2030年代、遠距離の恋人と“隣を歩く”時代へ? 6GとAIが変える「ちょっと未来の暮らし」とは
遠くの恋人と、同じ街を歩いているように
離れた場所にいる恋人と、同じ景色を眺めながら街を歩く。そんな体験を描いていたのが、「エリクソン・フォーラム2026」で紹介された6G時代のデモです。
映像に登場する男性は、スマートグラスをかけて街を散策しています。その視界には、自宅にいる恋人がアバターとして現れる。実際には離れていても、隣を一緒に歩いている姿で感じられるというわけです。
もちろん、これは2030年代を想定した未来シナリオで、現状使えるサービスではありません。それでも筆者には、「遠くの人とつながる」という体験が変わる予感がありました。

ひとりの演奏が、グラス越しにはバンドになる
続いて目を引いたのは、ストリートライブのシーンです。街を散策中にふと目にしたストリートミュージシャンである演奏者はドラマーひとり。ところが、男性のグラス越しには、離れた場所にいるほかのメンバーも同じ空間で演奏しているように見えます。
しかも、そのライブを自宅にいる恋人も一緒に楽しめる。「あとで動画を送る」のではなく、その場のライブ体験を、動画を送るのではなく、同時にリアルタイムで一緒に過ごすように体験する。通信の向こう側の相手と、時間だけでなく空間まで共有する構想です。

この体験を支えるのが、6Gの「太い通信」
こうした体験では、人の姿や動き、周囲の景色など、多くの情報を行き来させる必要があります。映像が途切れたり、相手の動きが遅れたりすれば、同じ場所にいる感覚は損なわれてしまいます。
そこで期待されているのが、5Gの先にある6Gです。イメージするなら、情報が通る道をより太くし、大量のデータを遅れ少なくやり取りできるようにすること。グラスやクラウド側の処理と組み合わせ、自然な体験を支える構想です。
単に動画の読み込みが速くなるのではなく、離れた人と何を一緒にできるかが変わる。通信の性能が、暮らしの楽しみ方へつながっていた点が印象的でした。

電波が、周囲の様子を知る「目」にもなる
6Gに向けては、通信に使う電波で周囲を捉える「センシング」も研究されています。物体に当たって返ってくる電波を調べ、人やクルマなどの位置や動きを把握する仕組みです。
通信の電波で周囲を捉えるセンシングの実験例。画面には時速150kmで飛行するドローンや、車両、船、人の検知例が並ぶ。6Gでは、情報を運ぶネットワークに周囲を感じ取る役割も期待されている。
会場では、ドローンや車両を捉えるフィールド試験も紹介されました。スマートグラスのカメラに映らない周辺の情報も得られれば、現実の景色に映像を重ねる際にも役立つ可能性があります。
情報を「運ぶ」だけでなく、周囲を「感じ取る」。こうした機能も組み合わせながら、先ほどの未来体験を支えようとしているのです。

通信を裏側で支える「あのエリクソン」
その土台をつくる企業のひとつが、エリクソンです。1876年にスウェーデンで創業し、2026年で150周年。基地局などの通信機器やネットワーク技術を通じ、私たちのスマートフォンがつながる環境を支えてきました。
日本では、かつてソニーとの合弁で展開していた携帯電話ブランド「ソニー・エリクソン」を覚えている人も多いでしょう。いまは生活者の目に触れにくいところで、次の通信の基盤づくりを担っているわけです。

一方、6Gは「暮らしの中で働くAI」も支える
6Gによって広がるのは、人と人が一緒に楽しむ体験だけではありません。もうひとつの大きな活用先が、ロボットやクルマなど、現実世界で働くAIです。
現場の映像を外部のAIへ送り、判断した結果を機械へ返す。こうした連携を支える通信が充実すれば、AIを日々の作業や見守りに活用できる場面も広がります。通信が進化することで、AIの働ける範囲も広がるのです。
その一端は、会場のロボット実演にも表れていました。火災などの異常を検知すると、必要な通信品質を要求し、映像を鮮明にする。人間が状況を確認しやすくするための工夫です。これは6Gを待たずに取り組まれている例で、今後の通信の進化が、こうした活用をさらに支えていくと考えられます。

人手が減っても、暮らしの質を保つために
エリクソンが東京大学などと進める未来対話プロジェクト「Enter New Horizons」では、その先にある2035年頃の日本を描いています。
職人の技を継承する。老朽化する橋や道路の点検を支える。人口の少ない地域で移動や生活を助ける。目指しているのは、AIと通信を組み合わせ、人手が減っても暮らしの質を保てる社会です。
家電の自動化もそうですが、大切なのは新機能の数ではなく、使う人の負担がどう減るか。AIが身近な仕事を手伝ってくれるなら、その進歩は日々の安心や余裕にもつながるはずです。

便利になっても、AIを信じきっていいわけではない
ただ、AIに任せられることが増えるからといって、その判断まで正しいと保証されるわけではありません。便利さと信頼性は別の話です。
この点で印象的だったのが、人とAIの協働を研究する東京大学大学院総合文化研究科の馬場雪乃准教授の話でした。馬場氏は、AIが人間の意思決定を助ける可能性を示す一方、もっともらしい助言を鵜呑みにしない姿勢も必要だと指摘します。
長く丁寧な理由が添えられていても、説得力があることと、内容が正しいことは同じではない。仕事で日常的にAIを使う筆者にも、身に覚えがあります。これは2030年代を待つまでもなく、いまから意識したい付き合い方でしょう。

おかしな動きをしたら、人間が止められるか
さらに、AIがロボットやクルマを動かす場合、判断の誤りが人や物への危害につながる可能性もあります。だからこそ、任せる仕組みと同時に、止める仕組みが欠かせません。
馬場氏は、人間がAIの動作に介入できることや、通信が不安定なときに機能を制限する設計も重要だと指摘しました。
起業家としても、自動化の範囲を広げるだけでは不十分だと感じます。異常があれば誰が確認し、どこで人が判断するのか。「任せる仕事」と「任せきらない仕組み」をセットで考える必要があるでしょう。

どんな未来にしたいかを決めるのは、私たち
エリクソンが研究者や学生、企業などとの対話を重ねていたのも、できる技術だけでなく、望む暮らしから未来を考えるためです。紹介された体験がいつ、どこまで実現するかは、まだ決まっていません。
遠くの恋人と、同じ音楽に耳を傾けながら街を歩く。AIに手を借りながら、大切な判断は自分で引き受ける。私たちが欲しいのは、通信の速さやAIの賢さそのものではなく、その力を借りて実現する、そんな毎日なのだと思います。
エリクソンのような企業が、見えないところで未来の土台をつくる。その上で誰とつながり、何を任せ、どんな時間を大切にするかは、私たちが選ぶことです。2030年代、遠くにいる誰かと同じ景色を眺めて笑い合うとき、通信の仕組みを意識することはないかもしれません。
それでも、その時間を望んだのは人間であり、かなえようとしてきたのも人間です。技術がどこまで進むかだけでなく、その先でどんな毎日を送りたいのか。今回の取材で見えた未来は、思っていた以上に、私たち自身の願いに近いところにありました。
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