「この10年間でも圧巻の“見逃せない新作群”」|時計界の頂点ブランド「パテック フィリップ」2026年のコレクション解説【Part1】
圧巻の「複雑時計」コレクション!
2026年4月にスイス・ジュネーブで行われた世界最大の時計見本市「ウォッチズ・アンド・ワンダーズ ジュネーブ(WATCHES AND WONDERS GENEVA 略称WWG)」。
今年パテック フィリップから発表された新作モデルを改めて振り返ってみると、現行モデルの色違いはあるものの、まずはグランドコンプリケーション(超複雑時計)やコンプリケーション(複雑時計)の充実に改めて驚かずには居られない。
インライン永久カレンダー、永久カレンダークロノグラフ、永久カレンダー搭載のスプリットセコンド・クロノグラフ、セレスティアル(天文時計)、チャイミング・アラーム、ミニット・リピーター、永久カレンダーミニット・リピーター、年次カレンダームーンフェイズ、ワールドタイム、初のオートマトン腕時計…。公式ウエブページも、このカテゴリーから掲載されている。
メゾン初の日昇・日没表示を備えた天文ウォッチ
そしてこの中には“ブランド史上初の機能”を実現した画期的な新作が2モデルある。そのひとつが2002年にファーストモデルが登場し、2012年にセカンドモデルが発表された、天文表示機能を備えた「セレスティアル」。14年ぶりの進化版「Ref.6105G」だ。

北半球の空の配置を正確に示すサファイヤクリスタル文字盤。楕円形で囲まれたエリアはジュネーブと、ジュネーブと同じ緯度の都市から見える天空部分、星の見かけの動き、月の満ち欠けと軌道を表示してくれる。
そしてこの時計の「史上初」の機能が、同社の腕時計としては初めての「日の出・日の入り時刻表示」。
これは文字盤右下の白い指針が日の出の時刻、左下の指針が日の入りの時刻を指し示すというもの。また夏時間・冬時間の切り替え機能も搭載されている。
“腕に着けられるプラネタリウム”ともいえるこの天文時計の実機に4月17日に開催されたジュネーブのプレスカンファレンスで見て触れて驚いたのは、天空を表示する何層ものサファイアクリスタル製ディスクで構成されている文字盤の精密さと美しさ。
また“LIGA”と呼ばれる精密加工技術が採用されたこのモデルは、技術でも美しさでも今年のWWGの新作の中で最も素晴らしいもののひとつだ。
メゾン史上初の「オートマトン・ウォッチ」
そしてもうひとつ、“同社の腕時計として史上初”の画期的なモデルが、オートマトン(からくり仕掛け)のオンデマンド式時分表示機能を備えた「コンプリケーション Ref.5249R」だ。
これはただのオートマトン(オートマタ)機構付きの時計ではない。フランスの文学史に残る17世紀の詩と、1958年に製作されたオンデマンド式時分表示の懐中時計。文学とメゾンの融合から生まれたパテック フィリップの製品史の中でもいちばん文学的な複雑時計だ。
この時計は17世紀フランスの偉大な詩人ジャン・ド・ラ・フォンテーヌが、イソップ寓話をもとに作った寓話詩「カラスときつね」の世界をからくり機構で表現している。
イソップの寓話そのものは、子どもの頃に童話で読んで知っている方もきっと多いはず。木の上でごちそうのチーズを咥えていたカラスを「あなたの鳴き声がキレイだから声を聴かせて」とキツネがおだてて、その言葉に騙されて鳴こうとしたカラスが口を開けてチーズを落とす。
そのチーズを木の下で待ち構えていたキツネが横取りするというお話。

私たちには「他人の甘い言葉を信じてはいけない」という教訓を伝える話でしかないが、フランスではこの寓話詩は特別なものなのだという。とても洗練された美しい言葉で書かれていて、フランスの小学生は学校の授業で必ず暗唱したことがあるという、そんな特別な“詩の物語”なのだ。
そしてこの時計のメカニズム、つまり「オートマトン機構を使ったオンデマンド式時分表示」のモチーフになったのが、パテック フィリップの「ワールドタイム」の原型を開発した天才時計師ルイ・コティエが1958年に製作した、ボタンを押したときだけ時分を表示するオンデマンド式の懐中時計。
時計の文字盤にはこの寓話詩のカラスとキツネとその世界が、パテック フィリップが誇る金細工職人の卓越したハンドエングレービングを駆使した精密な金の彫刻で描かれている。
そして左に「時」、右に「分」のレトログラード式の時計表示が左右にある。そして、左側のキツネの鼻先が時針、カラスの咥えているチーズが分針の役割をする。
ただそのままの状態ではこの物語は始まらない。カラスはチーズを咥えたままで、キツネがカラスをおだてているシーンのままで、レトログラード式の時計表示には針がない状態。つまり時刻がわからない。
だが文字盤2時位置のプッシュボタンを押すとこの物語が上演される。オートマトン機構が働いて、キツネが頭を動かして鼻先で「時」を表示。同時にカラスがチーズを離し、そのチーズが「分」を表示する。
そしてボタンを離すと、キツネとチーズは元の「時間を表示しない状態」に戻る。これがこの時計のオートマトンのオンデマンド式時分表機能だ。
オートマトンのメカニズムも素晴らしいが、なによりも金細工職人の手で作られた、森の自然の背景が造り込まれたキツネとカラスの金細工が素晴らしい。これはエナメル細密画を駆使したアートウォッチとは別次元の、パテック フィリップの新しいアートウォッチなのだ。
「CUBITUS」初のグランド・コンプリケーション
さらにもうひとつ見逃せない複雑時計が、本社社長のティアリー・スターン氏の情熱から生まれたスクエアケースの最新コレクション「CUBITUS」初のグランド・コンプリケーション、スケルトンの永久カレンダーモデル「Ref.5840P」だ。

WWGの会場で日本の取材陣や、意見交換をした海外のジャーナリストも、このモデルを「CUBITUS」コレクションの中でもNo.1で、「ついに待望のモデルが出た!」と語っていた人が多い。
コレクションのシグネチャーである水平ライン模様をスケルトン構造にシームレスに融合させたこのモデルは、スクエア(正四角形)ケースでなければ実現できない新しい世界がある。
しかもケースの四角いフォルムに合わせて完全に新設計されたスクエア型の永久カレンダームーブメント(キャリバー28-28 Q SQU)を搭載している。時計コレクターにとって、この点も見逃せない大きな魅力だ。
歴史と伝統から、時計ブランドにとってアイコンになっている傑作モデルを除けば、スクエアケースの新しい時計というと、正直なところデザイン的には平凡なものが多い。
しかし、このモデルには、魅力的な個性がある。シグネチャーである水平ライン模様のデザインが文字盤からムーブメントまで貫かれたこのモデルは、時計デザインの歴史にまたひとつ新しいページを開いたといえる。これは間違いなく「CUBITUS」最高の1本であり、これでこのコレクションはメゾンを代表するものになった。
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