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生産開始から数年で倒産…「悲運のスーパーカー」が高値落札 33年前のクルマなのに走行距離は1万キロ以下の極上「青いブガッティ」の価値とは

テスト走行で343km/hを記録したハイパーカー

 2025年10月にベルギーで開催されたブロードアロー・オークションに、1992年製ブガッティ「EB110 GT」が出品され、高値で落札されました。

 どんなクルマなのでしょうか。

2025年10月に開催されたブロードアロー・オークションで高値で落札された1992年製ブガッティ「EB110 GT」
2025年10月に開催されたブロードアロー・オークションで高値で落札された1992年製ブガッティ「EB110 GT」

 1991年9月14日、パリ郊外グランダルシュで、ブガッティの新たな時代を告げる「EB110 GT」がついに発表されました。

 これはエットーレ・ブガッティ生誕110周年を祝う象徴的な日でもありました。

 70台ものクラシック・ブガッティが馬蹄形に並べられた壮麗な式典のあと、夜にはヴェルサイユ宮殿で1700人を招いた舞踏会が催され、翌朝には車両がモルスハイムのシャトー・サンジャンへと運ばれました。世界が見守る中、ブガッティの伝説が再び息を吹き返した瞬間でした。

 この復活劇の幕開けは、1987年にまでさかのぼります。

 実業家ロマーノ・アルティオーリ氏が、名門ブガッティを現代に蘇らせるという壮大な夢を掲げ、「ブガッティ・アウトモビリS.p.A.」を創設したのです。新たな拠点に選ばれたのは、スーパーカー文化の聖地モデナ近郊のカンポガリアーノ。そこに彼は「ファッブリカ・ブルー(青い工場)」と呼ばれる大理石の床を持つ広大な施設を建設し、デザインスタジオやエンジンテスト施設、試験コース、ショールームまでを備えるという徹底ぶりでした。

 開発陣には、ランボルギーニ「ミウラ」や「カウンタック」を手がけた名エンジニア、パオロ・スタンツァーニ氏を招聘。エットーレ・ブガッティの理念を継ぐ、新時代のスーパーカーづくりに挑みました。

 初期段階では「FL12」と呼ばれるプロジェクトが進行し、軽量アルミハニカム構造のシャシに3.5リッターV12・60バルブエンジンを搭載。F1マシンを思わせる構成で、4基のターボチャージャーが圧倒的なパワーを生み出す設計でした。

 駆動方式はセンタードライブシャフトを介したフルタイム四輪駆動。理想を追い求めた構成でしたが、開発が進むにつれ現実的な見直しが求められ、スタンツァーニは退任。後任にはフェラーリ「F40」の開発を率いたニコラ・マテラッツィ氏が就任します。

 マテラッツィ氏の手でプロジェクトは一気に進化。アルミ構造はカーボンファイバー製モノコックへと置き換えられ、わずか125kgという軽さで高い剛性を実現しました。これは「マクラーレンF1」に先駆ける革新的な技術でもありました。

 改良されたV12エンジンは8000回転で560馬力を発揮し、4つのターボによってターボラグをほぼ感じさせない応答性を実現。駆動力配分は前27:後73とされ、自然でしなやかなハンドリングを生み出しました。

 デザイン面では、マルチェロ・ガンディーニ氏が初期案を担当。鋭いウェッジシェイプとシザーズドアを持つ攻撃的なスタイルを提案しましたが、アルティオーリ氏は「ブガッティらしい優雅さ」を求め、建築家ジャンパオロ・ベネディーニ氏が最終デザインをまとめました。

 風洞実験を経て完成したフォルムは、空力と美を完璧に融合。Bピラーに輝く「EB110」発光ロゴ、可動式リアウイングなど、機能美を感じさせるディテールが随所に盛り込まれました。

 こうして誕生したEB110は、デビュー当初から圧倒的な評価を獲得します。カーボン構造と四輪駆動、4ターボV12が生み出す安定性と快適性は比類なく、元F1王者フィル・ヒルはテスト走行で343km/hを記録。「200マイルを超えても普通の道路のように安定している」と語りました。

 しかし、栄光は長く続きませんでした。1990年代初頭の景気後退と莫大な投資負担が重なり、ブガッティ・アウトモビリは1995年に倒産。生産されたEB110はわずか139台(うちGT仕様は約85台)にとどまりました。

 その希少な1台、シャシナンバー39053は1992年製の左ハンドル車で、ブルー・ブガッティの外装にライトグレーの内装を組み合わせた美しい個体です。

 新車時はドバイで登録され、その後英国で「30 DCD」のナンバーを取得。1998年にはBBC番組にも登場し、コレクターの間で知られる存在となりました。

 走行距離はわずか8200kmあまり。外装・内装とも極めて良好な状態を保ち、2024年のレトロモビルにも出展され、その存在感をあらためて示しました。

 フォルクスワーゲンによるブガッティ再建後、「ヴェイロン」や「シロン」、そして「リマック」との提携による次世代へと進化を続ける今、EB110はその礎を築いたモデルといえます。

 落札予想価格は150万ユーロから180万ユーロ(1ユーロ177円換算で日本円で約2億6600万円から3億1930万円)とされていましたが、最終的には158万1250ユーロ(約2億7988万円)で落札されました。

Gallery 【画像】悲運のスーパーカー ブガッティ「EB110」を写真で見る(26枚)

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