“15万円超のスマートグラス”を自腹レビュー。Even G2は「目的なき未来買い」では使いこなせない【家電で読み解く新時代|Case.45】
“情報の富裕層”だけではない。Even G2を必要とする人たち
実際、販売現場でも、これまでのガジェットとは異なる反応が出ているという。JUN GINZAの米盛健氏によると、「単に新しいもの好きのユーザーだけでなく、企業経営者、大学教授、医師など、ビジネスや専門分野の第一線で活動する人たちからの関心も高まっている」とのことだ。
これは、かなり象徴的な話だと思う。
これまで新しいガジェットの中心にいたのは、ある意味で“情報の富裕層”だった。新しい製品を誰よりも早く知り、試し、情報として消費できる人たちである。もちろん、その役割は重要だ。しかしEven G2に向けられている関心は、それだけではない。
国内需要の限界を感じながら、海外や新しい事業領域へ踏み出そうとしている経営者。AIを活用した新しい働き方や企業の形を模索する専門職。外国語や情報処理の壁を、仕事の現場で本気で越えようとしている人たち。
そうした人々にとって、Even G2は単なるガジェットではなく、変化に挑戦するための道具に見えているのかもしれない。
そして、それは販売する側にとっても同じだ。スマートグラスを売るということは、単に新製品を扱うことではない。自社の強み、欠点、改善点をあらためて見つめる機会にもなる。新しい製品を扱うことで、売る側もまた変化を迫られる。
日本人は、変化を嫌うと言われることがある。実際、新しいデバイスや新しい習慣が社会に受け入れられるまでには時間がかかる。しかし、それでも変化に挑戦する勇気を持てるかどうか。Even G2という製品には、単なる機能論を超えて、そうした問いも含まれているように感じる。
だからこそ、カメラを持たないEven G2の設計は、日本の文化に溶け込むうえで大きなチャンスにもなり得る。社会に嫌がられず、眼鏡として自然に受け入れられ、そのうえでAIの力を日常や仕事に接続する。その道筋を作れるかどうかが、この製品の本当の価値を左右するはずだ。
そこまで真剣に生活に密着させたアイテムだからこそ、現状の機能がまだ“決定打”になりきれていないことも、よりはっきり見えてくる。

通知やナビだけでは、15万円超の理由にはならない
Even G2には、通知表示、翻訳、ナビ、テレプロンプター、AI連携など、スマートグラスらしい機能が用意されている。
もちろん、それぞれ面白い。視界の中に必要な情報が出る体験は、スマートフォンとは違う。スマホを取り出さなくても情報を確認できるのは便利だし、テレプロンプターのような使い方も、登壇や動画収録では可能性がある。
しかし、約1か月使って感じたのは、これらの機能だけでは、まだ15万円超を支払う理由として弱いということだ。

通知を見るだけならスマートウォッチでいい。ナビならスマートフォンでいい。AIに質問するならスマホでもPCでもいい。テレプロンプターも、用途が明確な人には便利だが、誰にでも必要な機能ではない。
つまり、個別の機能は便利でも、それだけで「このデバイスを毎日かけ続けたい」と思わせるほどの必然性にはまだ届いていない。
新しいデバイスが普及するには、「便利そう」では足りない。
スマートフォンがここまで普及したのは、単に便利だったからではない。連絡、検索、地図、決済、カメラ、SNS、動画、音楽、ゲーム、仕事。生活のあらゆる機能が1台に集約され、持っていないと困る存在になったからだ。
スマートグラスが普及するにも、そのレベルの理由が必要になる。
人は、未来感だけでは毎日顔にデバイスを装着しない。人は、少し便利なくらいでは15万円超を払わない。人は、自分にとって切実な不自由さを解消してくれると感じたときに初めて動く。
現状のEven G2に足りないのは、そこだ。

翻訳だけでは足りない。“会話能力の拡張”まで進化できるか
では、Even G2が15万円超でも欲しいと思わせるには、何が必要なのか。
筆者が最も可能性を感じているのは、リアルタイム翻訳だ。しかも、単に「相手の言語が日本語字幕で表示される」というレベルではない。
ここで大事なのは、リアルタイム翻訳そのものは、もはやEven G2だけの機能ではないということだ。
Ray-Ban Metaはライブ翻訳を打ち出しているし、Rokid Glassesもリアルタイム翻訳を大きな機能として掲げている。Hallidayもリアルタイム翻訳やプロアクティブAI、プレゼン用のチートシートなどを訴求している。
だからEven G2が本当に価値を持つには、「相手の言葉が日本語で読める」だけでは足りない。
必要なのは、非英語話者、非中国語話者など、外国語を十分に操れない人の会話能力そのものを底上げすることだ。
たとえば海外取材、国際展示会、海外出張、外国人との商談、インバウンド接客、ホテルや観光の現場。日本語しか話せないことが、自分の行動範囲や仕事の可能性を狭めている場面は少なくない。
対話相手の言語が、視界の中にすべて日本語字幕として表示される。
こちらが日本語で話した内容は、スマートフォンや外部スピーカーを通じて、自然な英語音声として相手に届く。
さらに、R1リングのような操作デバイスで、「丁寧に」「短く」「ビジネス向けに」「もう一度言い直す」といったニュアンスを瞬時に切り替えられる。
ここまでできれば、それは単なる翻訳機ではない。

日本語しか話せない人が、日本語以外のネイティブ話者と渡り合うための“会話の外骨格”である。
たとえば英語が苦手な人は、何も考えていないわけではない。聞きたいことはある。伝えたいこともある。交渉したいこともある。
ただ、それを英語に変換するまでの負荷が高すぎる。相手のスピードに負ける。言い回しを間違えるのが怖い。失礼に聞こえないか不安になる。その結果、会話に入れない。
もしEven G2が、相手の言葉を理解するだけでなく、自分の言葉を相手に届く形へ瞬時に変換し、さらに次に聞くべき質問や返すべき一言まで視界に出せるなら、それは仕事のパフォーマンスを明らかに変えるはずだ。
取材中なら、「今の技術の具体例を深掘り」「競合との差を聞く」「この発言は見出しに使える」と出る。商談中なら、「即答せず条件を確認」「相手は価格より納期を気にしている」「ここは強く言い切らず、確認表現で返す」と出る。
そこまでEven G2が進化したと仮定したなら、スマートグラスはガジェットではなく能力拡張の道具になる。このレベルの機能までアップデートが実現したなら、もともと眼鏡をかけていない人でも「それなら使いたい」と思う人は出てくるはずだ。

Even Hubは、G2の不足を未来につなげるための余白である
Even G2に期待したいもうひとつの要素が、Even Hubである。
現状、Even G2に追加できるアプリや日本語対応の機能は、正直まだ十分とは言えない。今すぐ多くの人に刺さるラインナップが揃っているわけではない。
しかし、Even Hubがあることで、Even G2はメーカーが最初に用意した機能だけで終わらない可能性を持っている。ここは非常に重要だ。
スマートグラスが普及するには、万人に向けた標準機能だけでは足りない。むしろ必要なのは、その人にとってだけの切実な機能である。

取材者には取材者の欲しい機能がある。営業担当者には営業担当者の欲しい機能がある。ホテルスタッフにはホテルスタッフの欲しい機能がある。登壇者には登壇者の欲しい機能がある。海外会議に出る人には、その人だけが必要とする会話支援がある。
以前なら、そうした機能を個人が作るのは難しかった。しかし今は違う。AIによって、非エンジニアでもアプリやWebサービスを作れる時代になりつつある。
いわゆるVibe Codingの流れが進めば、Even Hub上に「自分が本当に欲しい機能」を作る人が出てきてもおかしくない。実際、Even Hubで追加できる機能は日進月歩で増えていっている。
これは、Even G2の不足を補うための言い訳ではない。むしろ、Even G2が未完成であることを未来につなげるための余白だと思う。
スマートグラスは、スマートフォンのように最初から何でもできる端末にはならないかもしれない。だが、特定の場面で人間の能力を補強するツールとしてなら、大きな可能性がある。その可能性を広げる鍵が、Even Hubであり、AIであり、ユーザー自身が機能を作れる時代の到来なのだ。
“目的なき未来買い”ではなく、自分の課題を解くために買うべき製品
現時点のEven G2は、まだスマートフォンのような必需品ではない。
起業家視点に立つまでもなく、15万円超の価格を考えれば、多くの人にとっては高すぎる投資だと思う。特に、明確な利用目的がないまま「未来っぽいから」という理由で買うなら、満足度はかなり人を選ぶはずだ。
だから、現時点で万人に勧めることはできない。
ただし、それでも筆者はEven G2を面白いと思っている。なぜなら、この製品はスマートグラスが普及するための条件を、かなり現実的な場所まで引き寄せているからだ。
眼鏡として自然であること。カメラを持たず、社会に受け入れられやすいこと。R1リングによって、スマホを取り出さずに操作できる可能性があること。Even Hubによって、ユーザー自身が必要な機能を作れる余地があること。
そして、日本語しか話せない人にとって、本当に切実な外国語会話支援へ進化できる可能性があること。
Even G2は、完成された答えではない。しかし、完成形が見えない製品でもない。
自腹で買ったからこそ厳しく言う。今のEven G2は、15万円超を払って誰にでも勧められる完成度ではない。目的なき未来買いでは、使いこなせない。
でも、自腹で買ったからこそ期待もしている。
そして、販売する現場の言葉を借りるなら、Even G2は単なる新製品ではなく、「日本人が変化と挑戦に向き合う姿」そのものでもあるのかもしれない。

日本企業も、日本のビジネスパーソンも、国内需要の限界を感じながら、次の可能性へ踏み出そうとしている。AIを活用した新しい企業の形を模索し、個人の能力を拡張し、言語や情報処理の壁を越えようとしている。その大きなスタートラインに、Even G2のような製品が立っている。
もちろん、現時点ではまだ高い。まだ不完全だ。まだ人を選ぶ。
しかし、変化に挑戦できる勇気を持つことは、筆者自身にとっても、日本経済にとっても大きな課題だと思う。
もしこの先、Even Hubを通じて実用的なカスタム機能が増え、非英語話者の強い購入動機を満たすリアルタイム会話支援が実現すれば、スマートグラスは一部のガジェット好きだけのものではなくなるかもしれない。
スマートグラスは、“未来”だけでは買えない。
だが、自分の課題を本当に解いてくれるなら、人はその未来にお金を払う。
Even G2は、まだその途中にある。だからこそ今、スマートグラスの未来を考えるうえで、最も真剣に向き合う価値のある一台だと思う。
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