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「10万円台 vs 30万円オーバー」ドラム式洗濯乾燥機、“価格差約3倍”って何が違うの? 構造変化のポイントとは【家電で読み解く新時代|Case.35】

ドラム式洗濯乾燥機に起きた“価格破壊”という波

 かつてドラム式洗濯乾燥機は明確に“高級家電”でした。洗濯から乾燥まで自動で完結する利便性ゆえ共働き世帯を中心に需要は高かったものの、内閣府の消費動向調査などによると、日本の家庭における普及が伸びきらず停滞していました。

 日本の洗濯機文化は縦型中心で発展してきた歴史が長く、「洗浄力重視」「大容量で一気に洗う」という価値観が強かったことも、ドラム式が一気に広がらなかった背景にあります。

 最大の障壁は価格とサイズです。高額であること、そして本体が大きすぎて設置できないこと。この二重の制約が存在していたからです。欲しくても手が出ない。置きたくても物理的に入らない。その現実がドラム式の普及を止めていました。

 この構図を崩したのがここ1〜2年の新勢力です。家具チェーン、量販店PB、中国メーカー、生活家電新興勢力が同時多発的に市場へ参入し始めました。2024年末に発表されたニトリの10万円台は象徴的な存在ですが、流れの本質は個社ではありません。

ニトリのドラム式洗濯乾燥機。税込9万9900円という価格で大きな話題に。機能的には30万円クラスと比較すると劣るものの、ベーシックな機能は搭載されている
ニトリのドラム式洗濯乾燥機。税込9万9900円という価格で大きな話題に。機能的には30万円クラスと比較すると劣るものの、ベーシックな機能は搭載されている

 ハイアールのコンパクトドラム、ハイセンスの低価格戦略、量販店ODMモデルなど、中国の巨大サプライチェーンを背景にした合理化設計が一気に市場へ流れ込んできたことが本質です。

 AQUAやハイアールジャパンセールスなどの国内説明会で、それぞれ次のようなメッセージを発しています。

「日本では“高性能=大型化”が進みすぎた。私たちは誰もが“置けるドラム”を最優先に商品開発した」

 この言葉は極めて示唆的です。従来の国内フラッグシップは性能競争の末に大型化が進み、結果として“置けない高級機”を生み出してしまった。

 一方、新勢力は必要な機能に絞り、日本の住宅サイズに合わせ、流通を合理化し、価格を限界まで削る。この思想のもとで生まれた製品群は単なる廉価版ではなく、合理化されたドラム式洗濯乾燥機です。

 特に設置性の変化は革命的でした。多くは本体幅60cm前後、高さ85cm級のモデルは従来の縦型とほぼ同等の設置感覚で、これまでドラム式洗濯乾燥機を諦めていた家庭にも現実的な選択肢を提示しました。

 価格破壊という言葉だけでは説明しきれない構造変化がここにはあります。「ドラム式=高級家電」という常識が崩れ、10万円台でも乾燥付きドラムが選べる時代に入ったのです。

ハイアールジャパンセールスのDeLAITOシリーズは、洗濯8〜13kgの全5モデルで市場想定価格10万〜22万円前後と選べる構成
ハイアールジャパンセールスのDeLAITOシリーズは、洗濯8〜13kgの全5モデルで市場想定価格10万〜22万円前後と選べる構成

30万円オーバー機はなぜ存在し続けるのか

 ここで短絡的に「安い機種が出たから高級機は不要」と考えるのは誤りです。フラッグシップ機が30万円という価格を維持しているのには明確な理由があります。それは洗濯という家事を“最適化”するという思想です。

 低価格帯が合理化なら、高級機は最適化。この違いが本質です。

 象徴的なのは乾燥方式です。パナソニックの最上位LXシリーズ、日立ビッグドラムの上位機種、シャープのプレミアムモデルなどはいずれもヒートポンプ乾燥を採用しています。低温乾燥によって衣類へのダメージを抑え、電気代を削減し、縮みを防ぎながら柔らかく仕上げます。

 さらに消費電力を大きく抑えられるため、長期使用を前提にするとランニングコストの差としても確実に積み重なっていきます。

 この違いはスペックではなく生活体験に直結します。パナソニックの発表会では、同社の「Make New」や「時産(じさん)」といったメッセージに合わせて、以下のような開発思想を語っていました。

「私たちは洗濯機を作っているのではなく、暮らしの手間やコストを減らし、時間を生み出す」

 この言葉は誇張ではありません。ヒートポンプ乾燥、トリプル自動投入、AI洗浄、スマホ連携、自動メンテナンス、ナノイーXによる除菌、静音設計、振動抑制設計。

 これらは“便利機能”ではなく、家事の負荷を減らすための体験設計です。また、日立は「洗濯はおまかせ」というコンセプトを打ち出しており、発表会で以下のような思想が協調されていました。

「ユーザーの手間や不満を減らし、洗濯を“QOLを高める家事”に変えたい」

 フラッグシップ機は単なる洗濯機ではありません。生活最適化マシンです。価格差は性能差というより、“時間と快適さの差”と言ったほうが正確でしょう。

パナソニックの最上位LXシリーズ。さまざまな種類のダウンジャケットを、これからは家で洗濯するのが常識に! という新たなライフスタイルを提案したり、洗濯体験の価値を高める
パナソニックの最上位LXシリーズ。さまざまな種類のダウンジャケットを、これからは家で洗濯するのが常識に! という新たなライフスタイルを提案したり、洗濯体験の価値を高める

選択肢が増えたという“幸福”

 10万円台ドラムと30万円オーバードラム。この対比は価格競争ではなく、価値観の分岐を意味します。合理性を取るか、最適化を取るか。どちらが優れているという話ではありません。選択肢が増えたという事実こそが重要です。

 起業家の視点で見れば、これは典型的なディスラプション(創造的破壊)です。新勢力が価格を壊し、市場を拡張し、既存メーカーはさらなる技術革新を進める。

 結果としてヒートポンプ乾燥は低価格帯へ降り、AI機能も徐々に普及帯へ広がっていく。この流れはテクノロジーの民主化であり、消費者にとって歓迎すべき変化です。

 では、どちらを選ぶべきなのか。家電スペシャリストとしての答えは明快です。優劣ではなく適合です。ドラム式を初めて使う人、設置スペースに制限がある人、コストを重視する人には新勢力の合理化モデルが十分な選択肢になります。

 一方で、毎日乾燥までフル運用する家庭、衣類ケアを重視する人、家事時間を極限まで削減したい人にとっては、フラッグシップの最適化された体験が確かな価値を持ちます。

ダウンジャケットを家で洗えることで、クリーニング代などを節約できたり、冬の間でも清潔なまま着用し続けられることで、価格以上の価値を提供してくれる
ダウンジャケットを家で洗えることで、クリーニング代などを節約できたり、冬の間でも清潔なまま着用し続けられることで、価格以上の価値を提供してくれる

安くなったのではなく、選び方が高度化した

 ドラム式洗濯機の現在地を一言で言うなら、価格破壊ではなく選択構造の再編です。安い機種が登場したから高級機の価値が消えたのではありません。むしろ逆です。価格帯ごとに設計思想が明確に分離され、ユーザー側が“何を重視するか”を選べる段階に入ったということです。

 10万円台の合理化モデルは、ドラム式を“贅沢品”から“現実的な生活家電”へ引き下ろしました。乾燥まで任せられる家事動線を、この価格で手に入れられる意味は非常に大きい。

 共働き世帯、単身世帯、都市部の限られた住環境では、この価値は圧倒的です。これは妥協ではありません。合理的な最適解です。

 一方で30万円オーバークラスのフラッグシップは、依然として別の役割を担っています。それは洗濯という家事を“時間資源の最適化装置”へと変換することです。

 ヒートポンプ乾燥による衣類ケア、または衣類ダメージの抑制、自動投入による作業削減、AI制御による運転最適化、静音設計、自己メンテナンス機能。これらは単なる高機能ではなく、日常生活の摩擦を減らすための設計投資です。

 家事時間を削減し、心理的負担を軽減し、生活の質を底上げする。ここに価格差の本質があります。

さまざまなパーツのカラーやテクスチャーを、いろいろな照明の下でどう見えるかまでチェック。このこだわりこそが、30万円オーバーでも納得できる上質なデザインが産み出される。生活空間の一部となる家電だからこそ、デザインは性能と同じくらい重要
さまざまなパーツのカラーやテクスチャーを、いろいろな照明の下でどう見えるかまでチェック。このこだわりこそが、30万円オーバーでも納得できる上質なデザインが産み出される。生活空間の一部となる家電だからこそ、デザインは性能と同じくらい重要

 つまり、10万円台ドラムは“賢い選択”、 または “合理化の恩恵”であり、30万円オーバードラムは“時間を買う投資”です。

 どちらが正しいという話ではない。生活設計の選択です。そして重要なのは、両方が成立している市場に入ったという事実です。かつてドラム式は「高いか、諦めるか」の二択でした。今は違います。

 設置条件、家族構成、洗濯頻度、衣類へのこだわり、家事に割ける時間。これらの条件を基準に、自分の生活に合った思想を選べる段階に入っています。

 家電が成熟市場に入ると、価格競争は性能競争に変わり、最終的には思想競争になります。ドラム式洗濯機はまさにその地点に到達しました。安くなったのではなく、選び方が高度化したのです。これが現在のドラム式市場の本質であり、“家電で読み解く新時代”の核心です。

Gallery 【画像】これが20万円の違い!? ドラム式洗濯乾燥機の違いを画像で見る(10枚)

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