もう“ただのピンポン”ではない。パナソニックのAIドアホンが示す、家庭防犯の新基準とは?
ドアホンは本当に“オワコン”なのか?
正直に言えば、テレビドアホンというジャンルは、ここ数年、家電メディアの中で大きく注目されてきた分野ではありません。ロボット掃除機、オーブンレンジ、冷蔵庫、洗濯機、空気清浄機、ポータブル電源などに比べると、新製品発表時の派手さはどうしても弱い。
多くの人にとってドアホンは、住宅に最初から付いているもの、壊れたら交換するもの、あるいはリフォーム時に検討するもの、という認識でしょう。
しかし今回、パナソニックが発表したワイヤレスモニター付テレビドアホン「VL-X70AHS」「VL-X70AHF」を見て、私は考えを改める必要があると感じました。これは単なるドアホンの新製品ではありません。ドアホンという住宅設備を、家庭の防犯インターフェースへと進化させる提案だからです。
テレビドアホン市場そのものは、急成長する市場ではありません。むしろ成熟した安定市場です。ところが、その役割は時代とともに変わってきました。かつては「誰が来たかを映像で確認する」ことが主な価値でした。
その後、共働き世帯の増加やEC利用の拡大によって、不在時の宅配対応やスマートフォン連携が重要になりました。そして現在、パナソニックが見ているのは、侵入犯罪、特殊詐欺、闇バイト、置き配トラブル、離れて暮らす家族の不安といった、より深い生活防犯の領域です。

考えてみれば、犯罪の入口は時代とともに変わってきました。オレオレ詐欺や還付金詐欺が社会問題になった時代、防犯の入口は固定電話でした。知らない番号からの電話に出ない、通話を録音する、迷惑電話をブロックする。そうした機能が電話機に求められたのは、犯罪が電話から始まっていたからです。
しかし現在は違います。SNS型投資詐欺やロマンス詐欺のように、犯罪の入口はスマートフォンやSNSにも広がりました。
そして闇バイト強盗のような事件では、犯罪者が事前に住まいを調べることもあります。高齢者だけの世帯なのか。昼間は留守なのか。防犯意識は高いのか。そうした情報収集の接点として、玄関やドアホンが使われることもあるのです。
防犯アドバイザーの佐々木成三氏は、発表会で「今の犯罪者はドアホンで留守かどうかを確認する」と語っていました。つまり玄関は、単なる来客対応の場所ではなく、防犯の最前線へと変わっているのです。
AIを載せた理由は「流行り」ではなく、使いやすさのためだった
今回の新製品最大の特徴は、玄関子機にエッジAIを搭載したことです。パナソニックによれば、同社のフラッグシップモデルとしては9年ぶりのフルモデルチェンジ。顔認証と自宅前の見守りを実現するAIドアホンとして、2026年6月18日に発売されます。
AIと聞くと、最近の家電にありがちな「とりあえずAIと言っておけば新しく見える」という印象を持つ人もいるかもしれません。しかし今回のAI活用は、かなり実用に寄ったものです。
ポイントは、クラウドではなく玄関子機側でAI処理を行うエッジAIであること。つまり、カメラが付いた玄関子機の内部で顔認証や人検知を行います。通信を介さず、その場で判断できるため、来訪者に対して素早く反応できる。
ドアホンのような小さな機器は電力や処理能力に制約があります。その中で顔認証や人検知を動かすには、相当な技術的工夫が必要です。

取材で改めて印象的だったのは、AIの裏側にある“泥臭さ”でした。玄関子機のカメラは広角で周囲を広く映しますが、そのぶん映像には歪みが出ます。人が正面に立つとは限りません。
横向きの場合もあれば、子どものように背が低い場合もある。夜間もあれば、傘を差していることもある。帽子、マスク、サングラス、マネキン、動物など、人と誤認しそうな条件もあります。
そこでパナソニックは、ドアホン特有の映像環境に合わせてAIをチューニングしています。広角レンズの歪みを補正し、人の顔や体の特徴点をとらえ、さまざまな環境で検証を重ねる。説明によれば、撮影した画像に加えて大量の顔情報を用いて評価と再学習を行い、顔認証の成功率を高めているといいます。
AI家電という言葉は、ともすれば軽く聞こえます。しかし実際には、玄関という特殊な環境に合わせて、ひとつひとつの条件をつぶしていく作業の積み重ねです。
テクノロジーは高性能であること以上に、「日常の中で自然に使われる状態」まで落とし込めるかが重要です。今回のAIドアホンは、まさにそこに挑戦している製品だと感じました。
顔を覚えるドアホンが、玄関対応を変える
新製品の柱となる機能のひとつが「AI顔認証」です。
事前に登録した顔情報に応じて、来訪者を判別し、自動応対する機能です。登録できる顔情報は最大30件。家族や親戚、よく来る知人などを登録しておけば、来訪時にモニター親機側で登録名を読み上げることができます。
面白いのは、単に「誰が来たか」を表示するだけではない点です。登録された相手には通常の応対をし、未登録の相手には自動メッセージで応対する。たとえば、登録されていない人物が訪れた場合、「録画を開始します。お名前とご用件をお話しください」といったメッセージを流すことができます。
ここで重要なのは、顔認証そのものではありません。従来のドアホンは、住人自身が相手を見極める必要がありました。しかし実際には、悪意ある訪問者ほど普通の人に見えます。自治会や点検業者を名乗る人物が来た時、それが本物なのか、悪質な訪問なのか、瞬時に判断するのは簡単ではありません。
だからこそ、AIが一次対応を行い、録画や自動応答によってワンクッション置く意味があります。佐々木氏は、未登録者に対して自分の顔が録画されたと知らせることは重要な防犯対策だと説明していました。犯罪者にとって、自分の顔を録画されることは大きな心理的抑止になります。
さらに、子どもが帰宅した際に、あらかじめ録音した家族の声で「おかえり」と再生する機能もあります。一見すると微笑ましい機能ですが、防犯上の意味もあります。家の中に大人がいない時間帯でも、外からは誰かが在宅しているように見せられるからです。
ここで強調したいのは、この製品が高齢者だけに向けたものではないということです。もちろん、離れて暮らす親の家に設置する需要は大きいでしょう。しかし、子どもだけで留守番をする家庭、共働き世帯、単身世帯、女性の一人暮らし、置き配をよく使う家庭にも意味があります。
玄関先での対応は、実は生活者が最も無防備になりやすい瞬間です。相手が宅配業者なのか、点検業者なのか、自治会の人なのか、悪意ある人物なのか。だからこそ、見極めを人間だけに任せず、AIに一次対応させる価値があるのです。
“押されるまで待つ”ドアホンから、“見守る”ドアホンへ
ふたつ目の柱が「AI自宅前防犯」です。
従来のドアホンは、基本的に来訪者がボタンを押して初めて機能するものでした。しかし今回の新製品では、玄関子機が家の前を見守り、うろつきや敷地内への立ち入りを検知して自動録画します。
具体的には、設定したエリア内に約30秒間とどまる人を検知する「うろつき検知」と、敷地内に入った人物を検知する「敷地内検知」があります。敷地内検知では、録画だけでなく、玄関子機から音声で警告することも可能です。さらにスマートフォンへ通知を飛ばすこともできます。
これは、ドアホンに防犯カメラの役割が加わったと言っていいでしょう。実際、発表会で佐々木氏は「これはもうドアホンという名前を変えた方がいい」と話していましたが、まさにその通りだと思います。

専用の防犯カメラと比べれば、カバーできる範囲や機能には違いがあります。しかし、多くの家庭にとって玄関前は防犯上、最も重要な場所です。訪問販売、下見、置き配の盗難、ストーカー的な接近、闇バイト強盗の下見。そうしたリスクの多くは、まず玄関周辺に現れます。
今回の製品は、玄関前を見守るだけでなく、録画開始を音声で知らせることに意味があります。防犯とは、単に記録することではありません。犯罪を未然に諦めさせることが重要です。
録画されていると知らされる、警告音が鳴る、スマートフォンに通知が飛ぶ。こうした「想定外の反応」がある家だと相手に思わせることが、現代の防犯では大きな抑止力になります。

同時発売される屋外センサーカメラ「VL-CX800K」にも、パナソニックらしい配慮があります。実物を見ると、いかにも防犯カメラという強い存在感ではなく、外壁になじむスクエアなデザインです。
防犯カメラを付けたいが、ご近所の目が気になる。新築やリフォームで外壁にこだわったから、目立つカメラは付けたくない。そうした住宅側のリアルな心理にも応えています。
夜間の映像も確認しましたが、暗い環境でも人影の存在をかなり捉えられていました。もちろん設置環境によって見え方は変わるでしょうが、昼間だけでなく夜の見守りまで考えられている点は、玄関防犯の実用性を大きく高めています。

手ぶら解錠は“便利”よりも“安全な便利”が重要
3つ目の柱は「IoT連携」です。スマートフォンを使った外出先からの来訪者応対に加え、今回新たに手ぶら解錠にも対応します。
興味深いのは、この手ぶら解錠が単なる便利機能ではないことです。AI顔認証とスマートフォンのBluetooth認証を組み合わせることで、対応する電気錠と連携し、鍵を取り出さずに解錠できます。

顔だけで開いてしまうと、似ている人物を誤認するリスクが気になります。一方、スマートフォンだけで開いてしまうと、スマートフォンを拾った人でも開けられるのではないかという不安が残ります。
そこで顔認証とスマートフォン認証の両方を組み合わせる。つまり、顔とスマホの二重認証によって、便利さと安全性を両立させようとしているわけです。
家電や住宅設備のスマート化で難しいのは、便利さを高めるほどセキュリティへの不安も増えることです。鍵はその象徴でしょう。簡単に開けば便利ですが、簡単に開きすぎると怖い。そこをどう設計するかに、メーカーの思想が出ます。

この点でも、今回のAIドアホンは単なるスマートロック連携ではありません。玄関前で顔を見て、スマートフォンの存在も確認し、電気錠と連携する。玄関をひとつの認証空間としてとらえているのです。

また、手ぶら解錠が行われるとスマートフォンに通知が届くため、たとえば親は子どもが帰宅したことを離れた場所から確認することもできます。これは共働き世帯にとって、かなり実用的な価値です。
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