“時間と時計”をクリエーターはどう解釈した? 見逃した人は必見! セイコーが「からくりの森 2025」で魅せた“動きと音”のインスタレーションとは
“機械なのに生き物のよう”時間と時計を深く想う非日常空間
2022年から始まった「からくりの森」とは、セイコーが機械式腕時計の特性とムーブメントに込められた技術の可能性を伝える展覧会のこと。

腕時計の新たな可能性や、様々な楽しさを体験できる原宿駅前の拠点「Seiko Seed(セイコー シード)」で始まり、今回は会場を東京・青山にある「LIGHT BOX STUDIO」に移動しました。
プロデュースを担当したのは、デザインディレクターとして活躍する桐山登士樹氏。展示されたインスタレーションのモチーフとなるのは、“時間”という捉えどころのない存在を表現する時計の内部に宿り、バッテリーを用いずに機械部品のみで駆動し律動する機械式時計のムーブメントの「動きと音」です。
インスタレーションを制作したのは、アーティストやプロダクトデザイナー、セイコーのインハウスデザイナーなど多彩。制作に先立ち作り手たちは、岩手県雫石にあるセイコーの工場で、メカニカルムーブメントの分解作業を体験したといいます。
その体験をもとに、それぞれが全く違った切り口で、機械式腕時計の魅力を再検証。そこから生まれたアイデアや発想をアートとして表現してくれました。
「螺旋の律動 | Cadence of the Spiral」
機械式腕時計を分解した際に出会った、機械式時計の重要パーツの「ひげぜんまい」にインスパイアされた、「感性とテクノロジーをなめらかにつなぐ」をテーマに掲げるデザイン集団「Spline Design Hub」による作品です。

Spline Design Hubの神山友輔氏は本作について、「セイコー雫石工場でムーブメントを分解したとき、極めて細いゼンマイが生き物のように僅かな振動を受け取って揺れ動いている姿が深く印象づけられた」と、手で触れたムーブメントから受け取った気づきを具現化したものと説明。
0.3mmのステンレススチールから切り出された螺旋状のパーツは、独立したアームにより内部から形状を制御。その動きは、天井から当てられた照明により、テンプを模した脚部のまわりに螺旋の影となって揺らめかせ“機械なのに生き物のよう”に振る舞う、機械式腕時計の本質を考えさせてくれる展示となっています。
「プワンツ | PUWANTS」
小松宏誠、三好賢聖の両氏による「プワンツ」は、水のなかで気泡の浮力によってゆったりと動くアート作品のシリーズ。

2014年の発表時には2つの作品で構成されていましたが、今回の展覧会では時間や腕時計のインスピレーションから生まれた新作、およびリメイク作品も追加されています。
水槽のなかに浮かぶ透明樹脂製のパーツには、少しずつ空気が供給され、一定の時間が経過すると泡となって水面へと消えていきます。ちょうど砂時計を真逆の動きで時間を可視化したかのような、淡々と静かでありながら力強い印象を与えてくれる作品でした。
「月のモビール | Moon」
1分間に1回転する円盤を、それを囲むリングに内蔵したLED光源が照らし出す「月のモビール | Moon」は、建築美術や空間表現を手がける小松宏誠氏の作品。

円盤は腕時計を構成する代表的な素材であるステンレスチール製で、仕上げも時計によく見られるヘアライン加工によるサテン調。
金属板を動かしながら光の変化を観察していたときに、まるで月の満ち欠けのように光の陰影が輪郭を変えていく瞬間、時間の概念に欠かせない存在である月をモチーフにすることを思いついたそう。
「こんな仕組みのスモールセコンドがリストウォッチにもあったらいいのに」という想像を掻き立ててくれる作品でした。
「時の軌跡 | Traces of Time」
時計の精密な針の動きを拡張し、砂の上に模様を描くことで時間の可視化に挑戦したという「時の軌跡 | Traces of Time」。

時針、分針、秒針にそれぞれ異なる長さと形状の櫛のようなパーツを取り付け、枯山水の庭のような箱庭に敷き詰められた砂に模様を描かせるというものです。
純白の砂のような粉はアルミナと呼ばれる無機質の素材で、箱庭のサイズは美しい庭園の比率と同じ寸法になっているのだそう。
時分秒の針は異なる速度で動作しますが、互いに干渉し合うよう配置されたムーブメントもあり、想像を超えるような不思議な模様を静かに浮かび上がらせていました。
「時のムーブメント | Movements of Time」
機械式時計のムーブメントは、ほんの僅かですが音を発しています。その音に着目し、「ムーブメントが日々刻む微かな機械音を採取し、組み合わせることで、ひとつの音楽をつくることはできないだろうか?」というアイデアを形にしたインスタレーションです。

機械式ムーブメントは、「テンプ」と呼ばれる円盤状の部品が往復運動(振動)することでチクタクと時を刻みます。振動の速さはモデルによって異なりますが、1秒あたり6回なら「6振動」、10回なら「10振動」というように呼ばれます。
この作品では、「6振動」「8振動」「10振動」の3つの振動数のムーブメントが発する「チクタク」の音をリズムととらえ、異なるリズムを同時に奏でる「ポリリズム」で音楽を表現しました。
テンプが刻むチクタク音には、ゼンマイを巻き上げる回転錘の作動音が重ねられ、三つの楽章として演奏されていました。
「時の交わり | Intersection of Time」
「機械式腕時計とは、ただ時間を知るだけでなく、それぞれの人の人生も表しているものとしてウオッチデザインをしています」と話すのは、「時の交わり | Intersection of Time」の作者の檜林勇吾さん。

セイコーウオッチでグランドセイコーなどのデザインに関わる檜林氏は本作について、「普段はケースの中で孤独に時を進め、外界と交わることのない針を解き放とうと考えた」と動機を説明します。
3つの作品にはどれもケースや風防はなく、外に露出したムーブメントにつながる針の先端には人物が造形され、ルーペで覗き込むように鑑賞するというユニークな仕掛けです。
ある作品は2人の人物が出会いハイタッチをし、サッカーボールを蹴り合う。また、3つのムーブメントを配置した作品では、中央のパーツを3人の人物が回転させるなど、機械式時計の針という精密なパーツで、奥行きのある物語を感じさせてくれました。
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