「取っ手のとれる~」でおなじみ、ティファールの“日本仕様”戦略はなぜ成功する? フランス人社長に聞くヒット連発の秘密とは【家電で読み解く新時代|Case.08】
グループセブ ジャパン上陸50周年。なぜ日本市場で強いのか?
2025年、ティファールを展開するグループセブ ジャパンは、日本上陸50周年を迎える。
世界で初めて「こびりつかないフライパン」を製品化したティファールは、今や調理家電だけでなく生活家電全般に展開を広げ、取っ手のとれるフライパンや電気ケトルなど、日本で“当たり前”に使われている存在となった。
実際、同社によれば、ティファールは国内での累計販売実績として「取っ手のとれるフライパン」が6000万枚以上、「電気ケトル」が3300万台以上という驚異的な数字を記録している。
特に電気ケトルについては、日本の家庭での普及率が5割を超える中、その中心にいるのがこのブランドだ。
そしていま、そのティファールが再び注目を集めている。理由は明快。日本市場における“徹底的なローカライズ”にある。世界のスタンダードを押しつけるのではなく、日本の暮らしに本気で向き合い、“必要とされる道具”を一から再設計しているのだ。
今回取材を通じて改めて実感したのは、それが単なる“ご当地対応”ではなく、企業文化の芯にまで根ざしているということだった。

「フランス人って、頑固じゃないですか?」
取材の冒頭、私はあえて率直にこう切り出した。
「正直、フランス人って“自分たちの哲学”が強くて、あまり人の意見に耳を傾けてくれない印象があるんです(笑)」
これまで欧州家電ブランドを数多く取材してきた筆者。ドイツや北欧のメーカーなどは比較的“現地の声”を尊重してくれる傾向があると感じてきた。その反面、フランス企業にはいい意味でも悪い意味でも“ブレない矜持”がある。もちろん、ティファールも例外ではないだろうと。
そんな“挑発的”な質問に対し、ジュリアン・メジャー社長は笑みを浮かべながらも、すぐにこう返してくれた。
「確かにフランス人には“内なる信念”を貫く気質があります。でも、本社は日本のチームをとても信頼しています。多くの製品開発をローカル主導で進めていますし、私はその橋渡しの役目を担っているんです」
それは単に「意見を聞く」だけではない。日本の市場環境や生活文化に最適な製品を、日本チームが設計・企画し、それを本国が“信じて任せる”。こうした信頼関係が、ティファールにおけるローカライズの本質だと彼は言う。

ザ・ライス──フランス流と日本のこだわりの幸福な衝突
2025年8月発売の炊飯器『ザ・ライス 遠赤外線IH炊飯器エッセンシャル』は、そんなローカライズ戦略の象徴ともいえる。
言うまでもなく、炊飯器は日本の家電市場でもっとも競争の激しいカテゴリのひとつだ。国内には象印、タイガー、パナソニックなど、大手強豪メーカーがひしめきあう“聖域”であり、消費者の目も舌も極めて厳しい。その土俵に、あえてフランス発のティファールが挑む理由とは?
その背景には、グループセブ傘下の中国ブランド「Supor(スーポー)」が持つ技術基盤がある。
IH制御や球状釜の加熱設計ノウハウを活かしつつ、日本チームが味・食感・使い勝手に至るまで徹底的にチューニングを施した。ジュリアン氏は語る。
「私たちは、世界中の技術資産を活かしながら、日本の暮らしの声に耳を傾けることを何より大切にしています。ザ・ライスは、“グローバル×ジャパン”のいいとこ取りなんです」
本製品では、独自技術である、ふたに設置された遠赤外線プレートと高火力IHによる立体加熱、厚釜の球状設計、冷凍ごはんモード、長粒米モードなど、実際の生活に即したモードがしっかりと搭載されている。
開発チームの姿勢や製品の細部を見る限り、それが“機能先行”ではなく、“生活者目線”から逆算されていることがよく伝わってきた。

日本の味をグローバル開発チームが再現──ラクラ・クッカーの完成度
続いて紹介したいのが、筆者も実食済みの「ラクラ・クッカー」だ。
これは“手間なく毎日の手料理を手間なく作る”をコンセプトに開発された電気圧力鍋で、実際に角煮や肉じゃがを調理してみると、まるで自宅で何時間も煮込んだかのような味の深さに驚かされた。
「味噌や醤油を使った料理は、グローバル開発チームにとって未知の領域。でも、日本のチーム側を信頼して、何度も何度も試作・試食を重ねてくれました」
ジュリアン氏は誇らしげに振り返る。さらに本製品では、ベイク(焼く)機能も搭載し、パン作りなど多用途に使える設計になっている。
取っ手付きのコンパクトデザインや傾斜パネルのUI設計など、細部にわたって“日本のキッチンに合う工夫”が施されている点も見逃せない。
ジュリアン氏曰く、ローカライズする開発スタイルには2つのアプローチがあるという。
「一つは、グローバル製品を日本に最適化するモデル。もう一つは、日本発のニーズから開発し、逆に海外展開するモデル。ザ・ライスは前者であり、ラクラ・クッカーは後者の好例です」

“逆輸入モデル”が証明するローカルの力
小型ケトル、ラクラ・クッカー、そしてザ・ライス。これらに共通するのは、日本向けに磨き上げた結果、グローバルでも評価されている点にある。
ジュリアン氏も「ローカルがイノベーションの源になる」と語るように、ティファールでは日本発モデルが他国の製品開発に刺激を与えるケースも増えているという。
フランス本社が“任せる”文化を持ち、日本チームが“掘り下げる”姿勢を徹底する。この協働関係が、ティファールのグローバル展開に大きな推進力を与えているのだ。
ユーザーの“暮らし”に耳を澄ませるということ
ティファールの成功の根底には、「生活者の声を徹底的に聞く」というシンプルな行為がある。これは、テクノロジーの進化やグローバル展開にばかり目が行きがちな今の家電業界において、実はもっとも本質的な戦略なのではないかと思わされる。
取材の終盤、ジュリアン氏はこんな言葉で締めくくってくれた。
「日本の暮らしを本当によく理解すること。それがティファールのイノベーションの原点です」
2025年、日本上陸50周年という節目を迎えたグループセブ ジャパン。その中心的ブランドティファールの歩みは、単なる製品開発の歴史ではなく、“文化を越えて信頼を築いてきた記録”でもある。
耳を澄まし、任せ、信じる――。このある意味当たり前の姿勢こそが、ティファールの日本市場における連続ヒットを支える最大の理由なのだ。
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