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「デロンギ一強」に東芝が挑む? 全自動エスプレッソマシンに見えた“日本仕様”の勝算

デロンギの本丸で見た“文化としての家電”

 約10年前、筆者はイタリア北部の街、トレヴィゾを訪れたことがある。目的は、デロンギ本社とエスプレッソマシン工場の取材だった。

 現地で見たのは、単なる家電の製造現場ではなかった。イタリアの生活文化、コーヒーを飲む時間へのこだわり、キッチンに置かれる道具としての美意識、そして実際のコーヒー豆を使って全数検査するなど、毎日使う機械としての品質。そのすべてが、エスプレッソマシンという一台の家電に凝縮されていた。

 エスプレッソマシンは、ただコーヒーを抽出する機械ではない。豆を挽き、圧力をかけ、クレマのある一杯を淹れる。その一連の行為には、イタリアのバール文化や、日常の中でコーヒーを楽しむ生活のリズムがある。

 だからデロンギは強い。機能の多さだけでなく、エスプレッソを家庭で楽しむという行為そのものを、ブランドの世界観として提案してきたからだ。

 その市場に、東芝ライフスタイルが参入した。製品名は「全自動エスプレッソ&ラテマシン ELM-A1B」。

 豆を挽くところから抽出までを全自動で行い、エスプレッソ、ホットコーヒー、アイスコーヒー、ラテマキアート、カプチーノ、ミルクフォーム、お湯の全7メニューをワンタッチで楽しめる家庭用マシンである。

 オープン価格だが、市場想定価格は11万円前後。決して安い商品ではない。では、デロンギ一強ともいえる市場で、東芝ライフスタイルはどこに勝機を見出しているのか。

東芝ライフスタイルの全自動エスプレッソ&ラテマシン「ELM-A1B」。豆を挽くところから抽出までを全自動で行い、エスプレッソ、ホットコーヒー、アイスコーヒー、ラテマキアート、カプチーノ、ミルクフォーム、お湯の全7メニューに対応する。キッチンに置いたときの佇まいもすっきりしており、“本格マシン”でありながら日常の生活家電として使いやすいサイズ感にまとめられている
東芝ライフスタイルの全自動エスプレッソ&ラテマシン「ELM-A1B」。豆を挽くところから抽出までを全自動で行い、エスプレッソ、ホットコーヒー、アイスコーヒー、ラテマキアート、カプチーノ、ミルクフォーム、お湯の全7メニューに対応する。キッチンに置いたときの佇まいもすっきりしており、“本格マシン”でありながら日常の生活家電として使いやすいサイズ感にまとめられている

Mideaのグローバル製品を、日本仕様に磨き込む

 今回のELM-A1Bは、東芝ライフスタイルがゼロから単独で開発した製品というより、Mideaのグローバル製品をベースに、日本市場向けにチューニングしたモデルだ。

 商品企画担当者はこう説明する。

「もともと海外で展開されていたモデルをそのまま日本に持ってきたわけではありません。日本の安全基準に合わせるだけでなく、味の濃さや抽出バランスも、日本市場向けに調整しています」

 筆者は数年前、ドイツ・ベルリンで開催された世界最大級の家電見本市「IFA」で、Mideaのブースに展示されていた全自動エスプレッソマシンを目にしていた。

 中国メーカーの存在感は、この10年で大きく変わった。かつての「安く大量に作るメーカー」という印象から、世界市場に向けた製品開発力、量産力、デザイン、ソフトウェアを持つ巨大家電メーカーへと進化している。

抽出口まわりには「Espresso & Latte」の文字が入る。全自動エスプレッソマシンという機能性だけでなく、キッチンに置いたときの印象や所有感にも配慮したデザインだ。東芝ライフスタイルは、Mideaのグローバル製品をベースにしながら、日本市場向けに味の濃さや抽出バランス、使い勝手をチューニングしている。
抽出口まわりには「Espresso & Latte」の文字が入る。全自動エスプレッソマシンという機能性だけでなく、キッチンに置いたときの印象や所有感にも配慮したデザインだ。東芝ライフスタイルは、Mideaのグローバル製品をベースにしながら、日本市場向けに味の濃さや抽出バランス、使い勝手をチューニングしている。

 東芝ライフスタイルは2016年からMideaグループに参画している。今回の製品は、Mideaの製品力と、東芝ライフスタイルが持つ日本市場への理解が掛け合わされた一台といえる。

 ここに、いまの家電業界のリアルがある。もはや日本メーカーがすべてを自前で作る時代ではない。重要なのは、グローバルで成熟した製品プラットフォームをどう活用し、各市場に合わせてどう磨き込むかだ。

デロンギの真似ではなく、“日本の生活家電”として勝負する

 デロンギの強さは、イタリアのコーヒー文化を背負っていることにある。だから、東芝ライフスタイルが同じ土俵で「本場感」を競っても、勝ち目は薄い。

 では、どこで勝負するのか。答えは、デロンギの真似をしないことだと思う。

「当初のサンプルは、中国市場向けの味のバランスに近く、日本人の感覚では少し薄く感じる部分がありました。これがエスプレッソなのか、と感じるところもあったので、商品企画や技術のメンバーで実際に飲みながら、メニューごとの味の濃さやバランスを見直しました」(商品担当者)

操作パネルには、エスプレッソ、コーヒー、アイスコーヒー、ラテマキアート、カプチーノ、ミルクフォーム、お湯の7メニューを表示。飲みたいメニューを選べば、豆挽きから抽出まで自動で進められる。コーヒーの濃度や抽出量、ミルクフォーム量も調整できるため、自分好みの一杯に近づけやすい
操作パネルには、エスプレッソ、コーヒー、アイスコーヒー、ラテマキアート、カプチーノ、ミルクフォーム、お湯の7メニューを表示。飲みたいメニューを選べば、豆挽きから抽出まで自動で進められる。コーヒーの濃度や抽出量、ミルクフォーム量も調整できるため、自分好みの一杯に近づけやすい

 味のチューニングだけでなく、豆の挽き方にもこだわっている点は見逃せない。ELM-A1Bはコニカル式グラインダーを採用し、低速回転で豆を挽くことで摩擦熱を抑える。

 コーヒー豆は熱の影響を受けやすいため、挽く段階で余計な熱を加えにくいことは、香りや風味を引き出すうえで重要なポイントになる。

 コーヒーは嗜好品である。同じエスプレッソでも、国や地域によって好まれる味の濃さ、苦み、ミルクとのバランスは異なる。中国市場で好まれる味と、日本市場で好まれる味は当然違う。そこを調整せずに持ち込めば、スペックは十分でも、生活の中には入り込めない。

 この“最後の味の調整”こそ、日本市場に向けた家電づくりでは重要だ。カタログに大きく書かれる機能ではなく、使った瞬間に「あ、これなら毎日使える」と感じるかどうか。その感覚の差が、家電の評価を大きく左右する。

ELM-A1Bは、グラインダーにコニカル式を採用。円錐状の刃で豆をすりつぶすように挽くことで、低速回転でも均一に挽きやすく、摩擦熱を抑えやすい。コーヒー豆は熱の影響を受けやすいため、抽出前の“挽く”工程にこだわることは、香りや風味を引き出すうえで重要なポイントになる
ELM-A1Bは、グラインダーにコニカル式を採用。円錐状の刃で豆をすりつぶすように挽くことで、低速回転でも均一に挽きやすく、摩擦熱を抑えやすい。コーヒー豆は熱の影響を受けやすいため、抽出前の“挽く”工程にこだわることは、香りや風味を引き出すうえで重要なポイントになる

11万円前後は高いのか、それとも戦略的なのか

 ELM-A1Bの市場想定価格は11万円前後。一般的なコーヒーメーカーとして見れば高額だ。しかし、全自動エスプレッソマシンとして見ると、話は変わる。

 本機は、豆を挽くところから抽出までを全自動で行う。豆投入口は約250g、水タンク容量は1.8L。外形寸法は幅220×奥行467×高さ369mmで、キッチンカウンターに置くには奥行きの確保が必要だが、幅は比較的スリムに抑えられている。

 メニューは全7種類。コーヒーの抽出量や濃度、ミルクフォーム量も好みに合わせてカスタマイズできる。コーヒー粉モードを選べば、豆ではなく粉からの抽出にも対応する。

「同じ価格帯でも、ミルク系メニューまで全自動でできることは大きなポイントです。ミルクフォームだけを抽出できるので、ラテやカプチーノだけでなく、ミルクフォームを使ったアレンジにも使えます」(商品担当者)

ミルクフォームを抽出している様子。ELM-A1Bは、カプチーノやラテマキアートだけでなく、ミルクフォーム単体の抽出にも対応する。手動でスチームミルクを作る手間を省きながら、自宅でラテ系メニューを楽しめる点は、11万円前後という価格帯での大きな訴求ポイントになりそうだ
ミルクフォームを抽出している様子。ELM-A1Bは、カプチーノやラテマキアートだけでなく、ミルクフォーム単体の抽出にも対応する。手動でスチームミルクを作る手間を省きながら、自宅でラテ系メニューを楽しめる点は、11万円前後という価格帯での大きな訴求ポイントになりそうだ

 デロンギには長年のブランド力がある。エスプレッソマシンを買うならデロンギ、と決めている人も少なくないだろう。特にコーヒー好きにとって、デロンギは単なる機械ではなく、所有すること自体に満足感のあるブランドでもある。

 一方で、すべてのユーザーがそこまでブランドストーリーを求めているわけではない。家でおいしいラテやカプチーノを飲みたい。できれば豆から挽きたい。

 けれど、毎回手動でタンピングしたり、スチームノズルでミルクを泡立てたりするほどの手間はかけたくない。そう考える人にとって、ELM-A1Bは現実的な選択肢になる。

Next清掃性は、味と同じくらい重要だ
Gallery 【画像】東芝ライフスタイルから登場した「全自動エスプレッソ&ラテマシン ELM-A1B」を写真で見る(25枚)
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滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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