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まったく新しい家電プロダクトの作り方?──32歳の起業家が挑む「日本家電再興」の方程式とは【家電で読み解く新時代|Case.25】

32歳の起業家がNoendで挑む「日本家電再興」の方程式

 起業家であり、家電スペシャリストでもある滝田勝紀氏が、連載「家電で読み解く新時代」と題して、テクノロジーの奥に潜む“時代の空気”を紐解く。

 今回取り上げるのは、ナノバブル技術を軸に美容と暮らしをつなぐハードウェアブランド「Noend(ノーエンド)」。率いるのは、32歳の若き起業家・浅川一輝氏だ。

 かつてサイバーエージェントでデジタルマーケティングを手掛け、ユーザーのインサイトを精緻に読み解いてきた浅川氏は、その分析力を武器に「五感の余白をデザインする家電」というまったく新しいジャンルを築きつつある。

黒を基調としたNoendの代表プロダクト。ミニマルなフォルムの中に、使う人の“気持ちよさ”を徹底的に設計した哲学が宿る
黒を基調としたNoendの代表プロダクト。ミニマルなフォルムの中に、使う人の“気持ちよさ”を徹底的に設計した哲学が宿る

若き起業家がデータで“暮らしの欲望”を読む

「家電」という領域において、“データドリブン”という言葉がここまで自然に使える経営者はまだ少ない。

 浅川氏は、SNSの書き込みやレビューコメント、購買傾向といったデジタル上の感情の断片を膨大な数から読み取り、その中から「人が本当に求めている心地よさ」を抽出するところからプロダクトづくりを始める。

 彼がデータの“温度”を読む力を磨いたのは、サイバーエージェント時代の経験にあるという。同社が手がけたTV番組とECを連動させたライブコマースを担当したのがその原点だ。

 そこでは、商品をただ紹介するのではなく、“伝える情報を引き算する”ことで魅力を浮き立たせる必要があった。

「製品の良さを伝えるために、情報を“足す”よりも“引く”ことが大切だと学びました。すべてを詰め込むより、ユーザーが本当に知りたい一点をどう磨くか。その考え方は今のNoendの設計思想にもつながっています」

 この「引き算の思考」は、やがてNoendの核となる。“全部入り”の家電が市場を覆うなかで、浅川氏はあえて「ひとつの体験を気持ちいいレベルで完成させる」方向へと舵を切った。

「機能を増やすことよりも、お客様が感じる“気持ち良さ”を追求しています。ひとつの体験を突き詰めた製品を手ごろな価格でお客様に届けることで、生活をより良くしたい。多機能よりも、“使う心地よさ”を設計することが私たちの価値です」

株式会社No.(ノードット)代表取締役 浅川一輝(あさかわかずき)
株式会社No.(ノードット)代表取締役 浅川一輝(あさかわかずき)

“価値が出しやすい”領域への覚悟

 実は浅川氏が第一創業したのは大学生の頃だ。当初は家電を作るつもりはなかった。しかし、事業の過程で「体験の差」がいかに人の印象を変えるかを痛感する。その気づきが、第二創業時に家電というフィールドへ彼を導いた。

「消費財などはどうしても広告の量やコピーの勝負にさらさられる分野に対して、家電はそれよりも慎重に選ぶし、価格競争に巻き込まれにくく、価値を出しやすい分野だと考えました。

 見た目や機能だけでなく、使っている時の気持ちよさでも印象がまったく変わる。そこにこそ勝ち筋があると確信しました」

 家電は成熟した市場と思われがちだが、実際には「触感」「音」「温度」「静けさ」といった感覚的な差異を設計する余地がまだまだ大きい。

 浅川氏とNoendチームメンバーたちはそこに勝機を見出し、“五感の余白をデザインする家電”というコンセプトを掲げた。

 その思想の結晶として挙がる製品が、「オーガニックファインバブル シャワーヘッド」や「オーガニックファインバブル 洗濯機アダプター」だ。

 前者は約76億個のナノバブルが肌を包み込み、塩素除去率99%・節水率59%という機能性を実現しながら、湯の柔らかさや音、グリップの触感までが繊細に調律されている。

 後者は、ナノバブルの発生メカニズムを独自設計し、水の持つ洗浄力そのものを高めた製品だ。洗濯機に取り付けるだけで、泡が繊維の奥にまで浸透し、汚れを優しく分解。これまでにない洗い上がりを実現した。

 日々の家事という当たり前の行為を、少しだけ豊かに変える——それもNoendが掲げる“暮らしをアップデートするプロダクト”の象徴である。

約76億個のナノバブルが肌を包み込む「オーガニックファインバブル シャワーヘッド」。柔らかくきめ細やかな湯あたりが日常を癒やす
約76億個のナノバブルが肌を包み込む「オーガニックファインバブル シャワーヘッド」。柔らかくきめ細やかな湯あたりが日常を癒やす

“観察”が導く日本品質の再構築

 Noendのチームはわずか8名規模。それでもすでに2つの特許を取得済で、それ以外にもいくつかの特許を出願しているという。内容は非公開だが、ナノバブル生成や水流制御などの独自構造が中心だと推測される。

 小規模でも特許を生み出す開発力が、Noendを単なる「美容家電ブランド」ではなく、“技術で語れるメーカー”へと押し上げている。

「僕たちは“日本製”というラベルを目指しているわけではありません。日本的な感性――たとえば、静けさや手触り、空間への気づかい――をどこで作っても再現できるようにしたい。だから、“メイド・イン・ジャパン”の価値は場所ではなく考え方にあると思っています」

 Noendは「日本的品質をファブレスという新しい形で再定義する」ことを目指している。設計と品質管理は日本で統括し、製造は海外のパートナー工場へ。

 オンラインで両者を密接につなぎながら、1工程ごとに“気持ち良さ”を検証し、使い手が触れた瞬間の体験まで設計に反映する。

 そこには、伝統的なクラフトマンシップと、スタートアップならではのスピード、合理性、革新性が共存している。「心地よさをつくる技術」こそが、Noendのクラフトマンシップだ。

「小さなチームだからこそ、お客様との距離が近く、“気持ちよさ”をどう設計するかをいつも考えています。クラフトマンシップとは、機能ではなく“五感”をデザインすることだと思っています」

「Swing E-Toothbrush 電動歯ブラシ」。“ながら磨き”でもプロの角度、光るブラシで45度が勝手に決まる。特許技術を搭載している
「Swing E-Toothbrush 電動歯ブラシ」。“ながら磨き”でもプロの角度、光るブラシで45度が勝手に決まる。特許技術を搭載している

ブランドは共に進化する生き物

 2024年5月、Noendは「Makuake」で「オーガニックファインバブル シャワーヘッド(増圧Ver.)」を発売。

 わずか1か月半で応援購入総額4,500万円を突破し、その後、年間6,000件超のプロジェクト中25社しか選ばれない「Makuake Award」にもノミネートされた。

「クラウドファンディングは売るための仕組みじゃなくて、“一緒に品質を高める”ための時間なんです。製品ができる過程を共有して、フィードバックを受けながら改良していく。その熱量が、最終的にブランドを強くしてくれる」

クラウドファンディング「Makuake」で応援購入総額4,500万円を突破し、年間わずか25社の「Makuake Award」にノミネートされた実績を持つ
クラウドファンディング「Makuake」で応援購入総額4,500万円を突破し、年間わずか25社の「Makuake Award」にノミネートされた実績を持つ

“完成を定義しない”という哲学

 発売はゴールではなくスタート。Noendにとって“完成”は存在しない。Noendのブランドステートメントには、「完成を定義せず、お客様の声をもとに商品やサービスを永続的に進化させ続ける」と書かれている。

「製品というのは、お客様のライフスタイルや価値観と同じように、常に移ろいゆくものだと思っています。だから僕たちは“完成を定義しない”。 お客様と一緒に進化し、更新され続けるプロダクトを作りたいんです」

 それは単なるモノづくりではなく、“生活づくり”に近い。Noendが目指すのは、ライフスタイルそのもののデザインだ。

「僕たちは“モノ”を作っているんじゃなくて、“暮らし方”をデザインしているつもりです。それが結果的に、家電という形をとっているだけなんです」

ドライヤー「エアブロースティック」もクラウドファンディングで多くのサポーターを集め成功している
ドライヤー「エアブロースティック」もクラウドファンディングで多くのサポーターを集め成功している

世界を変える源流にいる男

「僕たちが目指しているのは、世界を直接変えることではなく、ひとりひとりの生活を少し良くすること。でも、そんな小さな変化の積み重ねが、やがて世界を動かす力になると信じています」

 筆者はこれまで、Dysonのジェームズ・ダイソンやiRobotのコリン・アングルといった“家電で世界を変えた男たち”を何度も取材してきた。

 彼らに共通していたのは、孤独な情熱と失敗を繰り返しても決して諦めない執念。一見、飄々とした若者というルックスの浅川氏だが、インタビューの端々からその強い信念を確かに感じる。

 Noend――「終わりのない挑戦」という名のブランド。浅川氏とNoendチームはいま、その名の通り“終わりなき源流”を歩き始めたばかりだ。その足跡の先に、世界を変える芽が確かに息づいている。

グレートーンで統一しても美しい
グレートーンで統一しても美しい

Noendが描く「日本家電再興」のシナリオ

 日本の家電業界はいま、静かに分岐点を迎えている。大手メーカーが機能を積み上げ続ける一方で、ユーザーが求めているのは“気持ちいいミニマリズム”だ。Noendは、その転換点に立つブランドだと断言する。

 巨大な資本や工場を持たずとも、データと感性を融合させることで世界と戦えることを証明しようとしている。理念を語れるメーカー。使い手の感情を設計できるチーム。

 世界のサプライチェーンを使いこなしながら、哲学を失わない企業。Noendは、まさに次世代の日本的ハードウェアブランドの原型といえるだろう。

パッケージもまたNoendの哲学の一部。無駄を削ぎ落としたモダンなデザインは、ギフトとしても美しく映える
パッケージもまたNoendの哲学の一部。無駄を削ぎ落としたモダンなデザインは、ギフトとしても美しく映える

家電を変える“小さな気持ち良さ”の積み重ね

「自分たちの製品が、誰かの日常を少しでも変えられたら、それだけで意味があると思うんです」

 家電とは本来、人の暮らしを少し良くするための道具だった。その原点を、彼は静かに、しかし確信をもって取り戻そうとしている。

 世界を変える革命は、大きな技術革新ではなく、“小さな気持ち良さ”の積み重ねから生まれるのかもしれない。Noendの挑戦は、まさにそのことを私たちに教えてくれる。

 静かな情熱が、やがて形になるとき——その瞬間を見届けたい。筆者は確信している。このブランドがいま小さな工房で育てている“体験の種”は、いつか必ず、世界を変える大輪を咲かせるだろう。

Gallery 【画像】置いておくだけで満足感ある家電たちを画像で見る(16枚)
「カチッ」と日常をオフに。至福の時を刻む、マインドフルネス
滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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