キャデラックの歴史、それはデザインと技術の“革新の歴史”
アメリカの高級車ブランド「キャデラック」に対し、あなたはどんなイメージを抱いているだろう? 大きなボディ、押し出しの強いフロントマスク、大排気量のV8エンジン……。確かにそうした個性も、キャデラックの認知度を高めているのは間違いない。
しかし、その歴史をひも解くと、それらはキャデラックの魅力を示す要素の一端でしかないことに気づかされる。2022年に創業120周年を迎えたキャデラックの歴史は、時代を先取りした革新的デザインの歴史であり、たゆまぬ技術革新の歴史でもある。そんな革新の歴史を知るほどに、なぜキャデラックが120年もの間、人々に支持されてきたのか、その理由が見えてくる。
●カーデザインの常識を変えた飽くなきチャレンジ
確固たる自動車文化が確立されているアメリカにおいて、ラグジュアリーカーブランドの頂点に君臨してきたキャデラックは、1902年の創業以来、きらびやかな輝きを放つ憧れの存在であり続けてきた。なかでもそのデザインは、とかく保守的で退屈になりがちな高級車のそれとは思えないほど、いつの時代も先進的だ。
そんなキャデラックのデザインを語る上で外せないモデルといえるのが、1937年型「フェートン」だろう。オーナーが多彩なオプションを選んで仕立てるオーダーメイドモデルであり、V16エンジンを搭載するなど技術面でもデザイン面でも豪勢なモデルだった。しかし、当時は世界的不況にあえいでいた大恐慌時代。そのためこのモデルを手に入れられる人はいなかった。
しかし数十年後、そんなフェートンのデザインが再評価されることになる。著名なレストアラーとコーチビルダーがオリジナル図面を基にゼロから復活させたフェートンは、ペブルビーチ・コンクール・デレガンスでベストインクラスに輝くなど、デザイン面で高い評価を獲得する。何物にも似ていないその個性的ルックスは、現代のキャデラックのデザインチームにも強い刺激を与えている。
世界中の人々が、キャデラックの優れたデザイン力を意識することになったエレメントといえば、1948年に導入された“テールフィン”だろう。それは、第二次世界大戦時の戦闘機“ロッキードP38ライトニング”をイメージしたインパクトある造形で、1950年代のアメリカ車を代表するデザインとなったことはあまりにも有名。テールフィンに魅了され、アメ車ファンになった人も少なくないはずだ。
さらに往年のキャデラックは、印象に残るデザインにより映画の劇中プロップとしてしばしばスクリーンをわかせてきた。なかでも、2018年の映画『ワイルドライフ』に登場したピンクの1949年型「クーペ ドゥビル」は、デザイン的にもエポックメイキングな1台である。サイドウインドウを分割するピラーが存在しないデザインを採用した“ピラーレスハードトップの原型”であり、その後のアメリカ車のデザインに一大ブームを巻き起こした。
●近未来のキャデラックの示すショーモデルを先行披露
そんなキャデラックは、革新的なデザインを実現するために、それぞれの時代の最先端技術を積極的に採り入れたことでも知られる。
その代表作といえるのが、1953年型「エルドラド」だ。それまでとはまったく異なる新たなカーデザイン像を打ち出すべく、大きな曲面ガラスを使用したパノラミックウインドウをフロントとリアに採用した。長いスローピングサイドとの組み合わせも相まって、1950年代に絶大な人気を誇った。
またキャデラックは、先進的カーデザインへと挑戦する過程において、近未来のクルマの姿をショーモデルとしてたびたび先行披露してきた。なかでもインパクトのあったモデルが「エルカミーノショーカー」だ。
1954年に初公開された、このふたり乗りのショーカーは、ファイバーグラス製のボディや手作業で磨き上げたアルミトップを採用。航空機のキャノピーを想起させる砲弾型の着色ガラスが、ボディの鋭いキャラクターラインを引き立たせていた。またインテリアにも、航空機で使われるガンメタリックのレザーを多用するなど、随所に航空機の技術やノウハウがフィードバックされていた。
このように、キャデラックはいつの時代も先進的デザインへの挑戦を続けてきた。このエモーショナルな姿勢こそが、多くの人々から高い支持を集める原動力のひとつとなっている。
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