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ハイアールはなぜスポーツに本気なのか? PSG、リヴァプール、羽生結弦が示す“家電ブランド再定義”の現在地【家電で読み解く新時代|Case.42】

中国系家電メーカーが世界スポーツの表舞台に出てきた

 ここ数年、世界のスポーツイベントを見ていると、中国系家電・エレクトロニクス企業の存在感が明らかに高まっています。

 ハイセンスは、FIFAワールドカップやUEFA EUROなど、世界中が注目するスポーツイベントを通じてグローバルでの認知を高めてきました。テレビやレーザーTVを主力にしてきた同社にとって、スポーツ観戦は非常にわかりやすい接点です。

 世界中が見る試合を、どの画面で見るのか。そこに自社の映像技術を重ねる戦略です。

 TCLも、2032年までのワールドワイド・オリンピック&パラリンピック・パートナーとして、ホームAV機器およびホームアプライアンスのカテゴリーで存在感を高めています。スポーツの感動を、より大きく、美しく、没入感のある映像で届ける。こちらもまた、製品特性とスポーツが直結しやすいアプローチです。

“家電界のチャンピオン企業”としての存在感を打ち出していた
“家電界のチャンピオン企業”としての存在感を打ち出していた

 ただし、今回のハイアールは少し違います。

 ハイアールも世界的なスポーツマーケティングに力を入れていますが、同社のグローバルでの中核は冷蔵庫、洗濯機、冷凍庫などの白物家電です。つまり、スポーツを“見る”ためのメーカーというより、スポーツのある日常を支えるメーカーなのです。

 この違いが、今回のポップアップイベントを見るうえで非常に重要でした。

複数のドラムを備えた洗濯機など、ハイアールのグローバルモデルが並んでいた
複数のドラムを備えた洗濯機など、ハイアールのグローバルモデルが並んでいた

ハイアールはすでに「家電界のチャンピオン」である

 ハイアールのスポーツ戦略を考えるうえで、まず押さえておきたいのは、同社がすでに家電界のチャンピオン企業であるという事実です。

 ハイアールは、ユーロモニター・インターナショナルの2025年販売台数データに基づき、大型家電ブランドの世界販売台数シェアで17年連続No.1に認定されています。

 さらに冷蔵庫(18年連続)、洗濯機(17年連続)、冷凍庫(15年連続)など、複数の生活家電カテゴリーでも長年にわたって世界トップの実績を持っています。

 つまりハイアールは、これから世界に出ていこうとしている挑戦者ではありません。すでに世界中の暮らしの中に入り込んでいる巨大な生活家電ブランドです。

 だからこそ、今回のスポーツマーケティングは単なる認知度向上策ではないと感じました。すでに世界で売れている企業が、次に何を取りにいくのか。そこで必要になるのは、販売台数の大きさだけではなく、生活者がブランドに感情移入できる物語です。

ハイアールのスポーツマーケティングの歩みを紹介するステージスクリーン
ハイアールのスポーツマーケティングの歩みを紹介するステージスクリーン

 家電は、暮らしのなかでとても重要な存在です。冷蔵庫は毎日食材を守り、洗濯機は衣類を整え、エアコンは部屋の空気を快適にします。ただ、優れた家電ほど、暮らしの中では意識されにくいものでもあります。よく冷える、よく洗える、快適に過ごせる。それらはやがて“当たり前”になるからです。

 この当たり前を、どうブランド価値に変えるのか。ハイアールがスポーツに本気で取り組む理由は、そこにあるのではないでしょうか。

 家電界のチャンピオン企業が、スポーツ界のチャンピオンたちと組む。その構図は非常にわかりやすく、強い。世界No.1の家電ブランドが、世界的なクラブやトップアスリートと並ぶ。その構図だけで、スペックや価格だけでは伝えにくいブランドの格が、直感的に伝わってくるのです。

ポップアップイベントは単なる展示ではない“ブランドの翻訳”

 東京ミッドタウンで開催された「Champion Your Haier Life」は、ハイアールのスポーツマーケティングを日本の生活者に向けて可視化する場でした。なお本イベントは、マレーシアやタイ・バンコクに続くグローバル展開の一環として開催されたものです。

 ポップアップイベント会場には、パリ・サンジェルマン(以下PSG)やリヴァプールFCとの連携を感じさせる演出、スポーツをテーマにしたフォトスポット、羽生結弦さんに関連する展示、そしてハイアールの最新技術や製品が並んでいました。

 興味深いのは、スポーツの熱狂と家電の展示が、単に並列で置かれていたわけではないことです。イベント全体として、「チャンピオンスピリットを日常のライフシーンへ」というメッセージにまとめられていました。

 スポーツは、勝利や挑戦、努力、情熱を象徴します。一方、家電は暮らしの安定や快適さを支えるものです。一見すると遠いように見えるこの2つを、ハイアールは「日常をよりよくする」という文脈で接続しようとしていました。

ハイアール スマートホームのグローバルブランド部部長 ワン・ナ氏が登壇
ハイアール スマートホームのグローバルブランド部部長 ワン・ナ氏が登壇

 たとえば、サッカーの試合を自宅で観る夜を想像してみます。冷蔵庫には飲み物が冷えている。冷凍庫には料理やつまみの食材がある。洗濯機はユニフォームやタオルを整える。エアコンは人が集まる部屋の空気を快適にする。試合が終われば、また日常へ戻っていく。

 スポーツ体験は、テレビの前だけで完結していません。その前後にある暮らしの時間まで含めて、ひとつの体験になっています。ハイアールは、そこに入り込めるメーカーです。

 映像体験を入り口にするメーカーがスポーツと組むのはわかりやすい。一方でハイアールは、スポーツを見る瞬間だけでなく、スポーツのある暮らし全体を支えることができる白物家電メーカーです。今回のイベントで見えたのは、その強みをブランド価値へと翻訳しようとする試みでした。

中国市場などで展開されている冷蔵庫やエアコンなどの最新家電とともに、PSGを想起させる演出も
中国市場などで展開されている冷蔵庫やエアコンなどの最新家電とともに、PSGを想起させる演出も

PSGは“サッカークラブ”ではなくライフスタイルブランド

 ポップアップイベント開幕式で印象的だったのは、パリ・サンジェルマン側の登壇者が、PSGを単なるサッカークラブとしてではなく、ファッション、音楽、アート、文化まで含む存在として語っていたことです。

 PSGは、パリという都市の華やかさやカルチャー性を背負うクラブです。サッカーの強豪であると同時に、世界中のファンにとってはライフスタイルブランドに近い存在でもあります。

 試合を見るだけではなく、ユニフォームを着る、グッズを持つ、街のカルチャーとして楽しむ。PSGは、スポーツと生活文化をつなぐブランドなのです。

 ハイアールがPSGと組む意味は、そこにあります。単にサッカーファンへロゴを見せるためではありません。家電ブランドであるハイアールが、生活文化の中に入り込むためのパートナーとして、PSGは非常に相性がいい。

開幕式には、パリ・サンジェルマンFCのCROであるリチャード・ヒースルグレイブ氏、リヴァプールFCのディレクター/パートナーシップセールスを務めるピーター・ハロッド氏も登壇
開幕式には、パリ・サンジェルマンFCのCROであるリチャード・ヒースルグレイブ氏、リヴァプールFCのディレクター/パートナーシップセールスを務めるピーター・ハロッド氏も登壇

 リヴァプールFCもまた、熱狂的なファン文化を持つ世界的クラブです。長い歴史、地域との結びつき、試合の日の高揚感。それらは単なるスポーツコンテンツではなく、人々の生活に根づいた感情そのものです。

 ハイアールがこの2つのクラブと組むことで得ようとしているのは、単なる露出ではありません。スポーツが持つ情熱や物語を、自社ブランドの意味へと重ねていくことなのです。

Next羽生結弦は “チャンピオンスピリット”の翻訳者である
Gallery 【画像】スポーツを通じてブランドの見え方を変えようとするハイアールの意志を写真で見る(36枚)
「カチッ」と日常をオフに。至福の時を刻む、マインドフルネス
滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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