“15万円超のスマートグラス”を自腹レビュー。Even G2は「目的なき未来買い」では使いこなせない【家電で読み解く新時代|Case.45】
15万円超のEven G2を、自腹で買ったからこそ言えること
4月下旬、筆者のもとに度入りレンズを入れたスマートグラス「Even G2」が届いた。
スマートグラスという言葉には、まだどこか未来の匂いがある。メガネの視界に情報が出る。会話が翻訳される。ナビが表示される。AIが使える。そう聞けば、テクノロジー好きなら誰でも一度は試してみたくなるはずだ。筆者もそのひとりだった。
ただし、今回のEven G2はレビュー機を借りたわけではない。自腹で購入した。しかも度入りレンズを入れ、操作用のR1リングも合わせて購入したため、総額は15万円を超えた。

だからこそ、最初に率直に言っておきたい。
現時点でEven G2は、誰にでも勧められる製品ではない。
未来を感じることはできる。設計思想も面白い。スマートグラスというジャンルの中では、かなり現実的な解に近いとも思う。しかし、15万円超の投資として見ると、かなり明確な目的とリテラシーがなければ、使いこなすのは難しい。
「なんとなく未来っぽいから欲しい」「スマートグラスを試してみたい」「新しいガジェットだから買ってみたい」
その程度の動機で手を出すには、今のEven G2はまだ高い。
これは酷評ではない。むしろ期待しているからこそ、最初に厳しく言っておきたい。スマートグラスは、“未来”という言葉だけでは買えない。ましてや、顔にかけ続けるデバイスである以上、スマートフォンやスマートウォッチ以上に、使う側の目的が問われる。

スマートグラス最大の壁は、機能ではなく“装着習慣”だった
約1か月、Even G2を使ってみて最も強く感じたのは、スマートグラスの普及を阻む最大の壁は、機能ではなく、それ以前の“装着習慣”にあるということだ。
スマートフォンはポケットに入れればいい。スマートウォッチは腕に巻けばいい。イヤホンは必要なときだけ耳に入れればいい。
しかしスマートグラスは違う。顔にかける必要がある。視界の前に、常にフレームが存在する。鼻と耳に重さがかかる。顔の印象も変わる。これは、ほかのウェアラブルデバイスとは身体への入り込み方がまったく違う。

もともと眼鏡をかけていない人が、スマート機能のためだけにメガネ型デバイスを装着し続ける。これは、想像以上にハードルが高いと思う。
視力の良い人にとっては、どれだけ便利な機能があっても、まず「なぜ顔にこれをかけ続けなければならないのか」という問題が立ちはだかる。百歩譲っておしゃれ目的の伊達メガネならまだしも、スマートグラスはそうではない。
コンタクトレンズを使っている人にとっても同じだ。せっかく眼鏡から解放されるためにコンタクトレンズを選んでいるのに、スマート機能のためにもう一度フレームを顔に乗せるのか。そこには、どうしても矛盾がある。
つまり、現実的にスマートグラスを日常的に使える最初の層はかなり限られる。
視力が弱く、もともと眼鏡を愛用している人。かつ、度入りの眼鏡として自然に使える人。さらに、15万円超を払ってでも欲しい明確な機能がある人。
この条件を満たして初めて、Even G2は“未来のガジェット”ではなく“日常の道具”になり始める。裏を返せば、そこまで目的が明確でない人にとっては、Even G2はまだ高価な実験機に近い。

スマートグラス市場は、すでに“何でもあり”の競争に入っている
ここで、現在のスマートグラス市場を少し整理しておきたい。
いまスマートグラスと呼ばれる製品は、もはや単一のジャンルではない。
Ray-Ban Metaのように、カメラ、マイク、オープンイヤー型スピーカー、AI、ライブ翻訳などを組み合わせた“顔に装着するAIデバイス”に近いものがある。Rokid Glassesのように、カメラ、ディスプレイ、AIアシスタント、リアルタイム翻訳、文字起こし、ナビなどを前面に出すものもある。
一方で、XREALやVITUREのように、スマートフォンやPC、ゲーム機と接続し、目の前に大画面を表示する“ウェアラブルディスプレイ型”もある。これはEven G2のような日常装着型スマートグラスとは、かなり用途が違う。
さらにHallidayのように、小型ディスプレイ、リアルタイム翻訳、ナビ、通知、リング操作、処方レンズ対応を打ち出す製品も登場している。これはEven G2に近い方向性の競合と言える。
つまり、スマートグラス市場はすでに“何でもあり”の競争に入っている。
その中でEven G2が選んでいるのは、カメラで世界を撮ることでも、映画館のような大画面を顔に持ち込むことでもない。普通の眼鏡に近い外観を保ちながら、必要最小限の情報を視界に置くという方向だ。
この選択は地味に見える。しかし、日本で日常的に使われるスマートグラスを考えるなら、むしろかなり現実的だと思う。なぜなら、スマートグラスは性能競争の前に、まず“毎日かけても嫌がられない存在”にならなければならないからだ。

設計思想は正しい。だからこそ、今の物足りなさも見えてくる
スマートグラスというジャンルの中で見れば、Even G2の設計思想はかなり正しいと思う。理由は明確だ。
Even G2は、カメラを搭載していない。外部スピーカーもない。4つのマイク、両眼のmicro-LEDディスプレイ、テンプル部分のタッチパッド、そして任意で組み合わせられるEven R1リングを備えたスマートグラスである。
見た目も、いかにもガジェット然としたものではない。眼鏡を30年以上着用し続ける筆者から見ても、ほぼ普通の眼鏡のルックスだ。
多くのスマートグラスは、顔に身に着けるものであるにもかかわらず、形や色が限られている。どうしても「眼鏡」というより「デバイス」に見えるものが多い。その点、Even G2はかなり普通の眼鏡に近い。
そして何より、カメラを持たないことが大きい。
カメラ付きスマートグラスは、使う側にはたしかに便利かもしれない。だが、撮られる側には心理的な抵抗が残る。

ここは少し冷静に考えたい。多くのカメラ付きスマートグラスには撮影操作やインジケーターがあり、常に撮影しているわけではない。
しかし、顔にカメラを装着した人が目の前にいるだけで、「いま撮られているのではないか」「記録されているのではないか」という疑念が生まれる。たとえ実際には録画していなくても、その可能性があるだけで、撮られる側には心理的な負担が残る。
カフェ、電車、会議室、商談、学校、病院、ホテル、レストラン。公共空間や接客の場で“周囲にどう見られるか”が製品の受容性を大きく左右する日本において、顔にカメラがあるデバイスを日常的に受け入れるには、相当な時間と社会的な合意形成が必要になるはずだ。
スマートグラスが普及するには、未来的である前に、社会に嫌がられないことが必要だ。
その意味で、Even G2がカメラを持たないことを明確にしているのは、単なる機能削減ではない。日本のようにプライバシーや周囲の視線に敏感な社会で使うことを考えれば、むしろ現実的な選択と言える。

また、度入りで使えることも重要だ。
眼鏡を常用する人間からすると、多くのスマートグラスが眼鏡の形をしていながら、視力矯正を前提にしていないことには違和感がある。
スマートグラスは、当然ながらガジェットである前に眼鏡である。眼鏡としてきちんと見えること。長時間かけられること。日常の中で違和感が少ないこと。この基本を外すと、どれだけ機能があっても毎日は使えない。
その点、Even G2は安心して使える製品である。老舗の眼鏡店であるJUN GINZAなどで、オンラインのみで購入するのではなく、対面で装着感などを確認しながら購入するプロセスが組まれている。
その際、たとえばクルマに乗る時は使わないことなど、法令ではないものの、スマートグラスを使用するうえでの一定のルールやモラルなどもお店側と確認する。

単に派手な機能性や未来像を見せて売りを先行させるのではなく、スマートグラスが正しく普及するように考慮し、普通の眼鏡に近づけた形で世の中に受け入れられるかを販売面からもアプローチしている。そこにこそ、この製品ならではの誠実さがあるし、筆者が購入した大きな理由でもある。
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