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パナソニック、手のひらサイズのシェーバー「パームイン」が世界市場を変える日とは【家電で読み解く新時代|Case.16】

70年の歴史を背負う彦根工場

 1962年に創業した滋賀県の彦根工場は、パナソニックのシェーバー事業を支える“マザー工場”だ。

 開発から製造までを一貫し、最新の「ラムダッシュ」から小型の「パームイン」までを生み出す現場である。広さ約2万7000坪という敷地に足を踏み入れると、70年の積み重ねと同時に、未来へ進もうとする熱気を感じた。

「2025年は業界全体で過去最高の売上を更新する見通しです。当社のシェーバー事業も、2024年は前年比13.5%増と2桁成長を達成しました」

 そう語るのは、パナソニック ビューティ・パーソナルケア事業部の南波嘉行 事業部長だ。力強い言葉には、自らの事業が節目を迎えているという確信がにじんでいた。

1955年以来、シェーバー事業で作られてきた代表的なプロダクトが時系列で展示されていた
1955年以来、シェーバー事業で作られてきた代表的なプロダクトが時系列で展示されていた

「変わらない強み」と「変えていく挑戦」

 パナソニックのシェーバーは、二つの軸で進化してきた。一つは「変わらない強み」。リニアモーター技術と複数刃の精緻な加工は、深剃り性能を極限まで高め、「ラムダッシュ」を世界に誇る存在へと押し上げた。

 もう一つが「変えていく挑戦」だ。社内に賛否を巻き起こしながら開発されたのが、手のひらに収まるパームインである。南波事業部長は振り返る。

「6枚刃や5枚刃を否定するのではないかと社内で議論もありました。しかし、新しいライフスタイルや価値観に応える提案をしなければ未来は切り拓けないと決断しました」

 SNS時代に「見せたくなるデザイン」として若者や女性層にも話題を呼び、ギフト需要までも開拓。発売からわずか2年で、パナソニックシェーバーの国内売り上げの3割を占めるまでに成長した。

パナソニック ビューティ・パーソナルケア事業部 南波嘉行 事業部長
パナソニック ビューティ・パーソナルケア事業部 南波嘉行 事業部長

工場で見た“壊れない”という誇り

 工場を歩きながら、特に印象的だったのは品質試験の数々だ。

 まずは転倒試験。手のひらサイズの「パームイン」が高い位置から繰り返し落下させられ、何十回も叩きつけられる。最初は思わず身をすくめたが、動作を続ける姿に「これなら持ち歩いても安心だ」と納得させられる。

 防水性能を確認する流水試験では、勢いよく水が吹きつけられる中で稼働を続ける「ラムダッシュ」があった。1981年に世界で初めて防水性を実現したという同社の歴史を裏付ける光景だ。

「シェーバーは毎日の道具だからこそ、タフさが命」という開発陣の誇りがにじんでいた。

 さらにAIによる外刃開孔検査も行われていた。人間の熟練検査員とAIを組み合わせ、従来より検査効率を50%向上。

 7つの光学系を用い不良を見える化し、典型的な不良はルールベースで、複雑な事象はディープラーニングで補完する“ハイブリッド方式”だという。日本のものづくりの矜持は、最先端のAI活用とも見事に結びついていた。

左右の床が交互に上下して、中で転がっている「パームイン」が押し出され、落下し続ける評価機器
左右の床が交互に上下して、中で転がっている「パームイン」が押し出され、落下し続ける評価機器

自動化とサステナビリティの現在地

 彦根工場では効率化と環境対応も進んでいた。新たに導入された立体自動倉庫システム「ラピュタASRS」は、広大な倉庫を無人で管理し、在庫保管面積を約3分の1削減した。

 人とロボットが協調し、部品を取り出し自動搬送するデモは、伝統的なものづくりと先端技術が融合した新しい姿だった。

自動物流システム「ラピュタASRS」で効率的に部品などを管理する
自動物流システム「ラピュタASRS」で効率的に部品などを管理する

グローバル市場への扉を開く

 展示スペースに並んでいたのは、日本仕様、欧米仕様、アジア仕様と記されたサンプル製品だった。外観は同じでも、地域ごとにヒゲの濃さやライフスタイルに合わせた微調整が施されているという。

 パナソニックは2024年度に国内でシェーバー市場シェア50%超のNo.1※を記録。

 いまや国内ナンバーワンブランドとしての地位を確立した。次なる挑戦は世界市場であり、どう切り拓こうとしているのか。

 マーケティング担当の市川央氏は「国内ではパームインが当社シェーバー売上の3割を占めるまでに成長しました。2027年度には5割を目指します」と語る。

 海外ではすでに45%の売上比率を持ち、2030年度には売上高で倍増を掲げる。また、南波事業部長は「海外ではまだナンバーワンとは言えません。

 しかしパームインは性能競争を超える“ゲームチェンジ”を起こす存在。『パナソニックがクールなシェーバーを出した』と世界で認められたい」と強調した。

 欧米や中国での展示会では「小型でデザイン性が高い」と好評を博し、世界最大級のコンシューマー・テクノロジー展示会「CES」ではアワードも受賞。インバウンド需要で注目を集め、すでに世界市場での存在感を高めつつある。

世界各国に送り出されるシェーバーの数々も含まれたサンプル品たち
世界各国に送り出されるシェーバーの数々も含まれたサンプル品たち

日本発のシェーバーは次の飛躍へ

 今回の工場視察で強く感じたのは、日本のものづくりがまだ世界に挑戦できる余地を持っているということだった。シェーバー市場は長年、欧州ブランドがグローバルの主役を担ってきた。

 しかしパナソニックはリニアモーターの小型化や、手のひらに収まるパームインのようなデザイン提案で、明らかに異なる軸を提示している。

 これは単なるスペック競争ではなく、「使いたくなる」「持ち歩きたくなる」といった感情を喚起するものだ。

 日本の家電は、もはや「性能がいいから売れる」という時代を超えている。むしろ「文化やライフスタイルを変える存在」として、世界にメッセージを届ける段階に来ているのではないか。

「パームイン」が若者や女性に受け入れられたことは、その証拠だ。取材の最後、南波氏が言った言葉が心に残っている。

「十年後、子どもが描くシェーバーの絵は、「パームイン」になっているはずです」。それは生活文化を変えたことの何よりの証明となるだろう。

さまざまなカラーの「パームイン」の外装サンプル。既存のシェーバーのイメージを覆す
さまざまなカラーの「パームイン」の外装サンプル。既存のシェーバーのイメージを覆す

手のひらから世界へ──次の100年に向けて

 シェーバー事業は単なる身だしなみ家電の枠を超え、時代の価値観とともに進化してきた。

 リニアモーター技術と複数刃の精緻な加工を磨き上げてきた「変わらない技術」と、小型デザインで新しい市場を切り開く「変えていく挑戦」。この二つを両輪にして、日本の家電が再び世界標準を生み出そうとしている。

 70周年の節目に立つ今、手のひらから始まった小さなシェーバーが、次の100年を照らす光となることを心から期待したい。

※ 2024年1~12月当社国内出荷金額シェア50%
(一社)日本電機工業会出荷統計24年55,558百万円。当社出荷金額24年27,886百万円。

Gallery 【画像】パナソニック彦根工場に潜入! 開発現場を画像で見る(38枚)
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