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“目が合う”だけで、人はロボットを迎え入れるのか? ユカイ工学・青木俊介氏に聞く、mirumi(みるみ)が開く「かわいい」の先【家電で読み解く新時代|Case.41】

目が合った瞬間、ぬいぐるみは“存在”になる

 発表会場でmirumi(みるみ)を見ていて、最初に強く引っかかったのは、毛並みでもサイズでもない。目だった。

 こちらをちらりと見る。視線が合った気がする。すると見る側は、その小さな動きに勝手に感情を読み込み始める。恥ずかしがっているのか、気になっているのか、少し警戒しているのか。単なるぬいぐるみなら、ここまで想像は広がらない。だが、mirumiは目が合うことで、ただのモノから“何かを感じていそうな存在”へ変わる。

グレー、アイボリー、ピンクの3色を並べたmirumi。ふわふわした毛並みと黒い目の組み合わせが、それぞれ微妙に異なる表情を感じさせる
グレー、アイボリー、ピンクの3色を並べたmirumi。ふわふわした毛並みと黒い目の組み合わせが、それぞれ微妙に異なる表情を感じさせる

 その感覚についてユカイ工学のCEO 青木俊介氏に聞くと、mirumiの原点は、やはりそうした日常の小さな感情の揺れにあった。

「僕たちはプロダクトを考える時、日常生活の経験の中で、ふとうれしかった瞬間みたいなところをアイデアの起点にしています」

 さらに青木氏は、mirumiの出発点をこう説明した。

「最初に『ロボットを持ち歩く』というアイデアがあったんです。ただ、持ち歩くだけだとちょっとまだ弱い。そこで、赤ちゃんと目が合った時につい笑顔になってしまうような体験が入ると、その存在が気になってしまうのではないかと考えました」

 mirumiの語源は「見る+ぬいぐるみ」だという。これは単なるネーミングの可愛らしさではない。触れる前に、まず視線で感情を動かす。そこにこのプロダクトの核がある。

 ユカイ工学の公式説明でも、mirumiは「抱っこ紐の中の赤ちゃんに見つめられて思わず手を振る」といった、意図せず共有されるやさしい感情の動きから着想したとされている。

ユカイ工学 CEOの青木俊介氏。mirumiは、日常の中の“ふと心が動く瞬間”を起点に発想したプロダクトだと語った
ユカイ工学 CEOの青木俊介氏。mirumiは、日常の中の“ふと心が動く瞬間”を起点に発想したプロダクトだと語った

“かわいい”の中心にあるのは、質感ではなく目だった

 家電やガジェットの取材をしていると、つい機能や構造から入りたくなる。どんなセンサーを積んでいるのか、どう駆動するのか、何時間動くのか。もちろんそれらは重要だ。

 mirumiも、音や声の方向に反応し、頭部へのタッチに応答し、約2時間の充電で約8時間動作する。価格は税込1万9800円。ピンク、アイボリー、グレーの3色展開だ。

 だが、この製品に関しては、それだけでは本質を取りこぼす。mirumiの魅力は、スペックの前に、目が感情を起動してしまうことにある。

 ふわふわした質感は「触れたい」を生む。しかし、目は「気持ちを読みたい」を生む。こちらを見ているようで、見ていない。見ていないようで、またちらっと見る。その往復の中で、人は相手に勝手に内面を与え始める。ここが面白い。

 AIやロボットの進化は、ともすると性能や知能の話になりがちだが、人の感情が最初に動く入口は、もっと原始的で、もっと身体的なものなのだ。

 実際、青木氏も「目が合う」体験をかなり重視していた。CES 2025で発表した段階から、抱きつくだけではなく、「目が合ううれしさ」が加わったことで今のmirumiに近づいていったという。

 つまり、mirumiは目を持ったからかわいくなったのではない。“見るぬいぐるみ”として設計されたから、目がすべての感情を引き出すトリガーになったのだ。

mirumiの「目のパーツ」にはかなりこだわったという。視線の印象を左右する目元を作り込んでいった。小さな違いが、見られている感覚や表情の印象を大きく左右することがわかる
mirumiの「目のパーツ」にはかなりこだわったという。視線の印象を左右する目元を作り込んでいった。小さな違いが、見られている感覚や表情の印象を大きく左右することがわかる

mirumiは、便利さではなく「心がゆるむ瞬間」を設計している

 いまAIやロボットは、どうしても「何ができるか」で語られやすい。どこまで先回りできるか。どれだけ自律的に動けるか。どこまで効率化できるか。だが、mirumiはその競争軸に正面から乗っていない。

 そのことを青木氏は、囲み取材でかなりはっきり言葉にしていた。

「便利なだけのものは作らない。“愉快”工学なんで、便利さっていうのはあんまり追求してはいないんです」

 この発言は重い。家電業界は長く、課題解決の進化で市場を広げてきた。掃除機は軽く強く、洗濯機は自動化し、冷蔵庫は鮮度を延ばし、エアコンは省エネと快適性を競ってきた。その延長でロボットを見れば、「もっと賢く」「もっと便利に」が当然の正解になる。

 しかし、人が生活の中へ迎え入れたい存在は、本当にそれだけだろうか。ペットはわかりやすい。面倒は増える。効率だけを考えれば、いないほうが楽だ。それでも人は、そこに共感し、お金を払い、手間を引き受ける。

 mirumiが示しているのは、ロボットもまた“役に立つこと”だけではなく、“気にかけたくなること”で生活へ入っていけるという可能性だ。

 ユカイ工学の公式リリースでも、mirumiは「スマートさや便利さを追求する」のではなく、「ふとした瞬間に心がゆるむ体験」を設計するロボットだと位置づけられている。青木氏の発言は、その思想をさらに生々しく裏づけていた。

「恥ずかしがり屋」「好奇心旺盛」「生物感のある動き」「行動原理がわかりそうでわからない感じ」。mirumiのかわいさは、思い通りにならなさまで含めて設計されている
「恥ずかしがり屋」「好奇心旺盛」「生物感のある動き」「行動原理がわかりそうでわからない感じ」。mirumiのかわいさは、思い通りにならなさまで含めて設計されている

可愛さの正体は「思い通りにならなさ」にある

 mirumiを見ていてもうひとつ印象的だったのは、反応が少しだけ読めないことだ。呼べば必ず見るわけではない。撫でればいつでも同じ反応を返すわけでもない。少し気まぐれで、少しあまのじゃくだ。

 ここに、今の多くのAI機器とは違う気配がある。多くの機械は、命令通りに動くほど優秀だと評価される。だが、mirumiの魅力はむしろ逆だ。少し読めないから気になる。少し思い通りにならないから、そこに生き物らしさが宿る。

 この点について青木氏は、囲みの場でこう語っている。

「不確実性みたいなものが、結構大事だと思っています」

 そしてさらにこう続けた。

「予測できそうで実際には予測できないっていうのが、やっぱり可愛さにつながってる」

約100種類のふるまいを紹介するスライド。細かな動きの積み重ねが、mirumiを“ただ動くもの”ではなく“気になる存在”に変えている
約100種類のふるまいを紹介するスライド。細かな動きの積み重ねが、mirumiを“ただ動くもの”ではなく“気になる存在”に変えている

 この見方は鋭い。人は完全に制御できるものに対しては、すぐに飽きる。だが、少しだけ予測が外れる相手には、注意を向け続ける。

 mirumiの“ちら見”は、その最小単位の実装と言っていい。視線を少し外す。呼んだのに無視する。下を向いてから、そっと見る。そのわずかなズレが、見る側に感情の余白を生み、結果として「かわいい」に変わる。

 スペック競争が激しくなる時代に、あえてこうした曖昧さを残すことは、起業家的にも興味深い。機能を足すのではなく、感情の余白を設計する。mirumiは、商品開発の競争軸を少しずらしている。そこにユカイ工学らしさがある。

「連れ出したくなる」「目が合う」「かわいい」「赤ちゃん」。mirumiの開発キーワードには、このロボットが性能ではなく感情から設計されたことが表れている
「連れ出したくなる」「目が合う」「かわいい」「赤ちゃん」。mirumiの開発キーワードには、このロボットが性能ではなく感情から設計されたことが表れている

ファッションの力を借りて、ロボットを街へ連れ出す

 mirumiのもうひとつの新しさは、ロボットをファッションの文脈へ持ち込んだことだ。2024年の社内イベント「メイカソン」で生まれ、2025年1月のCESで注目を集め、その後Kickstarterで世界32の国と地域から支援を集めた。

 さらに2026年2月にはミラノ・ファッションウィークでのコラボにもつながっている。香港のLane CrawfordやロンドンのHarrodsでの展開も予定されている。

 この点を青木氏に聞くと、答えは明快だった。

「ファッション分野に進出というよりは、ロボットのマーケットが広がっていく上で、ファッションの力っていうのがすごく強いんです。ファッションの力を借りることで、ロボットが社会の中に、身の回りに広まっていけるんじゃないかと感じています」

 これは重要な視点だ。mirumiは、ロボットがファッションに“進出した”のではない。ロボットを人の生活文化へ浸透させるために、最も自然な回路としてファッションを使っているのである。

 実際、CESで強い反応を示したのも、ティーンより、大人の女性、それもファッション感度の高い層だったという。バッグにつけて街へ出る。誰かに見られる。会話のきっかけになる。

 ロボットが家の中の固定物ではなく、持ち歩く存在になる。この変化は小さくない。家電の歴史を振り返っても、生活に本当に浸透する製品は、性能だけでなく、持ち運び方や見せ方まで含めて文化になる。mirumiはそこに近い場所へ踏み込んでいる。

Instagramでもさまざまなインフルエンサーたちがmirumiを発信し続けている
Instagramでもさまざまなインフルエンサーたちがmirumiを発信し続けている

AI時代に、人が本当に迎え入れたいロボットとは何か

 今回の取材で最も興味深かったのは、mirumiそのものより、その先にある青木氏のロボット観だった。いずれこうしたコンパニオンロボットにもAIは入っていくだろう。その前提は共有しつつも、氏は“完璧すぎるロボット”が家庭に入る未来に対して、かなり率直な違和感を示した。

「人型のものが家にいるって、そもそもかなり怖いですよね」

 さらにこう続ける。

「それが人と同じような賢さを持って、自分のことを全部理解していると、もうなんか怖いですよね。過去のことも全部知っている。そんな未来はみんな望んでないと思います」

 この発言は、いまのAI議論への強いカウンターでもある。AIが賢くなることと、人が心地よく暮らせることは同じではない。すべて理解し、先回りし、管理してくれる存在は便利かもしれないが、必ずしも“そばに置きたい存在”ではない。

 では、これから人が迎え入れるロボットには何が必要なのか。青木氏の答えは、mirumiそのものに近い。

「そういう完璧なものがいきなり家に入ってくるより、ちょっと隙のあるロボットがまず生活の中に入ってくるほうが、人類にとって自然な道筋だと思います」

電車内などでふと赤ちゃんと目が合った経験はないだろうか? あの幸せを感じる瞬間をmirumiからも同じように感じられる
電車内などでふと赤ちゃんと目が合った経験はないだろうか? あの幸せを感じる瞬間をmirumiからも同じように感じられる

 この言葉を聞いたとき、mirumiは“かわいい小型ロボット”ではなく、AI時代の受容のプロトタイプなのだと感じた。まず人は、全部できる存在ではなく、少しだけ読めなくて、つい気にしてしまう存在を受け入れる。そうだとすれば、mirumiの未来は「かわいい」の先にある。

 ロボットが人の生活へ入るとき、本当に必要なのは性能の誇示ではない。恐れをほどき、感情をやわらかく動かす、小さな設計である。mirumiの目が引き出しているのは、単なる愛嬌ではない。見返す、気にする、笑ってしまう、連れ出したくなる。そうしたごく小さな感情の連鎖だ。

 そしてその連鎖こそが、AIやロボットの未来を、効率化だけではないものへ開いていくのかもしれない。mirumiはその入口に立っている。こちらをちらりと見る、あの小さな目で。

●製品概要
ユカイ工学 チャームロボット「mirumi(みるみ)」
価格:1万9800円(税込)
発売日:2026年4月23日
カラー:ピンク、アイボリー、グレー
主な特徴:バッグなどに取り付けて持ち歩けるチャーム型ロボット。周囲の音や声の方向に反応して“ちら見”し、頭をなでると動きで応える。
連続動作時間:約8時間
充電時間:約2時間
販売:mirumi公式オンラインストア、蔦屋書店・蔦屋家電の一部店舗で先行展示販売

Gallery 【画像】ちょっとまって、可愛すぎる! “ちら見”するチャームロボット「mirumi(みるみ)」を写真で見る(22枚)
「カチッ」と日常をオフに。至福の時を刻む、マインドフルネス
滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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