高級時計に“100年の歴史”は必要なのか? “四角の中に丸”を磨き続けたベル&ロスが30余年で築いた「デザインという資産」
老舗でも、巨大グループ傘下でもない
高級機械式時計の世界では、「時間の蓄積」そのものが価値になります。100年以上続くブランドの歴史、世代を超えて磨かれた時計製造技術、プロフェッショナルの現場で積み重ねた実績。さらに現在では、LVMHやリシュモンのように複数の高級ブランドを擁する巨大グループの資本力やネットワークも、ブランドの成長を支える大きな要素です。
ところが、ベル&ロスは1994年創業。高級時計界ではまだ30余年という若いブランドです。1998年以降はシャネルが少数株主として資本面から支えてきましたが、LVMHやリシュモンのような巨大時計グループの一ブランドという立ち位置ではありません。
それでも現在、「四角の中に丸」というケースを見れば、時計好きならベル&ロスを思い浮かべるほどの存在感を築いています。長い歴史を持たない新興ブランドが、なぜこれほど短期間で高級時計の世界に居場所をつくれたのでしょうか。
ベル&ロス ジャパン代表取締役 マネージングディレクターのフランク・ダルデンさんに、その理由を聞きました。

航空機には「飾り」がない
ベル&ロスの歴史は1994年、カルロス・ロシロとブルーノ・ベラミッシュというふたりの創業者によって始まりました。時計はスイスで製造し、デザインの拠点はパリ。創業当初から強く意識してきたのが、過酷な環境で働くプロフェッショナルのための“計器”としての時計です。
現在のベル&ロスを象徴するスクエアデザインの原点にも、航空機のコックピットがあります。

フランクさんは、その発想について次のように説明します。
「航空機には、すべてのパーツに意味があります。かわいく見せるためのものや、飾りのためにつけられたものは必要ありません。だから、とてもピュアなデザインなんです。もちろん後には、さまざまなプロフェッショナルとのパートナーシップも生まれましたが、ベル&ロスの原点にあるのは、まずそうしたデザインの考え方でした」
つまり、ベル&ロスは単に“ミリタリー風の時計”を作ろうとしたわけではありません。機能のために必要なものだけを残す。その結果として生まれる造形そのものに、美しさを見いだしたのです。
共同創業者でデザインを担うブルーノ・ベラミッシュは、他ブランドを模倣するのではなく、自分たち独自のデザインを生み出すことにこだわってきたといいます。その姿勢は時計だけでなく、広告やブティックなど、ブランドに触れるあらゆる場所に通底しています。
一本の時計をデザインするのではなく、ブランドそのものをデザインする。創業から30余年という若いブランドにもかかわらず、ベル&ロスが明確な存在感を持つ理由が、少しずつ見えてきます。

スマホの登場によって、腕時計はむしろ“自由”になった
ベル&ロスにとって大きな転機となったのが、2005年に誕生した「BR-01」です。航空機の計器をそのまま腕時計へと落とし込んだような大胆なスクエアケースによって、「四角の中に丸」という現在まで続くデザインコードが確立されました。
しかし、プロフェッショナルの要求に応える時計は、ベル&ロスだけではありません。高度な技術や堅牢性を誇るブランドも数多く存在します。では、なぜこれほど個性的な“形”が、高級時計の世界で受け入れられたのでしょうか。
フランクさんの答えは、とても興味深いものでした。

「少し不思議な考え方かもしれませんが、携帯電話が普及したことで、時計は“時間を見るために絶対に必要なもの”ではなくなりました。だからこそ、腕時計は時間を知るための道具以上に、自分らしさを表現するツールとなりました。丸い時計である必然性は薄れ、むしろ時計の“形”そのものが個性を語る大切な要素になったのだと思います」
確かに、時刻を確認するだけならスマートフォンで十分です。かつて腕時計が担っていた「正確な時間を知る」という実用品としての役割は、以前ほど絶対的なものではなくなりました。
しかし、それは腕時計の価値が失われたということではありません。むしろ、時間を知るという機能から解放されたことで、私たちは以前より自由に時計を選べるようになったともいえます。
機械の仕組みを楽しむ。ブランドの歴史に惹かれる。ファッションとして身につける。そして、自分が美しいと思う“形”を選ぶ。腕時計が必需品ではなくなったからこそ、「なぜ、その時計を選ぶのか」が以前よりも重要になったのです。
ベル&ロスが成功したのは、腕時計が必要だったからではない。むしろ、腕時計が必要ではなくなった時代が来たからなのかもしれません。
「BR-03」と「BR-05」──ひとつのアイコンから広がったふたつの世界
現在のベル&ロスを理解するうえで欠かせないのが、「プロフェッショナル」と「アーバン」というふたつの世界です。
前者を象徴するのが「BR-03」。BR-01から受け継いだスクエアケースと航空計器のDNAを、現在へとつないできたブランドの中心的なコレクションです。
一方、2019年に登場した「BR-05」は、「四角の中に丸」というデザインコードを受け継ぎながら、ケースとブレスレットが連続する都会的なスタイルへと進化しました。

日本市場では、BR-03系とBR-05系が大きなふたつの柱になっているそうです。とはいえ、「ベル&ロスのアイコンはBR-03とBR-05のふたつですか?」と尋ねると、フランクさんからは少し違う答えが返ってきました。
「私の解釈としては、厳密にはブランドのアイコンはひとつです。BR-05は、BR-03から発展したデザインであり、同じデザインコードを異なるかたちで表現したコレクションだと考えています」
ここがベル&ロスの面白いところです。BR-05は、まったく別のヒットモデルを作るためにブランドの個性を捨てた時計ではありません。むしろ、ひとつの強烈なアイコンを“プロフェッショナルからアーバンへ”と拡張したモデルなのです。
日本でBR-05が支持されている背景について、フランクさんは服装の変化にも注目しています。ネクタイやスーツが中心だったビジネススタイルは、カットソーにセットアップを合わせるような、オンとオフの境界が曖昧なものへと変化しました。そんな時代に、スポーティさと上品さを併せ持つBR-05が自然にフィットしたというのです。
トレンドよりも、“そのブランドらしさ”が選ばれる
近年の時計業界では、小径化がひとつの大きなトレンドになっています。ベル&ロスも36mmのBR-05をはじめ、よりコンパクトな選択肢を広げてきました。
ところが、実際の販売現場では単純に「小さい時計だけが売れる」というわけでもないそうです。むしろ40〜41mm前後の、ブランドの個性がよりはっきり出るモデルにも強い支持があるといいます。
「今は、市場全体が成熟するなかで、各ブランドの個性がこれまで以上に問われているように感じます。時計はお客さまにとって大切な買い物です。だからこそ、そのブランドの本質を体現するものや、アイコニックなデザインに興味が向いているのではないでしょうか」
「最近このサイズが流行っている」「今年はこの色が人気だ」といったトレンドだけでなく、そのブランドでなければ手に入らないものを選びたい。高級時計を買うという行為が、より自分自身の価値観を表すものになっているのかもしれません。
ベル&ロスには、100年を超える歴史はありません。しかし「四角の中に丸」という同じデザインコードを20年以上磨き続けてきたことで、“形の記憶”をつくりました。長い歴史の代わりに、ひと目でブランドを想起させるアイコンを育ててきたともいえるでしょう。
「空」から「陸」へ──ディフェンダーとの共鳴
ベル&ロスのプロフェッショナルという思想は、航空の世界だけにとどまりません。2026年には、世界ラリーレイド選手権(W2RC)に参戦する「Defender Rally」のオフィシャル・タイミング・パートナーに就任。チームには「BR-X3 Black Titanium」が提供されています。
航空機のコックピットから、荒野を駆けるラリーマシンへ。一見異なる世界ですが、両者には「機能から形が生まれる」という共通点があります。

フランクさんも、自動車の世界との取り組みが、ベル&ロスのクリエイションに新しい刺激を与えていると話します。
「こういうパートナーシップは、いつも面白いです。クルマの世界と取り組むことで、新しい色を使ったり、新しいアイデアが生まれたりする。クリエイティビティも広がっていきます」
クルマ好きに薦めたい時計として話題に上がったのも、BR-X3でした。多層構造のケース、計器を思わせるダイヤル、そしてメカニズムそのものを感じさせる構成。エンジンルームやメーターを眺めることに心を動かされる人なら、この時計にも同じ種類の魅力を感じるかもしれません。
30余年でつくったのは、“形の記憶”だった
腕時計とは、何のための道具なのでしょうか。かつてなら、その答えは明快でした。時間を知るためです。
しかしスマートフォンがその役割を引き受けた現在、腕時計には別の意味が生まれています。機械の動きを楽しむ。歴史を身につける。ファッションとして楽しむ。そして、自分が美しいと思うデザインを選ぶ。
ベル&ロスは100年以上の歴史を持つブランドではありません。巨大時計グループの一ブランドでもありません。一方で、スイス時計製造の伝統とプロフェッショナルツールへの思想を土台にしながら、「四角の中に丸」という自分たちだけの形を磨き続けてきました。
長い歴史そのものを競うのではなく、デザインによって“ベル&ロスらしさ”を蓄積する。その結果、30余年という時間でも、ひと目で認識できるアイコンをつくることができたのでしょう。
VAGUEからのオススメ
前作超え感じさせる“ロケット級”の飛び実現へ! 新スリクソン「ZXi RKT」ドライバー4モデルの実力を試してみた【PR】
