VAGUE(ヴァーグ)

一番人気は「天使の海老」? かつて大森にあった花街に想いを馳せる――101年続く町洋食「お座敷洋食 入舟」(大森)のお味とは【何度でも行きたい町洋食#02】

昔からずっと変わらない美味しさ

 その街に昔からずっとあり、昼は近隣で働くサラリーマンが、そして夜や週末は家族が、誕生日などの特別な日に食べに行く店。建物や店内も趣があり、親、子、孫と愛され続ける、そんな「町洋食」の店を紹介していきます。

 日露戦争の時代から戦後まで、海辺に面した風光明媚な花街として栄えた大森海岸エリア。

 料亭、置き屋、待合などが集まる「大井三業地」にはさまざまな料亭や茶屋が並び、最盛期には大森に400名近い芸者が在籍していたそうです。

 現在はマンションやビルが並び、花街の面影はすっかり消えてしまいましたが、今でも残る唯一の店が「お座敷洋食 入舟」。1924(大正13)年創業、100年を超える洋食のお店です。

「曽祖父が日本橋宝町にあった『東洋軒』という店で、洋菓子職人、パティシエとして働いていたのですが、デザートはコース料理の最後だけなので、他のシェフの仕事を手伝ったことから洋食を始めたそうです。その後、親戚のいる長野県上田市、千曲川のほとりにある『入舟」という店で腕を磨いたことから、大正13年に現在のJR大森駅の駅前に店を持ったのが最初ですね」

 と話すのは4代目の松尾信彦さん。

4代目の松尾信彦さん。曽祖父、祖母、叔父と繋いできた入舟の味を伝えている
4代目の松尾信彦さん。曽祖父、祖母、叔父と繋いできた入舟の味を伝えている

 当時、洋食料理は一般的なものではなく、ハイカラ的なもの。そのため、正装で家族と食べにくるような、ハイソサエティーなお店だったそう。

「今店舗にしている1階は、昔は運転手さんの待機室だったんですよ」

 現在テーブル席のある1階の横には、2階の個室に上がる、趣のある広い玄関があります。

「2階は昔のまま、今もご利用いただいています」

 1階は1〜4人でふらっとランチやディナーなど、そして昭和の雰囲気を色濃く残す2階はすぐ予約で埋まるほど人気が高く、「ご家族の記念日やビジネスランチなどにご利用いただいています」とのこと。

 1970年代の中盤に、一般のお客様向けにリニューアルし、現在の形に。

「基本的にメニューは昔から変わっていませんね。自分の代になってから、新たに食材を見直して改善したものもあります」

 それが現在、この店の看板メニューに。

 101年の歴史を今に伝える「お座敷洋食 入舟」で食べたい3品を紹介します。

テーブル席の店内。奥に階段があり、2階の個室席へ上がっていく
テーブル席の店内。奥に階段があり、2階の個室席へ上がっていく

エビの太さも旨味も満足度が高い「天使の海老 海老フライ」

 店の看板メニューであり、一番人気なのが天使の海老 海老フライ。天使の海老って?

「天使の海老は、美しい島としても有名なニューカレドニアで養殖された、100%自然食、一切添加物を使わずに育てている、高級寿司店で使うようなエビです。ある日市場で『入舟さん、こういうのが出始めたから使わない?』と聞かれまして。ただ、いいお値段なので、ずっと断り続けていたんですが、ある日1箱だけ買って常連のお客様に出したところ、一口食べて『これにして』と。ちょっとどころじゃない、雲泥の差だと。それから仕入れ値などを交渉して、天使の海老を使うようになったんですよ」。

 お皿には立派なサイズの海老フライ3本に、サラダ、自家製のタルタルソース、レモンが添えられています。

「1口目はそのまま食べて。プリッとした食感と香りを楽しんでもらいたいですね。甘味の強いエビなんですよ」。

 実際に味わってみると、確かに違う! 食感も香りも、そして旨味も。胴はプリプリだし、頭と尾はカリカリザクザクで全部が美味しい。

 本当に頭から尻尾まで全部が美味しい海老フライ。1本目はそのままで、2本目はレモンを少し絞って。タルタルソースもつけて味わいます。

 店の一番人気というのに納得。このエビフライを食べるために、大森に来る価値あり! と言い切れる美味しさです。

天使の海老 海老フライ1,650円、ランチはライス付きで1,920円
天使の海老 海老フライ1,650円、ランチはライス付きで1,920円

淡路島で釣った鮮度抜群のアジで作る「アジフライ」

 美しいハート型のアジフライ。海老フライと同じくサラダ、自家製のタルタルソース、レモンが添えられています。

「アジは網ではなく、1匹1匹釣り上げたアジを使っているんですよ」。と店主。

 店内に掲示された黒板には「淡路産 釣りアジ」「佐島産 かすご鯛」「愛媛産 真鯛」などが書かれています。産地にも獲れ方にもこだわりのある魚介類を使っている、ということですね。

「いいアジは尻尾の近くを食べると全てわかります。生臭さが一切ない、ふわっとした食感を味わってほしいですね」

 こちらも海老フライ同様に、最初は何もつけず味わいます。衣のカリッと感からのふわっとした身。アジの持つ旨みが口の中にバッと広がってきます。

 カリッとザクっと、そしてふんわりと。食べ続けていると幸せな気持ちになってきます。

 ちなみに揚げ油はサラダ油。そしてパン粉はできる限りパンの耳を入れず、細かめのものを使用しているとのこと。このカリッと感からのふわっと感。たまらない!

 そして、多少冷めてからもカリッと食感は継続。これはテイクアウトしたくなる、冷めても美味しいアジフライです。

アジフライ1,320円〜、ランチはライス付き1,540円前後
アジフライ1,320円〜、ランチはライス付き1,540円前後

夜限定メニュー、とろっとろの究極がここに!「トロトロ卵のスペシャルオムライス」

 たまごが、口の中で一瞬にして溶けてしまった!? と思えるほどとろっとろのオムライス。

「卵は3個使っていますね。ソースはデミグラスソースで、中のライスはチキンライス。具は鶏モモ肉とタマネギのみです」

 口に入れた途端、美味しさにうっとりするほどのオムライス。これ、ランチタイムにも出してほしい、という人は多いのでは?

「トロトロ卵のオムライスは元々賄いメニューなんですよ。お客様に喜んでいただけるとは思うのですが、ランチタイムの忙しい時に、オムライスの注文が重なると結構大変になりそうで。夜なら比較的余裕を持って作れるので、夜限定にしているんです」。

 いざ食べ始めると、もう一口、あと一口とスイスイとスプーンを口に運んでしまう。止まらない美味しさです。

 たまごのなめらかさにデミグラスソースが絡み、後からチキンライスの旨みが一気にやってくる。シンプルなのに贅沢な美味しさです。

トロトロ卵のスペシャルオムライス1,370円。ソースはデミグラスソース
トロトロ卵のスペシャルオムライス1,370円。ソースはデミグラスソース

 店主が見せてくれたのは、昭和30年代に使っていたと思われるメニュー。『出前迅速二致シマス』、や、住所が大井三業地内など、花街が大森にまだあった頃のもの。

 芸者さんたちが、出前でサンドヰッチなどを食べていたのかなぁ。など想像してしまいます。

 タンシチューが250円とか、マカロニーグラタンが150円とか。物価がおそらく今の1/8〜1/10くらい? ビーフシチューとチキンソーテが同じ300円? と、読んでいると店主に色々聞きたくなってくる。

「私は大学を出てすぐに継いだのですが、祖母から昔の話を聞いておいて良かったと思いますね」

 美味しいものを作ることはもちろんですが、大井三業地で唯一残った店として、街の歴史を伝えることも、店主の志なのかもしれません。

昭和30年代のメニュー。「オードーブル」「サンドヰッチ」などの文字に歴史を感じる
昭和30年代のメニュー。「オードーブル」「サンドヰッチ」などの文字に歴史を感じる

 今回は魚介類2種にオムライスだったので、次回はお肉メニューにしようかなぁ。昭和30年代のメニューにもあった、ビーシチューやポークソテー、チキンカツが気になる。黒板に、鳥取県産大山鶏や岩手県産岩中豚のこだわりも書かれていたし。

 次回は友人を誘って、いろんなメニューをシェアして楽しみたいと思います!

お座敷洋食 入舟
住:東京都品川区南大井3-18-5
TEL:03-3761-5891
営:11:30〜14:00(LO13:30)、17:00〜材料無くなり次第終了(週末は19:00までに来店するのがおすすめ)
休:日曜

Gallery 【画像】一度食べるとヤミツキになる絶品エビフライを画像で見る(17枚)

VAGUEからのオススメ

ブローバが腕時計の常識を曲げてから10年…「CURV(カーブ)」10周年モデルが証明した小径化による究極のフィット感とクリエイション【PR】

ブローバが腕時計の常識を曲げてから10年…「CURV(カーブ)」10周年モデルが証明した小径化による究極のフィット感とクリエイション【PR】

RECOMMEND