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「バルミューダの時計に6万円は高い」って言う人ほど、スマホに人生を支配されている。実際に「The Clock」を買ってみて【家電で読み解く新時代|Case.43】

「時計に6万円は高い」という批判は、半分正しく、半分間違っている

 バルミューダの「The Clock」に対して最も多い批判は、やはり価格だ。

 もちろん、誰にでも必要な製品ではない。安い時計を探している人には向かない。だが、スペック表だけを見て「高い」「使えない」と切り捨てるのは、あまりにも浅はかだ。ここでは、SNS上で見られる主な批判を整理しながら、実際に購入した立場から、この製品の価値を考えてみたい。

「時計に6万円は高い」

 この感覚自体は理解できる。一般的な目覚まし時計や置き時計と比べれば、5万9400円という価格は明らかに高い。1000円でも時計は買える。スマートフォンにも時計機能はある。アラームもタイマーも環境音アプリもある。

 ただし、この批判には大きな前提のズレがある。「The Clock」を、単なる「時刻を確認する道具」として見ている点だ。

 時間を知るだけなら、安価なデジタルクロックで十分だ。秒単位で正確に管理したいなら、CASIOの時計のほうが合理的だろう。実際、SNSでも「CASIOのほうが機能性で上回る」といった意見が見られた。

開封した瞬間から漂う、精密機器というより工芸品に近い空気感。アルミ削り出しのシルバーボディと、懐中時計を思わせるクラウンデザインが独特の存在感を放つ
開封した瞬間から漂う、精密機器というより工芸品に近い空気感。アルミ削り出しのシルバーボディと、懐中時計を思わせるクラウンデザインが独特の存在感を放つ

 だが、それは当たり前である。CASIOは時間を正確に測り、表示し、管理するためのプロダクトを磨き続けてきた世界的な時計メーカーだ。一方、「The Clock」が目指しているのは、そこではない。これは時間を“管理する”ための時計ではなく、時間を“感じる”ための道具である。

 この違いを無視して、「機能の数」や「価格あたりの性能」だけで比較すれば、当然コスパは悪く見える。しかし、それは照明をルーメン数だけで評価し、オーディオをワット数だけで評価し、腕時計を精度だけで評価するようなものだ。

 道具には、数値化しにくい価値がある。触れたときの質感、部屋に置いたときの存在感、毎日目にするたびに感じる心地よさ。「The Clock」が売っているのは、そうした体験の総体である。

 だから、「時計に6万円は高い」という批判は半分正しい。普通の時計として見れば高い。だが、時間の体験を整える道具として見たとき、その価格が単純に高いとは言い切れない。少なくとも筆者にとっては、使い始めてからの満足度は高い。

 毎日触れる道具として考えれば、決して割高な買い物ではなかった。

実際に筆者自身は初日に予約購入。スペック論争だけでは見えてこない“生活に置いた後の価値”を、自腹購入だからこそ検証できる
実際に筆者自身は初日に予約購入。スペック論争だけでは見えてこない“生活に置いた後の価値”を、自腹購入だからこそ検証できる

「24時間しか持たない」は本当に致命的なのか

 次に多い批判が、バッテリー駆動時間に関するものだ。

「24時間しか持たない時計なんてありえない」「毎日充電が必要なのは面倒」「目覚まし時計として不安」

 こうした声も目立つ。

 たしかに、数字だけ見れば24時間は短い。乾電池式の置き時計なら数カ月、あるいは1年以上動くものもある。それと比べれば、バッテリー駆動時間に不満を持つ人がいるのは自然だ。

 ただ、ここでも製品の位置づけを見誤ってはいけない。「The Clock」は、キャンプ場で何日も使うアウトドアギアではない。基本的には寝室、リビング、デスクなど、室内で置いて使う、据え置き型のクロックである。しかもUSB-C給電に対応している。つまり、挿しっぱなしで使えばいい。

 この一点を無視して、「24時間しか持たないから使えない」と断じるのは、やや強引だ。スマートフォンもApple Watchもワイヤレスイヤホンも、普通に使っていると1日はもたないし、現代人は当たり前のように毎日充電している。

 にもかかわらず、「The Clock」にだけ突然、昔ながらの乾電池式時計のような長期駆動を求めるのは、少し都合がよすぎる。

背面にはUSB Type-C端子を搭載。基本は据え置きで使う設計思想のため、充電しながらの常時使用にも自然に対応する。アルミ筐体の継ぎ目や曲面処理にも高い精度感が見える
背面にはUSB Type-C端子を搭載。基本は据え置きで使う設計思想のため、充電しながらの常時使用にも自然に対応する。アルミ筐体の継ぎ目や曲面処理にも高い精度感が見える

 もちろん、バッテリー駆動時間が長いに越したことはない。だが、そのために本体が大きくなり、デザインが崩れ、重量が増し、手のひらに収まる道具としての美しさが損なわれるなら、それは別の問題を生む。

「The Clock」は、すべてを盛り込む製品ではない。必要な機能を絞り込み、アルミ削り出しの小さなボディに、光、音、操作感を詰め込んだ製品だ。巨大なバッテリーを積まなかったことは、単なる弱点ではなく、設計思想の結果でもある。

 最近のガジェットは、何でも“全部入り”に向かいがちだ。長時間駆動、多機能、高性能、AI対応。だが、その結果として道具の個性が薄まり、部屋に置きたいと思える美しさを失っている製品も少なくない。「The Clock」はその逆を選んだ。

 やることを絞り、やらないことを決めた。それを「スペック不足」と見るか、「思想のある設計」と見るかで、この製品への評価は大きく変わる。

手のひらに収まるほどコンパクトな本体サイズ。しかし実際に持つと、アルミ削り出しならではの密度感と重量感があり、“小さいのに高級”という感覚がしっかり伝わってくる
手のひらに収まるほどコンパクトな本体サイズ。しかし実際に持つと、アルミ削り出しならではの密度感と重量感があり、“小さいのに高級”という感覚がしっかり伝わってくる

「スマホで十分」という言葉こそ、現代人の問題を表している

 もっとも象徴的なのが、「スマホで十分」という批判だ。

 たしかに、スマホには時計がある。アラームもある。タイマーもある。環境音も流せる。機能だけを取り出せば、「The Clock」でできることの多くはスマホでも代替できる。

 だが、問題はそこではない。現代人は、時間を確認するためにスマホを見る。すると通知が目に入る。メッセージが目に入る。メールが目に入る。SNSが目に入る。時間を知りたかっただけなのに、気づけばニュースを読み、動画を見て、どうでもいい投稿に反応している。

 つまりスマホは、時計である前に“情報の入口”なのである。この入口を、寝る直前にも、起きた瞬間にも、私たちは当たり前のように開いている。

 これは便利である一方、かなり危険な状態でもある。自分の時間を確認するつもりが、他人の情報に時間を明け渡しているからだ。

ベッドサイドやシェルフに置いたとき、The Clockは単なる時計ではなく“静かな時間を作る装置”として機能する。スマホを寝室から遠ざけるだけで、空間のノイズが驚くほど減っていく
ベッドサイドやシェルフに置いたとき、The Clockは単なる時計ではなく“静かな時間を作る装置”として機能する。スマホを寝室から遠ざけるだけで、空間のノイズが驚くほど減っていく

「The Clock」を使い始めて、筆者が最も大きく変わったと感じたのはここだ。アラームをスマホから切り離すことで、寝室にスマホを持ち込まなくなった。夜、無意識にSNSを見る時間が減った。朝、目覚めた瞬間に通知を確認することも減った。

 それだけで、寝室の空気が変わる。これは大げさではない。バルミューダの寺尾玄氏もこの点については触れていたが、スマホがないだけで、部屋は静かになる。外の世界とつながる玄関が、寝室から消える。その効果は、想像以上に大きい。

 だからこそ、「スマホで十分」という言葉には違和感がある。むしろ、その発想こそが、スマホに人生を支配されている証拠ではないかと思う。

 時間を見るだけなのにスマホを開く。起きるためだけにスマホを枕元に置く。眠る直前までスマホを手放せない。

 その状態を疑わずに「スマホで十分」と言うなら、The Clockが提示している本質を見落としている。

夜は柔らかな光で時の流れを伝え、朝は音と光で静かに目覚めを促す。読書環境や睡眠環境を変えるきっかけになる存在だ
夜は柔らかな光で時の流れを伝え、朝は音と光で静かに目覚めを促す。読書環境や睡眠環境を変えるきっかけになる存在だ

「時間が見づらい」という批判への違和感

「針がないから時間がわかりにくい」「パッと見で時刻を読みづらい」

 こうした批判もある。

 これも一理ある。厳密な時刻を瞬時に把握したい人にとって、The Clockの表示は一般的なデジタル時計ほど直感的ではないかもしれない。しかし、この製品はそもそも“秒単位で時間に追われるための時計”ではない。

「The Clock」の特徴は、光による時刻表現「Light Hour」にある。針やカバーガラスを用いず、光の動きによって時刻と時の流れを表現する。毎正時には振り子時計から着想を得た光のモーションとサウンドが時の経過を知らせる。

 つまりこれは、時間を記号として読み取る時計ではなく、時間の流れを感覚として受け取る時計だ。

 効率を重視する人から見れば、それはまどろっこしいかもしれない。だが、時間をただの数字としてではなく、空間の中に漂うものとして感じる。その発想自体が、この製品の価値である。

 時間を管理する時計は、すでに世の中に大量にある。だが、時間を穏やかに感じさせる時計は、意外なほど少ない。「The Clock」は、その空白を狙った製品だ。

側面に備えられた3種類の物理ボタンと、懐中時計を思わせる上部クラウン。タッチUI全盛の時代に、あえて“押す”“回す”という操作感を残したことで、道具としての触感的な楽しさが生まれている。アルミの素材感と金属パーツの反射も美しい
側面に備えられた3種類の物理ボタンと、懐中時計を思わせる上部クラウン。タッチUI全盛の時代に、あえて“押す”“回す”という操作感を残したことで、道具としての触感的な楽しさが生まれている。アルミの素材感と金属パーツの反射も美しい

デザイン家電ではなく、音と光のプロダクトである

「The Clock」は、見た目のデザインだけで語られがちだ。たしかにアルミ削り出しのボディは美しい。伝統的な懐中時計から着想を得たフォルムも、かなり独特だ。

 上部のクラウン、側面の物理ボタン、背面のUSB-C端子まで含め、クラシックな時計の意匠と現代的なインターフェースをうまく融合させている。

 だが、この製品の価値は外観だけではない。実際に使ってみると、むしろ音と光のプロダクトであることがわかる。小さなボディにウーファーとツイーターを備え、リラックスタイムでは雨音や暖炉の音、森の朝を思わせるサウンドが空間に広がる。これは単なるアラーム音ではない。部屋の空気を変える音だ。

 また、タイマー使用時にはホワイトノイズが流れ、周囲の雑音をマスキングする。読書や仕事、思考に集中したいときには、この機能が意外なほど効く。

 つまりThe Clockは、置き時計というより、音と光で時間の質を調整する小さな環境装置に近い。

 この体験は、写真やスペック表だけではわからない。だからこそ、実物に触れていない批判はどうしても浅くなる。

デスク脇に置いて、The Clockをタイマーとして機能させる。ホワイトノイズや環境音が周囲の雑音をやわらげ、仕事や読書への集中を自然にサポートしてくれる
デスク脇に置いて、The Clockをタイマーとして機能させる。ホワイトノイズや環境音が周囲の雑音をやわらげ、仕事や読書への集中を自然にサポートしてくれる

なぜバルミューダだけ、ここまで叩かれるのか

 もうひとつ考えたいのは、なぜバルミューダが出すと、ここまで批判が集まるのかということだ。

 もちろん、過去の製品展開への評価や、スマートフォン事業への記憶も影響しているだろう。だがそれ以上に、バルミューダは“普通の家電メーカー”とは違う立ち位置を取ってきたブランドである。

 日本の家電は長く、失敗しないことを重視してきた。多機能で、安定していて、価格に対して合理的。もちろんそれは素晴らしい強みだ。しかし、その一方で「どうしても欲しい」と思わせるプロダクトは減っていった。

 バルミューダは、そこに感情価値を持ち込んだブランドである。扇風機に自然の風を、トースターに焼きたての感動を、ランタンに空間の物語を持ち込んできた。The Clockも同じだ。だから、スペック合理主義の人には理解されにくい。

 一方で、刺さる人には深く刺さる。この賛否の分かれ方こそ、バルミューダらしいとも言える。

ヴィンテージ感のある照明や家具とも相性が良いThe Clock。単なるデザイン家電ではなく、“空間の物語性”まで含めて設計されていることがわかる
ヴィンテージ感のある照明や家具とも相性が良いThe Clock。単なるデザイン家電ではなく、“空間の物語性”まで含めて設計されていることがわかる

まずは購入してみることをおすすめしたい

 もちろん、「The Clock」が誰にでも必要だとは思わない。

 価格は高い。バッテリー仕様に不満を持つ人もいるだろう。表示方法が合わない人もいるはずだ。環境音が好みに合わない人もいるかもしれない。

 それは当然だ。ただし、実機に触れず、生活に置かず、スペックだけで「使えない」と断じるのは違う。それはレビューではなく、反射である。

「The Clock」は、生活の中に置いて初めて意味がわかる製品だ。寝室に置き、スマホを遠ざけ、リラックスタイムを流し、朝のアラームを受け取る。その一連の体験を通じて初めて、この製品が何をしようとしているのかが見えてくる。

 

専用アプリ「BALMUDA Connect」では、アラーム設定やサウンド管理、バッテリー残量確認などが可能。単なる時計販売ではなく、アプリやサービスを含めた“体験型プロダクト”へ拡張しようとするBALMUDAの思想も見えてくる
専用アプリ「BALMUDA Connect」では、アラーム設定やサウンド管理、バッテリー残量確認などが可能。単なる時計販売ではなく、アプリやサービスを含めた“体験型プロダクト”へ拡張しようとするBALMUDAの思想も見えてくる

 筆者は購入してよかったと思っている。少なくとも、決して高すぎる買い物ではなかった。時計を買ったという感覚ではない。自分の時間との距離感を整える道具を買った、という感覚に近い。

 だから、あえて言いたい。「時計に6万円は高い」と思う人ほど、まず一度、自分がどれだけスマホに時間を奪われているかを考えてみてほしい。

 そのうえで、「The Clock」を買ってみたらいい。きっとこれは、単なる時計ではない。スマホに支配されている日常から、自分の時間を取り戻すための、かなり本気の道具なのだから。

●製品概要
The Clock
価格:5万9400円(税込)
本体サイズ:幅75mm × 奥行き36.5mm × 高さ105mm (リング含む)
重量:約259g
カラー:シルバー
表示方式:Light Hour(光による時刻表示)
サウンド機能:リラックスタイム音源/アラーム/ホワイトノイズ/時報
スピーカー構成:ウーファー+ツイーター内蔵
操作系:クラウン操作/物理ボタン3種搭載
接続端子:USB Type-C
電源:内蔵バッテリー/USB給電
バッテリー駆動時間:約24時間※使用状況により前後します
充電時間:約2.5時間

Gallery 【画像】えっ...時計でこのカッコよさ!? 賛否両論を呼ぶバルミューダ「The Clock」を写真で見る(30枚)
滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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