VAGUE(ヴァーグ)

“刃物の街・関”800年の歴史を凝縮!? 和のブッシュクラフトナイフ「モキナイフ バーグ」が生まれた理由とは?【Behind the Product #16】

●待望の純日本製ブッシュクラフトナイフ

 ナイフの作り手には、一人の職人が全工程を手掛ける個性的な「カスタムナイフメーカー」と、安定したクオリティのナイフを手に入れやすい価格で生み出す「ファクトリーナイフメーカー」があります。

 岐阜県関市にあるモキナイフは、職人集団のファクトリーでありながらカスタムナイフ級のクオリティに達した名品を生み出す、創業100年を超える老舗工房です。

2020年に発表された「バーグ」は、2024年にラインアップされた目の細かいブラックリネンマイカルタをハンドル材に採用したモデル(写真)など、いくつかバージョンがあります
2020年に発表された「バーグ」は、2024年にラインアップされた目の細かいブラックリネンマイカルタをハンドル材に採用したモデル(写真)など、いくつかバージョンがあります

「トラウト&バード」「シマフクロウ」など、ナイフ専業ブランドとして数多くの名品を生み出してきたモキナイフ。2020年に発表した「バーグ」は、ブッシュクラフトや焚き火を愛するキャンパーの間で“待望の純日本製ブッシュクラフトナイフ”として大きな話題となっています。

 関市はおよそ800年前、鎌倉時代に移住した刀鍛冶職人の伝統をいまに伝える“刃物の町”。関市にあるモキナイフの工房を訪れ、新たな歴史的モデルを生み出した4代目代表の櫻井哲平さんにそのこだわりを聞きました。

●“カスタム”の価値を“ファクトリー”の価格で

VAGUE:モキナイフは「カスタムメイドのナイフを製造できるファクトリーブランド」と呼ばれています。

櫻井さん:いろいろな考えがあると思いますが、一本一本のナイフを職人が丁寧に造るという意味では、カスタムメイドとやっていることは変わらないかもしれませんね。カナダのロブソン山の麓にあるバーグ湖から名づけたシースナイフの「バーグ」もそういった一本です。

VAGUE:バーグのスペックは、長さ230mm、刃の厚さ4.5mmというブッシュクラフトに最適なサイズです。大型ですが最初に手にしたときカスタムメイドのように手に馴染み、心地よい手応えはあるものの重すぎない。「ちょうどいいな」と感じました。

櫻井さん:バランスにはかなり気を配り、洋白(ニッケルシルバー)製の2本のピンの位置などはミリ単位で位置を調整しました。

VAGUE:ブレードのシルエットは正統的なブッシュクラフトナイフを踏襲している一方で、グリップの形状はユニークです。

櫻井さん:直接手を触れるグリップは、使い方や手の大きさに左右されるのでデザインが本当に難しい。木型の試作品を何個も作り、細かい部分でも理想的な曲線を描くよう、すべて職人さんが手作業で削り出しています。シルエットも初期モデルから少しずつ進化させているんです。

VAGUE:モキナイフといえば優美で美しいというイメージがあります。その歴史を教えてください。

櫻井さん:櫻井家は1907年より、曽祖父の櫻井茂一によって刃物造りを始め、私で4代目になります。第二次大戦から復員した2代目の茂貴は手先が器用で、刃を固定するロックシステムを完成させたそうです。ナイフ作りを本格化させたタイミングで茂貴を代表とし、桜井ナイフ製作所を設立しました

VAGUE:最初の屋号はモキナイフではなかったんですね。

櫻井さん:戦後は海外との取引も多く、茂貴(しげき)は「モキさん」と呼ばれていました。海外で「サクライナイフ」は言いにくい。そこで1987年に「モキナイフ」と改称し、オリジナルブランドの開発に軸足を移し始めました。

VAGUE:モキナイフは「トラウト&バード」や「シマフクロウ」といった名作を多数生み出しています。

櫻井さん:現在も愛される定番モデルの多くは、父である3代目の裕之が手掛けたもの。ですが2007年に病気療養のため引退し、母も急逝したため、2008年に思いがけず私が代表になることに。数年は先代が積み上げてきた会社と従業員を守るので精一杯でした。

三代目の櫻井裕之氏が手掛けた「トラウトアンドバード」。誕生から40年以上にわたりバージョンアップを積み重ね愛される定番です(写真はジグドボーンハンドルモデル/消費税込み1万9470円)
三代目の櫻井裕之氏が手掛けた「トラウトアンドバード」。誕生から40年以上にわたりバージョンアップを積み重ね愛される定番です(写真はジグドボーンハンドルモデル/消費税込み1万9470円)

VAGUE:バーグはどういった経緯で開発されたのでしょうか。

櫻井さん:4代目としての仕事に慣れたころ「自分が手掛けたプロダクトを生み出したい」と考えるようになり、大きなサイズのシースナイフが思い浮かんだ。その着想からおよそ5年を経て2020年に完成したのが「バーグ」なんです。

VAGUE:コロナ禍で焚き火やキャンプがブームになったときですね。日本製のブッシュクラフトナイフはまだ珍しかったですよね。

櫻井さん:これまでにスパイダルコやアルマー、ベレッタをはじめ、パイロットのサバイバルツールにも採用されているスウェーデンのファルクニーベンなど海外ブランドのOEMを20年以上手掛けてきたので、大型シースナイフを作るノウハウはありました。

同時に、モキナイフを愛し続けてくださる長年のファンにも納得してもらいたいので、ナイフの構造から改めて猛勉強しました。

VAGUE:ブレード素材の「LAM/VG7」というのは聞き慣れない鋼材です。

櫻井さん:福井県にある製鉄メーカーの武生特殊鋼材が随分前に開発したスレンレス鋼で、硬くて鋭い切れ味と高い耐摩耗性など大変優れた鋼材でしたが、当時の技術ではファクトリーナイフ向けに使うのが難しく、一般的に広まることはありませんでした。

刃の先端から数ミリの位置に見える筋は、VG-7の両サイドをステンレススチールでラミネートした境界線
刃の先端から数ミリの位置に見える筋は、VG-7の両サイドをステンレススチールでラミネートした境界線

VAGUE:ある意味幻の鋼材なんですね。

櫻井さん:バーグを開発しているとき、VG-7の製造評価が再度行われ復刻すると聞いたんです。そこで切れ味の鋭いVG7の両側を、耐食性の高い2枚のステンレススチールでサンドイッチのように挟み込むことで、切れ味と耐久性の高さを両立できるラミネート鋼に仕上げてもらいました。

VAGUE:今回見せていただいているバーグには、黒のリネンマイカルタをハンドル材に採用しています。いくつかバリエーションがあるんですね。

櫻井さん:これまでにナチュラルカラーのブラウンマイカルタも製作しました。マイカルタは布に樹脂を染み込ませて作る特殊なハンドル材ですが、メーカーが少なく手に入りにくいのが悩みのタネ。ブラウンマイカルタの色合いは自然の中で映えますし、ブラックリネンマイカルタはモキナイフではおなじみの素材なのでどちらも人気があります。

●唯一無二の小型モデル「プロトレイル」

VAGUE:2022年には、全長185mm・刃厚3.5mmとコンパクトなサイズの「バーグ プロトレイル」が登場します。

櫻井さん:バーグ湖のほとりにあるバーグレイク・トレイルという自然遊歩道が「プロトレイル」の由来です。バトニングもできるパワフルさと取り回しの良さを兼ね備え、ブッシュクラフトのプロにも高評価をいただいたのでこう名づけました。

全長185mm・刃厚3.5mmとコンパクトながらパワフルな作業もこなせる「バーグ プロトレイル」
全長185mm・刃厚3.5mmとコンパクトながらパワフルな作業もこなせる「バーグ プロトレイル」

VAGUE:コンパクトなので多くの女性にも愛用されていますが、私のように手が大きくても不思議と持て余すことなくしっくりきます。

櫻井さん:バーグ開発以前は定番モデルの質を維持することに必死で、ナイフが実際に活躍するシーンを考えることは少なかったんです。「こんな国産のナイフがある」「モキっていう老舗ブランドがある」と、長年のファンにはモキナイフの未来を感じてほしいし、知らない人には歴史あるコレクションに触れてもらうきっかけになってほしいんです。

バーグ:モキナイフは“いいものを作る”ことだけに注力してきたファクトリーという印象があります。

櫻井さん:そう言ってもらえるとありがたいです。その価値を反映しようと作ったバーグは月に50本ほどしか製造できないので品薄でご迷惑をかけていますが、“刃物の街・関”のファクトリーナイフ工房の意地を世界に発信できたと自負しているんです。

●製品仕様
「バーグ」
・価格:2万8930円(消費税込み)
・全長:230mm
・刃長:110mm
・刃厚:4.5mm
・鋼材:VG-7/LAM
・ハンドル材:ブラックリネンマイカルタ
・付属品:革シース

「バーグ・プロトレイル」
・価格:2万7280円(消費税込み)
・全長:185mm
・刃長:85mm
・刃厚:3.5mm
・鋼材:VG-7/LAM
・ハンドル材:ブラックリネンマイカルタ
・付属品:革シース

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