これまでにないパーソナル食洗機はどのようにして生まれた? パナソニックの若い開発陣が開拓した新たな家電ニーズとは
若手の開発チームによる常識破りの開発秘話
食器洗い乾燥機(以下、食洗機)は、現在、多くの家庭で使用されており、注目度の高い家電製品のひとつといわれています。ただしそれは、ファミリー世帯での話。単身世帯では設置場所の問題などから敬遠されてきました。
そんな中、パナソニックは単身世帯のキッチンにも置きやすいコンパクトサイズのパーソナル食洗機「SOLOTA(ソロタ)」NP-TML1(以下、「SOLOTA」)を発売しました。

設置サイズが幅約310mm、奥行き約225mmという業界最小設計を実現した「SOLOTA」は、コンパクトサイズでありながら約10リットルという庫内容積を確保、最大23cmの大皿を始め、6点の食器を一度に洗えます。また、着脱式タンクに水を入れて給水する方式のため分岐水栓を新たに取りつける必要がなく、工事不要で設置後すぐに使えるのもうれしいポイントです。
2023年2月の発売前から注目を集め、マーケットでも好評を博している「SOLOTA」は、誕生までのストーリーも非常にユニークです。開発に挑んだのは、20〜30歳代の若手スタッフで構成されたプロジェクトチームでした。
「プロジェクトチームが立ち上がった当初は、食洗機という製品づくりにこだわらず、食器洗い代行サービスなどさまざまな可能性を検討しました」と話すのは、プロジェクトメンバーで技術開発担当の楠健吾さん。
開発初期の段階において、チームメンバーはそれぞれ自分たちが求める製品やサービスのアイデアを持ち寄り、ディスカッションを進めていきました。そうして集まったアイデアの中で楠さんが気に入ったもののひとつに、ラスベガスのホテル前にあるゴージャスな噴水のイメージで、音と光の演出付きの食器を洗う食洗機。嫌いな食器洗いも楽しいものに。”いうアイデアがあったといいます。
こうした、既成概念や固定概念にとらわれることなく、頭をやわらかくして自由な発想を生み出そうというステップを経たことで、楠さんたちはあらためて重要なことに気づきます。
「自分たちがターゲットの世代であることをあらためて思い返しました。そこで、自分たちの生活スタイルを振り返ることにしたのです。そして、メンバーがそれぞれ食べたものなどを写真に撮って持ち寄り、ディスカッションを進めていきました」(楠さん)
「SOLOTA」のデザインを担当した松本優子さんも、自ら夕飯の写真を撮って回覧したひとり。松本さんの写真に写っていたのは、コンビニで買った惣菜類やサラダなどでした。
「当時の私は、いわゆる中食(なかしょく)中心の食生活を送っていました。使う食器といえば、お茶碗やみそ汁のお椀、メイン料理を盛った大きめの皿、そして、サラダ用の小皿くらいです。これだけの食器しか使っていないのに、食後の洗い物が面倒で、どうしても後回しにしがちでした」(松本さん)
ひとり分の食器類であれば、洗い物も簡単と考える人は多いはず。しかし、食器洗いが面倒か否かの判断は、洗う食器の枚数には左右されないことが見えてきました。
「仕事を終えて家に帰り、疲れている状態だと『洗い物をしなければいけない』という意識自体がストレスになっていることに気づきました。そして、私と同じ20〜30歳代の単身者の中には、毎日忙しくて料理をする時間も気力もないという人が多いだろうと考えたのです。そして、中食が多い人たちには食洗機という存在が響くのではないかという仮説を立て、商品化の検討を進めることになりました」(松本さん)

松本さんがチームディスカッションにおいて“単身者の食生活”の話をした際、多くのメンバーが共感していたと楠さんは振り返ります。
「多くのメンバーが、中食ばかりだという話題で盛り上がりました。そして、松本さんと同様に使う食器は1〜2種類で、毎日同じ食器を使い回しているというメンバーもいました。なので、20~30代の単身者の中でも、コンビニやスーパーで惣菜を購入し、家で食べる中食メインの食生活を送り、自炊の習慣がさほどない人たちにねらいを定め、掘り下げていこうということになりました」(楠さん)
そこからプロジェクトチームは、さらにターゲット世代1000名以上への調査を繰り返し実施。“単身者向けの食洗機”がターゲットとする人々に求められるものなのか、また、実際に製品化する場合、どれくらいの性能が求められるのかなど、具体的な検討を進めていきました。
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