2台にダブルエントリーした木下選手 来年に向けて大いなる手応え
ドイツ北西にあるサーキット「ニュルブルクリンク」。別名「グリーン・ヘル(緑の地獄)」と呼ばれるこのサーキットは、F1などにも使用されるグランプリコースとノルドシュライフェ(北コース)があり、ニュルブルクリンク24時間耐久レースはそのふたつを合体させたコースで争われます。
ノルドシュライフェは標高差がおよそ300mあり、大小さまざまな170以上のコーナーで構成された一周20.832kmの世界最長コース。170以上のコーナーは、ジャンピングスポットや高速のブラインドコーナー、さらにはエスケープゾーンのほとんどない箇所が散見される、息をつく暇もないくらい過酷なコースです。
トーヨータイヤがニュルブルクリンク24時間耐久レースとニュルブルクリンク耐久シリーズ(NLS)への参戦を再スタートしたのは2020年のこと。そして昨年に続き今年も、名門レーシングチーム「Ring Racing」とタッグを組み、GRスープラGT4、およびGRスープラGT4 EVO2023で、第51回ADACニュルブルクリンク24時間耐久レースに挑戦しました。
装着タイヤは、レース専用に開発された「PROXES SLICKS(ニュルブルクリンクスペック)」。今年1月に同社のフラッグシップブランド「PROXES(プロクセス)」のアンバサダーに就任した木下隆之選手がステアリングを握り参戦しました。残念ながら、70号車はリタイア、71号車がクラス5位/総合27位と、目標としていたクラス優勝は達成できませんでしたが、昨年の総合順位43位より大幅に躍進できた結果となりました。両車両にダブルエントリーした木下選手は来年に向けて、大いなる手応えを感じたといいます。
レースが終わり、日本に帰国した木下選手に、モータージャーナリストの竹岡圭さんが話を聞きました。
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竹岡圭さん−−まずはニュルブルクリンク24時間耐久レースへの参戦、お疲れさまでした。今回、「スープラGT4(70号車)」と「スープラGT4 EVO2023(71号車)」のダブルエントリー、つまり両方のクルマのドライバーになっててびっくりしたんですが。
木下隆之選手「そうね。いつの間にかそうなっていた(笑)。ただ、より上位を目指すには、距離を乗れば乗るほど有利だってことはわかってたから、うれしいオファーでしたよ」
−−結果は70号車が残念ながらリタイア、71号車がクラス5位、総合27位でした。私もニュルのコースを走ったことがありますが、コースを覚えるだけでも大変でした。乗れるものならいっぱい乗りたいという気持ち、わかります。
「そう、そもそもコースの攻め方もちょっと違うからね。ふつうのサーキットだと、ちょっと速いかな?くらいのスピードでコーナーに入って、うまく抜けられたらOK、ダメだったら次の周回でもう少しだけゆっくりアプローチする。この繰り返しでベストなスピードとラインを探るんだけど、でも狭くてエスケープゾーンもないニュルでそれやっちゃうと、すぐにクラッシュしちゃうし、場所によっては命にかかわりかねない。なので逆に、遅いかな?くらいのスピードで入り、徐々に速度を上げていくってステップを踏むのが、ニュルの“お約束”なんだ」
−−たとえば富士スピードウェイだと1周5kmだから、5kmに一回、同じコーナーが出てくる。でもニュルは25kmだから、25kmに一度しか同じコーナーの“練習”ができないんですよね。
「しかも路面の細かいうねりやギャップもあるから、ちょっとのラインのズレでタイヤへの突き上げとか左右の荷重差が変わり、思ったとおりにクルマが動かないなんてこともある。ニュルを速く走るには、とにかく回って、もう少し速く入る?とか、こっちのラインを使う?なんてことをずっと試し続けなくちゃいけない。それにはワンスティントの8周じゃ、短すぎて。ダブルエントリーだから8周回ってクルマを降りたら、次のクルマでまた8周ってのは、もちろん疲れたけど、コースを攻めるって意味では本当によかったよ」
−−あと今回は、これまでとは違ってドイツに本格的に住んでの参戦になったわけですよね。
「そう、トーヨータイヤに、前哨戦のNLS(ニュルブルクリンク耐久シリーズ)からしっかり走りたいから、っていうわがままを聞いてもらってドイツに住んで、時間のあるときは雲の動きとかを観察していた。で、気がついたんだよ。ニュルは天気がとにかく変わるって言うじゃない。でも、暗い雲が見えたらそっちのほうに行って実際の雨の具合を感じたりしてるうちに、あれっ?って思ったんだよ。やっぱりニュルでも、風とか雲の動きとかでわかる、雨の前兆があるんだなって。いままで自分は、『木下さん、もうニュルにずっと通ってるから、なんでもご存じですよね』って言われるのが当たり前だった。でも今回、あっちに住んでみて、“自分が知らないニュル”がまだこんなにあるんだって、よくわかったね」
−−ところで木下さんは、かなり以前にトーヨータイヤでレースを走ってましたよね。今回のアンバサダー就任、そしてニュルへのチャレンジは、ひさびさの“コンビ復活”となったわけですが、なにか思うところがあったんですか?
「ずっと昔から、じつはトーヨータイヤとは“肌が合う”とは思っていたんですよ。自分もわりとチャレンジャーだけど、そこに通じる気風を持ってるなって。大企業なのに、ドリフトとか、ダカールラリーとか、ちょっと過激なところにチャレンジしたり。ニュルにしても、ヨーロッパのタイヤメーカーが何十台、何百台も走らせてきて、データもしっかり握ってるところに、たった2台で挑む(笑)。そして、若手でもない、あえて還暦近くなっても意地になってニュルを走ってる自分に声かけてくれたというところが、粋に感じるところがあって。ふたつ返事で引き受けたんですよ」
−−トーヨータイヤがニュル24時間への参戦を始めて4年目。この期間をかけて開発されたタイヤで木下さんはNLSを走り、ニュル24時間レースを迎えたわけですが、タイヤの印象はどうでした?
「まずいちばん『これはすごい』って感じたのは、ワンスティントの8周、ガンガンに攻めていってもタイヤが音を上げないこと。レーシングタイヤは、走り出してひと皮むけたところが性能のピークで、そこからだんだんとトラクションやグリップが落ちてくるというのが比較的多い」
−−そうですよね。
「でも今回持ち込んだタイヤは、1周目の性能がずっと続くんですよ。しかもそれがタイヤに優しく走っての結果じゃない。そもそもニュルはコースのアップダウンによるタテGで、タイヤがつぶれたままコーナーに入るところがあったり、ストレートを40秒以上、6速全開で走ったりと、タイヤにはとても厳しくて。さらにレース本番だと速いクラスも遅いクラスも混走だから、予期しないところで遅いクルマに引っかかってブレーキ思いっきり踏んだり、ラインを替えて避けたりすることもある。それで8周、きっちり走れるし、走ったあとのタイヤをチェックしても、まだまだ行けるって感じだった。いや、すごいと思ったね」
−−そういう性能って、ドライバーにはありがたいですよね。
「たとえ使いはじめが良くても、ニュルは1周が25km、おいしいところが1周持たないんじゃ意味がない。あと、さっきの話に戻るんだけど、同じコーナーにトライするときに、1周前と比べタイヤにタレがあったら、同じライン、同じスピードで入っても、違う結果になっちゃう。でも今回のタイヤは、8周ずっと性能が持つから、ほぼ同じコンディションでより速いラインを探すことができて、とてもありがたかった」
−−じゃあ、ドライバーとしてはタイヤのタレを気にせずにガンガン攻めていけたと。
「監督も『とにかく行け』としか言わないわけですよ。スティントに入る前に前後とのタイム差を聞いても『いや関係ないから、とにかくプッシュしろ』と(笑)。もちろんそれは挑戦者として当然の姿勢なんだけど、それだけタイヤが信頼できたからこそだね」
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