「磨く」を超えて、“健康をデザインする”──フィリップスが約20年ぶりの刷新で描く、ソニッケアー新時代【家電で読み解く新時代|Case.23】
“歯を磨く”から“健康を守る”へ
フィリップスというブランドを語るとき、いまや「家電メーカー」という言葉では語り尽くせない。同社は近年、オーラルケアを含むライフサイエンス領域において、「健康を支えるテクノロジー企業」としての存在感を高めている。
今回登場した「フィリップス ソニッケアー 5000/6000/7000シリーズ」は、その象徴といえる製品群だ。20年ぶりに中枢技術を刷新し、しかもそれをハイエンドモデルではなく“エントリーモデル”に投入した──。
家電業界を長く見てきた筆者にとっても、最新技術をあえてエントリーモデルから投入するというのは、かなり思い切った決断に映る。

見えない構造をゼロから再設計
新しいソニッケアーが採用したのは、アダプティブ・マグネット・システム(Adaptive Magnetic System)と呼ばれる新構造だ。
ロイヤルフィリップス パーソナルヘルス事業部 オーラルヘルスケア部門 開発チームリーダー セス・ジェンセン氏(以下、セス氏)は語る。
「ソニッケアーは、20年以上にわたってマグネティックドライブを採用してきました。しかし私たちは今回、その駆動構造をゼロから再設計したのです。部品点数を減らし、レーザー溶接で精度を高めることで、ネジをすべてなくしました。さらに振動伝達の効率を改善することで、より安定したパフォーマンスを実現しました」
これまでの電動歯ブラシは、歯や歯茎にかける力の強弱によって振幅が変化し、結果として歯垢除去力にムラが出る課題があった。
だがこの新システムは、ブラッシング圧に合わせて自動でパワーを補正し、常に一定の振動を維持する。どの角度から当てても、歯垢除去性能が落ちない。さらにモーターサイズは従来比22%縮小し、静音性も大幅に改善。
「人が快適に感じる音域はピアノの’ド’の音で、私たちはその“音”にチューニングした」とセス氏は笑う。工学だけでなく“感性の領域”までデザインしている点に、フィリップスらしさを感じた。

なぜ最上位機種ではなく“エントリーモデル”に?
通常、新技術は最上位モデルから採用し、徐々に下位機種へ展開するのが常道だ。しかし今回のフィリップスは、その逆を選んだ。
「世界には、まだ手磨きの人が大勢います。彼らにとって最初の電動歯ブラシ体験が、最高のものであるべきです。だからこそ、私たちは最新技術をエントリーシリーズにこそ投入したのです。」(セス氏)
この言葉に、私は深く共感した。“テクノロジーの民主化”という概念が、まさにここにある。
フィリップスは「高性能=高価格」という既成概念を壊し、より多くの人に最高の体験を提供する方向へ舵を切った。
そしてその背景には、健康格差の解消というグローバルな視点がある。同社は世界120か国以上で販売される中で、国や所得によって異なる“オーラルケアの水準”を埋める役割を担っている。技術を下に広げるのではなく、“最初から全員に開く”──それが今回の刷新の本質だ。

日本市場が牽引する、フィリップスのイノベーション
実は、今回の技術刷新を推し進めた最大の契機は日本市場にあると、セス氏は明かす。
「日本はアジア太平洋地域でもっとも成熟した市場であり、消費者の品質要求が非常に高い。彼らの“音・感触・仕上げ”への繊細な感覚が、私たちのグローバル設計に影響を与えています。」
つまり、世界中で売られるソニッケアーの基準を決めているのは、日本の消費者なのだ。
この関係性は、かつて日本の家電メーカーがグローバルをリードしていた時代を思い出させる。今、その立場を海外メーカーが継承しているというのは、象徴的な現象だ。
そして日本がアジア太平洋地域で最初の発売国に選ばれたことも、偶然ではない。高い審美眼を持つ日本のユーザーが評価すれば、そのまま世界標準になる──フィリップスはそれを知っている。

ヘルステック企業としてのフィリップス
近年、歯科医療の世界では「オーラルヘルスと全身疾患の関連性」が広く知られるようになっている。セス氏もこの視点を強調する。
「口腔環境の悪化は、糖尿病や心疾患、妊娠期の合併症、さらには脳の健康にも影響すると言われています。だからこそ、私たちは“歯を磨くこと”を“体を守ること”と捉えています。」
つまり、フィリップスは電動歯ブラシを“予防医療デバイス”として位置づけているのではないかとも思えてしまう。同社が医療機器メーカーとして培ってきたセンサー技術やデータサイエンスの知見が、オーラルケア製品にも応用されているのだ。
新しいソニッケアーシリーズは、スマートフォン連携を通じてブラッシング習慣を可視化できる。
歯科医が患者の生活データを共有し、パーソナライズされたアドバイスを提供する──そんな未来像も見えてくる。

「信頼を広げる」という戦略
筆者が特に印象的だったのは、今回の刷新を通じてフィリップスが狙う“信頼の拡張”である。ハイエンドモデルを更新することは、既存顧客の満足を高める施策だ。
だが、エントリー層に最高技術を注ぐことは、ブランドの信頼そのものを再構築する行為だ。
“誰が使っても満足できる”という体験を、世界中に均質に届ける。そこには、家電の社会的使命を感じる。同社が掲げる「Innovation and You」というスローガンは、単なるマーケティングコピーではなく、こうした思想の象徴に他ならない。

これからの家電は「共感性能」で選ばれる
AI家電やIoTデバイスが急速に進化する中で、ユーザーはもはや“機能”だけを求めていない。
大切なのは、テクノロジーが自分の感覚や習慣にどれだけ寄り添ってくれるかという「共感性能」だ。セス氏が最後に語った言葉が、それを端的に表している。
「私たちは、どんな消費者にも“心地よく続けられるケア体験”を届けたい。そのために、サイズ、音、感触、耐久性──すべてを再設計しました。」
その一言に、フィリップスが目指す未来が凝縮されている。“健康を磨く”という日常行為に、科学と感性の両輪で光を当てる。それは、テクノロジーが人の幸福にどう寄り添えるかを示す一つの答えだ。
VAGUEからのオススメ
マザー・オブ・パールが詩情豊かに輝く――大人の夜を彩るブローバ「マリンスター」日本限定モデルの魅力とは【PR】