デサント「水沢ダウン」はなぜクオリティが高い? 30億円を投じた工場に潜入! 世界で評価される理由とは【Behind the Product#36】
世界で評価されるジャパンクオリティ
スポーツアパレルの最前線を走り、さらなる高みを目指し続けるデサント。そのモノづくりの中核を担ってきたのが、1970年に岩手県水沢市(現・奥州市胆沢)で操業を開始した水沢工場です。
半世紀にわたり、野球のユニフォームやスキーウェア、JRA(日本中央競馬会)の騎手用防護ベストなど、機能性と構造の両面で高度な製品を生産してきた水沢工場から生まれた代表的なプロダクトが『水沢ダウン』です。

雨天や降雪といった過酷な環境にも耐えうる高い防水性を備えた『水沢ダウン』は、その性能を支える製造工程も極めて複雑です。
ハイスペックモデル「マウンテニア」の場合、1着あたり163種のパーツ、約90種の副資材、280もの工程を要し、完成までにおよそ50人の熟練したスタッフが関わります。そして、その工程の大半はいまなお手作業で行われています。
このように徹底したモノづくりによって生み出されたプロダクトは、スイスやカナダ、ドイツ、スペインなど複数の国のナショナルチームのウェアとして採用されるなど、世界の最前線でもその信頼性が証明されてきました。
複雑な工程と手作業を前提とするモノづくりは、製品だけでなく、生産の現場そのものにも高い完成度が要求されます。『水沢ダウン』が生み出される水沢工場は、その思想を受け止める場所として、生産の現場そのものを次の段階へと引き上げていくことが求められていました。

ワーカーズファーストが高品質につながる
一般的に、工場の増築や建て替えは、生産量の増加や売上拡大を目的とするケースが多い。では、およそ30億円を投じて建て替えられたデサント社の新・水沢工場は、何を目指したのでしょう。
新工場の延床面積は、建て替え前の約1.5倍にあたる5098平方メートル。これまで8棟に分かれていた工場を、1棟1フロアの広大な空間へと再編しています。
水沢工場は、『水沢ダウン』の生産を担う専用工場です。原材料の入荷から製品として出荷されるまでの導線は、生産工程の流れに沿ったコの字型に設計されています。専用工場ならではの動線設計によって人や物の交錯を防ぎ、無駄のない生産環境を実現しているのです。
しかし、今回のリニューアルは、生産量の拡大を目的としたものではないようです。ここにこそ、新工場操業の特筆すべき点があります。

従業員の「働きやすさ」を多角的に追求
『水沢ダウン』の年間生産量は、10年ほど前から約2万5000点と定められており、現在も変わっていません。人気商品のため、各取扱店から増産を求める声が上がることもありますが、あえて供給量をコントロールし、希少性と品質を守り続けてきました。
新工場によって生産効率は向上しましたが、その余力は数量の拡大ではなく、一点一点のクオリティをさらに高めること、そして付加価値の高いアイテムを生み出すために充てられています。
工場内の設備にも、その思想は細部まで反映されています。
空調には地下水を利用した輻射熱方式を採用しています。一般的な空調のように風を起こさないため、羽毛の飛散や縫い糸のブレを防ぐと同時に、オペレーターの身体への負担も軽減します。工場内は年間を通して安定した温度が保たれ、集中力を妨げない環境が整えられています。
また、140人が同時に着席できる食堂に加え、1人で過ごしたいときや横になりたいときに利用できる休憩ラウンジ、体調不良時に使用できるベッドルームも設けられています。ベッドルームは男性用1室、女性用3室とし、現場の実情に即した配慮がなされています。

明るくて開放的な生産フロアの天井には、2メートルほどの間隔で木枠のレールが走ります。電源やエアコンプレッサーの配管を集約したこの仕組みにより、各オペレーターはミシンの配置や調整を柔軟に行うことが可能となりました。
オペレーターの多くは女性で、背の低い人でも無理なく作業できる高さに設計されています。作業台は可動式となっており、生産ラインの組み替えが容易なため、アイテムや納期に応じた柔軟な対応も可能です。
水沢工場で働く方は、工場長を除く118人全員が2025年秋時点では岩手県内出身です。年齢層は18歳の新卒から70代のベテランまで幅広く、親子二代、さらには三世代にわたって働くケースもあります。
人手不足から海外の技能実習生や派遣社員に頼る縫製工場が増えるなか、水沢工場には技能実習生も派遣社員もいません。地域に根ざし、技術を継承していく体制そのものが、この工場のモノづくりを支えています。
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