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2024年「時計界のアカデミー賞」で国内注目ブランドも受賞! カギとなるのは「ローテク」!? 時計界の未来はどうなる?

●注目したい受賞作No.1は、大塚ローテック「6号」

 さて、2024年のGPHGで一番意義深い、注目したい受賞作は何か。それは3000フラン以下の時計に贈られる「チャレンジウォッチ賞」を日本の時計として初受賞した、マイクロメゾン(というか独立時計師)ブランド・大塚ローテックの「6号」(英文表記はNo.6)だ。

大塚ローテック「6号」 Ref.P06 44 万円(抽選販売) SSケース、ケース径42.6㎜、自動巻き、日常生活防水。44万円
大塚ローテック「6号」 Ref.P06 44 万円(抽選販売) SSケース、ケース径42.6㎜、自動巻き、日常生活防水。44万円

 もともとはカーデザイナー、プロダクトデザイナーで時計製作に興味を抱いた片山次朗(かたやま・じろう)氏が、インターネット・オークションで卓上旋盤を購入したのをきっかけに、独学でオリジナル時計の製作に挑戦。2012年にスタートさせた個人ブランド。現在は独立時計師協会に所属する浅岡肇(あさおか・はじめ)氏が設立した東京都系精密株式会社に所属して時計作りに取り組んでいる。

 片山氏は先日、厚生労働省の「令和6年度 現代の名工」に「時計組立・調整工」として選出されているし、受賞作の「6号」に続く「7.5号」は、国立科学博物館(科博)の理工学研究部の科学・技術史資料として保存されている。

 残念ながらこれまで筆者は片山氏を取材したことはない。だが、少量生産されるその作品は、何年も前から時計愛好家の間では大きな話題になっていた。とにかく気になる存在だった。実は筆者のおじやいとこは、大田区で町工場を経営している職人で、子どもの頃はその工場にしょっちゅう出入りしていて、金属加工の機械には慣れ親しんでいたからだ。だから、大塚ローテックの時計やHPで紹介されるその製作現場が気になって仕方がなかった。

 今回の「6号」は、時、分を、扇形のインジケータにレトログラード運針する時針、分針を同軸に配置。また文字盤中央下には秒を回転ディスクと窓で表示。さらに右側下に窓式のデイト表示を備えていて、MIYOTA製の自動巻きムーブメントで駆動する機械式モデル。そのフォルムは昔の工場で見た、オイルや空気を圧送するパイプの途中にセットされていた圧力計のよう。さ60分をかけて分針がそして12時間をかけて時針が左から右に動いていき、右端に到達すると瞬時にジャンプして左のゼロ位置に戻る。

 すでに手に入れた同業者から実物を見せてもらったが、片山氏がオリジナルで書体を起こしたという文字盤の数字と漢字表記も、高度成長期に子どもだった筆者が出入りしていた親戚の町工場の工作機械に書かれていた数字や漢字を彷彿させる。このレトロ感がたまらなくいい。

●「ローテクさ」こそ、時計の魅力

 今回のGPHGの受賞作の中で、この大塚ローテック「6号」は、時計の未来を象徴しているものはない。このモデルこそ、そしてブランド名の「ローテック」こそ、これからの時計にとって何よりも大切なキーワードだ。筆者はそう思う。

クドケ「3 Salmon」 Ref.KUD3sal 9,905スイスフラン(参考価格) SSケース、ケース径39㎜、自動巻き50m防水
クドケ「3 Salmon」 Ref.KUD3sal 9,905スイスフラン(参考価格) SSケース、ケース径39㎜、自動巻き50m防水

 昔、1つのビル全体ほどの大きさだった大型コンピュータ。その何百倍、何千倍、何万倍も処理能力を持つチップを内蔵し、世界中の情報を瞬時に検索&抽出したり、プロカメラマンも驚く画像処理を瞬時に行ってキレイな写真や動画を記録・編集したりなど、あらゆることが簡単に行うことができるスマートフォンを日々持ち歩き、使っている私たちが時計に惹かれる理由。

 それは時計がそれとは正反対のローテクな、アナログな機械だから。ハイテクを使わず、ローテクで機能を実現する、そこに私たちは魅了されるのだ。

 今年の「金の針賞」を受賞したIWCのセキュラーカレンダー搭載のポルトギーゼが魅力的なのも、数百個もの歯車やバネの組み合わせというローテクで、あの素晴らしい機能を実現しているからだ。スマートフォンのアプリを使えばあの機能は簡単に実現できる。でも、そうしない。

 現代の時計作りでは、CAD/CAMソフトや、その設計図通りにナノメートル(10億分の1メートル=100万分の1㎜)レベルで素材を加工できるコンピュータ制御の工作機械が使われている。また素材も、宇宙工学分野で使われている最先端のものが採用されている。つまり、作るために最先端のハイテクを使っているのだが、最終的に完成するものはローテクなもの。つまり時計は「最先端のハイテクを使って作る、最先端のローテク」。

 わたしたちはその「ローテクさ」に心惹かれるのだ。だから高級な時計はこれからも「ローテック」であり続ける。受賞作「6号」を生み出した「大塚ローテック」の社名は、まさにこの「今後の時計のあり方」を見事に表現している。片山次朗氏は、だから「ローテック」という言葉を社名につけたのだと思う。

 今回のGPHG受賞作には、この「6号」に通じる受賞作がもうひとつある。それが「小さな針賞」を受賞した、ドイツ・フランクフルト出身の独立時計師ステファン・クドケ氏が2007年に創立したKUDOKE(クドケ)の「3 サーモン」だ。クドケ氏は、ムーブメントから文字盤まで、手作りや伝統的な手法により自ら作ることで、中でも手作業によるエングレービングで知られる。

 文字盤の半分がサーモンカラーのこのモデルは、ブルースチール製の長い分針が文字盤を1周する過程で、文字盤上半分の窓で、長さの違う3本の針が交互に現れて時を表示する。これも究極のローテクモデルといえるだろう。

 また今回のGPHGの受賞作には、小規模ながら高い技術力と品質の時計を作り出す「マイクロメゾン」メーカーの作品が多い。その好例が8月末にジュネーブで開催された「ジュネーブ・ウォッチ・デイズ 2024」にも出展していて、3つのクロノメーター認定をひとつの時計で得て、クロノメトリー賞を受賞したベルンハルト・レーデラーだ。

 受賞モデルは、フランスのブザンソン天文台、ドイツのグラスヒュッテ天文台、スイスのジュネーブにある「天文台クロノメトリック」で検査と認定を受けた “トリプル認定”クロノメーター。「セントラル インパルス クロノメーター」という独自開発のムーブメントを搭載。分針に加えて8時位置に、10秒を6つのステップに分割し1分で1回転する。

ベルンハルト・レーデラー氏と受賞作「3 Times Certified Observatory Chronometer」 Ref.9012-COC 15万8000スイスフラン(参考価格) SSケース、ケース径44㎜、手巻き、C.O.S.C.認定クロノメーター、30m防水、世界限定8本
ベルンハルト・レーデラー氏と受賞作「3 Times Certified Observatory Chronometer」 Ref.9012-COC 15万8000スイスフラン(参考価格) SSケース、ケース径44㎜、手巻き、C.O.S.C.認定クロノメーター、30m防水、世界限定8本

 これは時計愛好家を魅了する時計作りの主役が、外でもない、彼らであることを示している。それはGPHGが時代を反映したちゃんとしたアワードになっていることの証でもある。もしあなたが時計好きなら、ぜひ「マイクロメゾン」に注目してみてはどうだろう。

Gallery 【画像】これが今年の話題をさらった栄えある受賞ウォッチです!(18枚)
「カチッ」と日常をオフに。至福の時を刻む、マインドフルネス

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