VAGUE(ヴァーグ)

物価高でパンを「買う」時代は終わった? ホームベーカリーが静かに“炊飯器の隣”へ並び始めた理由とは

主食の前提が変わる時代

 米の価格高騰は、もはやニュースの一項目では済まされない段階に入っている。気候変動による不作、流通コストの上昇、生産者不足といった構造的な要因が絡み合い、主食の価格が安定しない状態が常態化しつつある。

 同時に、パンもまた例外ではない。小麦、バター、油脂、電気代、物流費。そのすべてが価格に跳ね返り、ベーカリーや市販の食パンは「気軽に買うもの」から「少し考えて買うもの」へと変わってきた。

 ここで注目すべきなのは、生活者の意識だ。「何を選ぶか」よりも、「どこまで自分でコントロールできるか」。この価値観の変化は、家電の歴史を振り返ると決して珍しいものではない。

 かつて炊飯器が普及した背景にも、外食やかまどに依存しない“主食の自立”という思想があった。いま、同じ地殻変動がパンにも起きている。

「趣味」から「日常」へ。ホームベーカリーは、不確実な時代において主食の自立を支える、現代の炊飯器のような存在になりつつある
「趣味」から「日常」へ。ホームベーカリーは、不確実な時代において主食の自立を支える、現代の炊飯器のような存在になりつつある

日常の家電としてのホームベーカリー

 ホームベーカリーは長らく、時間に余裕のある人やパン作りが好きな人のための家電と見なされてきた。実際、かつての製品は「作る楽しさ」を前提に設計されており、日常に組み込むには少しハードルが高かったのも事実だ。

 しかし、シロカがリニューアルした「おうちベーカリー ベーシック」シリーズに触れて、その前提は明確に変わったと感じた。象徴的なのが、約1時間以内で焼き上がる「超早焼きパン」だ。

 これは「休日に楽しむパン」ではない。「今夜の主食が足りない」「明日の朝食を用意する」という、きわめて現実的な時間軸に合わせた設計である。

54分で焼き上がる「超早焼きパン」メニュー。特別な日のイベントではなく、夕食や翌朝の準備という現実的な時間軸に寄り添う設計だ
54分で焼き上がる「超早焼きパン」メニュー。特別な日のイベントではなく、夕食や翌朝の準備という現実的な時間軸に寄り添う設計だ

 その流れを象徴するのが、シロカが2026年2月に発売する「おうちベーカリー ベーシック」シリーズだ。

 スタンダードモデルのおうちベーカリー ベーシック SB-1D271は、直販価格1万7820円(税込)の1斤タイプ。2mm厚のダイキャスト製パンケースにより熱を均一に伝え、「外はカリッと、中はしっとり」した焼き上がりを実現する。

 ベーグル生地や54分で焼き上がる「超早焼きパン」など22種のオートメニューを搭載し、忙しい日でも主食を任せられる設計だ。

 一方、上位モデルの「おうちベーカリー ベーシック プラス SB-2D271」は、直販価格19,800円(税込)で1.5斤まで対応。

 パンメニューに加え、ブリオッシュやフレッシュチーズ、生キャラメル、ヨーグルトなども作れる30種のオートメニューを備える。コンパクトながら家族分まで焼ける点に、日常使いを意識した思想が表れている。

 炊飯器が「ごはんを炊くための道具」から「生活のリズムを支える存在」へ進化したように、ホームベーカリーもまた、特別なイベントではなく、日常の選択肢として再定義されつつある。

2026年2月発売の「おうちベーカリー ベーシック」シリーズ。1斤タイプの「SB-1D271」(左)と、1.5斤対応で多彩なメニューを備える「SB-2D271」(右)の2ラインアップ
2026年2月発売の「おうちベーカリー ベーシック」シリーズ。1斤タイプの「SB-1D271」(左)と、1.5斤対応で多彩なメニューを備える「SB-2D271」(右)の2ラインアップ

厚釜パンケースが示す家電の本質

 今回のリニューアルで最も大きな変化は、シリーズ初となる2mm厚のダイキャスト製パンケースだ。一見すると「焼き色が良くなる」「ふっくらする」といった、おいしさの進化に目が向きがちだが、本質はそこではない。

 熱を均一に伝え、焼きムラを抑え、毎回同じ仕上がりを再現する。これは「誰が使っても失敗しにくい」という、家電として極めて重要な価値を高めるための技術だ。

 家電が生活に定着する条件は明快である。考えなくていいこと、迷わなくていいこと、そして失敗しないこと。炊飯器が火加減を意識させない存在であるように、ホームベーカリーもまた、パン作りを“意識させない家電”へと近づいている。

シリーズ初となる2mm厚のダイキャスト製パンケース(左)。焼きムラを抑え、誰が使っても安定した仕上がりを再現するための「失敗しない技術」が注ぎ込まれている
シリーズ初となる2mm厚のダイキャスト製パンケース(左)。焼きムラを抑え、誰が使っても安定した仕上がりを再現するための「失敗しない技術」が注ぎ込まれている

時代を見据えたセラミックコーティングという選択

 パンケースの内側をフッ素樹脂からセラミックコーティングへ切り替えた点も、見逃せない変化だ。PFAS問題に象徴されるように、家電メーカーはいま、「安全であるか」だけでなく、「どんな姿勢で作られているか」を問われている。

 興味深いのは、この変更が決して簡単な改善ではなかったという事実だ。セラミックは生地が張り付きやすく、従来と同じ設計では仕上がりに悪影響が出る。そこでパンケース形状や羽根、こねプログラムまで含めて、全体を再設計している。

 これは仕様変更ではない。メーカーとしての思想の転換であり、長く使われる家電であることへの覚悟でもある。

PFAS問題を見据え、内側にはセラミックコーティングを採用。メーカーとしての姿勢と、長く使い続けられる家電としての安全性を両立させた
PFAS問題を見据え、内側にはセラミックコーティングを採用。メーカーとしての姿勢と、長く使い続けられる家電としての安全性を両立させた

「焼きたて」よりも大切なベーグルの価値観

 新たに追加されたベーグル生地メニューも、時代をよく映している。ベーグルは油脂が少なく腹持ちが良いだけでなく、冷凍保存との相性が非常に良いパンだ。

 つまりこれは、その場で消費するためのパンではなく、「作り置きし、回していく主食」に適している。発表会でも強調されていたのは、「2日目もおいしい」「冷凍して焼き直す前提」という考え方だった。

 ここに、いまの生活者のリアルがある。毎日完璧に用意するのではなく、無理なく続けられる形で主食を確保する。その発想に、ホームベーカリーが自然に寄り添い始めている。

新搭載のベーグル生地メニュー。冷凍保存と相性が良く「作り置きして回す主食」という、現代の合理的なライフスタイルを象徴する機能だ
新搭載のベーグル生地メニュー。冷凍保存と相性が良く「作り置きして回す主食」という、現代の合理的なライフスタイルを象徴する機能だ

節約家電ではなく「生活を強くする家電」だ

 パンを自宅で作ることは、単なる節約ではない。原材料を自分で選び、価格変動の影響を受けにくくし、食の選択肢を自分の手元に戻す行為だ。

 起業家でもある筆者の視点で言えば、これはサプライチェーンの内製化に近い。すべてを外部に依存しないという選択は、不確実な時代における生活のレジリエンスを高める。

 家電は便利さを提供するだけの存在ではなくなった。暮らしの「強度」を上げる装置として、再評価されるフェーズに入っている。

複雑な設定を意識させない直感的なインターフェース。パン作りを特別な行為から、暮らしの「強度」を上げる日常のインフラへと変えていく
複雑な設定を意識させない直感的なインターフェース。パン作りを特別な行為から、暮らしの「強度」を上げる日常のインフラへと変えていく

 炊飯器が日本の家庭に定着した理由は、「おいしいから」ではない。毎日使えたからだ。いま、ホームベーカリーも同じ地点に立っている。

 物価高という逆風のなかで、自分の暮らしを自分で設計するための家電として。パンを焼くことは、もはや特別な行為ではない。それは、新しい日常のインフラになりつつある。

Gallery 【画像】超おいしそう!自宅でこんなパンが作れるの?(22枚)
「2段あたため」レンジがすごすぎるっ!? 最新レンジを徹底紹介
滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

VAGUEからのオススメ

ポータブル電源が都心で過ごす夜を変える──Jackeryがかなえる“オフグリッド”なスポーツ観戦【PR】

ポータブル電源が都心で過ごす夜を変える──Jackeryがかなえる“オフグリッド”なスポーツ観戦【PR】

RECOMMEND