない。

 子どもの成長や家族構成の変化、働き方や好みの変化を受け止めながら、長く付き合っていく存在である。羽賀氏も、自身の暮らしに重ねるようにこう続ける。

「ライフステージが変わると、家に求めるものも変わるんですよ。我が家も子どもが独立したので、その部屋をどう使おうという話になるし、若い頃とはインテリアの好みも変わる。だから、ずっとエンドユーザーに寄り添っていこうということなんです」

 発表会で建築家たちが語っていたのも、まさにその変化だった。コロナ禍を経て、外とつながる場所や適度な余白、仕事も休息も受け止める柔軟さが住まいに求められるようになった。

 LIXILが時間を語り始めたのは、こうした成熟社会のリアリティと向き合い始めたからだろう。

建築家とのトークセッションでは、コロナ以降の住まいに求められる「余白」や「外とのつながり」が議論された。LIXILの思想と建築的視点が交差する場となった
建築家とのトークセッションでは、コロナ以降の住まいに求められる「余白」や「外とのつながり」が議論された。LIXILの思想と建築的視点が交差する場となった

小さな快適の累積が、暮らしの質を変えていく

 今回のインタビューで特に印象に残ったのは、羽賀氏が繰り返し語っていた「小さな快適の累積」という考え方だった。

 そこで軸になっているのが、「Lifescape」(暮らしの情景)をデザインするという考え方だ。本来「人生の風景」を意味するLifescapeに、空間と時間のデザインを掛け合わせ、「愛すべき日常(住体験)」を創り出すことをLIXILの新たな価値としている。

 窓や床、光や風、素材や使い心地といった無数の要素が重なり合い、日々の“暮らしの情景”を形づくっていく。

「Lifescapeは、いろいろな要素の積み重ねなんですよね。料理しやすいとか、収納しやすいとか、汚れがつきにくいとか、掃除しやすいとか、取っ手の使い心地がいいとか。1個1個の要素は小さいんですよ。でも、その小さいプラスアルファの累積が、暮らしを豊かにしていくんです」

 発表会で羽賀氏がドアハンドルの話をしていた時、筆者はそこまで追求するのかと驚いた。見た目だけでなく、触感や丸み、引いた時の気持ちよさまで含めて設計しているという。

木目や素材の揺らぎを取り入れたリビング。均一ではない表情が、過度な緊張感を排し、自然な居心地を生み出す。屋内外をゆるやかにつなぎながら、人の気配を感じつつ過ごせる空間提案だ
木目や素材の揺らぎを取り入れたリビング。均一ではない表情が、過度な緊張感を排し、自然な居心地を生み出す。屋内外をゆるやかにつなぎながら、人の気配を感じつつ過ごせる空間提案だ

「ハンドルは毎日、何回も触るじゃないですか。そこで小さなストレスを感じるのか、毎日ちょっと心地よさを感じるのかで、そのどちらの累積かで、全然違ってくると思うんですよね。

 だから、感性工学的なこともやっていて、どういう重さだと気持ちよく感じるか、どういう感触だといいか、そういうのも定量化しているんです」

 さらに羽賀氏は、外構照明の点灯や消灯の仕方まで設計していると話す。

「『パッ』と無機質に点灯するんじゃなくて、『ほわっ』と出迎えるように点灯する。消える時も、余韻がある感じで消える。住んでいる人だけじゃなくて、近所の人から見た時の街並みまで含めて考えているんです」

 ここから見えてくるのは、LIXILが追求しているのが設備のスペックではなく、“気分の設計”だということだ。しかもそれを感覚だけに頼らず、工業製品として再現できる形に落とし込んでいる。そこにメーカーとしての強さがある。

極限までノイズを排したカーポートSC。人感センサーによる点灯・消灯の“速度”や“余韻”まで設計し、帰宅時の安心感や街並みの印象にまで配慮している。展示空間全体を通じて示されたのは、「主張するデザイン」ではなく「暮らしを支える背景」としてのデザインだ。そうした思想が一貫して、住体験の質を底上げしている
極限までノイズを排したカーポートSC。人感センサーによる点灯・消灯の“速度”や“余韻”まで設計し、帰宅時の安心感や街並みの印象にまで配慮している。展示空間全体を通じて示されたのは、「主張するデザイン」ではなく「暮らしを支える背景」としてのデザインだ。そうした思想が一貫して、住体験の質を底上げしている

主役ではなく、暮らしを支える「背景」としてのデザイン

 デザインの話になると、どうしても目を引くかっこよさや強い記号性に寄りがちだ。だが羽賀氏が見ていたのは、そうした方向とは少し違っていた。

「LIXILの製品は、高級スポーツカーみたいに『どうだ!』って主張するタイプじゃないんですよね。壁だったり床だったり窓だったり、ある種、背景とか環境を提供している。そこから暮らしを良くしていくのが、うちの製品だと思っています」

 この「背景」という言い方は腑に落ちた。窓や床やドアを意識して暮らす人は少ないが、その質が少しずつ居心地を決めている。

 住まいもまた、背景の質が日常の質を左右するのだ。そのうえで羽賀氏は、生活空間に必要なのは派手な主張より自然さだと語る。

「生活の場合は、そこまでの緊張感はいらないんですよ。むしろ自然な揺らぎみたいなものがあった方がいい。自然界というのはパターン化されすぎてないじゃないですか。

 そういう不規則さとか、ちょっとしたムラとかがある方が、人間は居心地いいんじゃないかなって思うんです」

 発表会で展示されていた木目のフェンスやタイル、床材が均一に整いすぎず、少し自然の揺らぎを感じさせたのも、まさにそのためだった。あれは単なる意匠ではなく、居心地のためのデザインなのである。

羽賀氏が語る「愛すべき日常」を象徴する一枚。猫がおなかを出して寝転ぶ光景は、空間・光・時間が重なり合う“Lifescape(暮らしの情景)”そのものだ。こうした日常の積み重ねこそが暮らしの質をつくる。LIXILが掲げる「愛すべき日常」は、まさにこうした瞬間を指している
羽賀氏が語る「愛すべき日常」を象徴する一枚。猫がおなかを出して寝転ぶ光景は、空間・光・時間が重なり合う“Lifescape(暮らしの情景)”そのものだ。こうした日常の積み重ねこそが暮らしの質をつくる。LIXILが掲げる「愛すべき日常」は、まさにこうした瞬間を指している

「つくろう」は、押し付けではなく、一緒につくるということ

 今回のメッセージで最後に腹落ちしたのは、「つくろう」という言葉の意味だった。企業のスローガンは、一方向の宣言になりがちだ。だがLIXILは「愛すべき日常を、つくろう。」と言う。そこには企業の意思だけでなく、生活者への呼びかけも込められている。

「『つくろう』っていうのは、1つはメーカーとしてそういうものをつくっていくという意味があります。でももう1つは、皆さんもそういう日常を一緒につくっていきませんか、っていう問いかけなんです。

 だから『つくります』じゃなくて、『つくろう』なんですよね」

 住まいは、メーカーだけで完成するものではない。設計する人がいて、選ぶ人がいて、住む人がいて、時間をかけてその家の空気ができていく。だからLIXILは、自分たちの役割を押し付けるのではなく、住む人の側にも主語を残したのだ。

 この話を聞きながら、今回のブランド戦略は単なるメッセージの刷新ではないと感じた。LIXILは、住宅建材・設備を提供する会社から、Lifescapeという日常の暮らしの情景を一緒につくる会社へと、自らの役割を言い換えたのである。

「愛すべき日常を、つくろう。」というメッセージの前に立つ羽賀氏。設備ではなく、暮らしの体験そのものをつくるというLIXILの新たな立ち位置が象徴されている
「愛すべき日常を、つくろう。」というメッセージの前に立つ羽賀氏。設備ではなく、暮らしの体験そのものをつくるというLIXILの新たな立ち位置が象徴されている

 住まいは毎日そこにあるのに、意外なほど意識されない。だが、扉を開け、光を受け、風を通し、くつろぐ、その無意識の質こそが日々の満足度を左右している。

「日常も大事ということなんです。忘れがちだけど、そこにちゃんと寄り添いますよという宣言なんです」

 その言葉が、今回の戦略を最も端的に表していた。LIXILが「愛すべき日常を、つくろう。」と掲げた理由は明快だ。住まいの価値は設備のスペックだけでは測れない。

 日々の小さな快適の累積こそが、暮らしを支え、人生の質を変えていく。その事実に、LIXILは改めて光を当てようとしている。

Gallery 【画像】羽賀氏が語る「愛すべき日常」を写真で見る(14枚)
「カチッ」と日常をオフに。至福の時を刻む、マインドフルネス
滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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