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フィリップス&ブラウンの牙城を崩す? パナソニック新型「ドルツプレミアム」が“日本市場トップに立つ可能性”とは【家電で読み解く新時代|Case.09】

外資2強が君臨する国内市場──ブラウンとフィリップスの牙城

 電動歯ブラシの国内市場では長年、海外勢であるブラウン(オーラルB)とフィリップス(ソニッケアー)がトップシェアを握り、パナソニック(ドルツ)はそれに次ぐ存在でした。

 実際、2019年の調査では「現在利用している電動歯ブラシのメーカー」として、ブラウンが27.3%で最多、次いでフィリップス18.6%、パナソニック(ドルツ)は16.9%という結果が報告されています。

ドルツプレミアム W音波振動ハブラシ スマート EW-DT88
ドルツプレミアム W音波振動ハブラシ スマート EW-DT88

 ブラウン(米P&G傘下の独Braun)は丸型回転ブラシによる機械的磨きで知られ、「歯科クリーニング器具」に着想を得た独自の丸形回転技術を武器に世界展開しています。

 その強力な清掃力から、電動歯ブラシが手磨きより有効かを検証する多くの臨床研究でブラウン製品が使用されてきた経緯もあります。

 一方のフィリップスは、1990年代にソニッケアーを生み出した電動歯ブラシのパイオニアです。高速振動による音波式ブラシの代名詞的存在で、世界市場でも高いシェアを持っています。

 フィリップスは特に米欧で支持を広げてきましたが、日本市場でもその知名度は高く、パナソニックと並び“万人に勧められる”定番ブランドと評価されています。

 その中で国産ブランドの雄であるパナソニック・ドルツは存在感を示しつつも、トップの座には一歩届かない状況が続いていたのです。

 しかし今、その勢力図を塗り替えうる“大きな一手”として投入されたのが、8年ぶりにフルモデルチェンジされたパナソニックの新型ドルツなのです。

ドルツプレミアム W音波振動ハブラシ スマート EW-DT88
ドルツプレミアム W音波振動ハブラシ スマート EW-DT88

8年ぶりフルモデルチェンジ──歯間ケアに革新もたらす新ドルツ

 パナソニックは2025年9月、電動ハブラシ「ドルツ」シリーズのフラッグシップモデルを8年ぶりに刷新します。その名も「ドルツプレミアム W音波振動ハブラシ スマート EW-DT88」。

 W音波振動と呼ばれる独自技術をさらに進化させ、歯と歯の間のプラーク(歯垢)除去力を飛躍的に高めた意欲作です。

 メーカーによれば、新モデルは従来比で歯間部の歯垢除去力200%を実現したといいます。この数値はあくまで社内基準での比較ですが、裏を返せば長年ドルツが強みとしてきた歯周ケア性能をさらに磨き上げたことを示しています。

 ドルツのW音波振動とは、1本のブラシでヨコ方向とタタキ(叩き)方向の2つの音波振動で、2軸の立体的な動きを同時に発生させる独自構造です。EW-DT88では、このタタキ振動の振動数が大幅に強化されました。

 ドルツの音波振動ハブラシの基礎とも言える、ブラシをヨコ方向に高速で小刻みに往復させるリニア音波振動は毎分約31,000ブラシストロークを刻み、歯と歯ぐきの境目(歯周ポケット周辺)の歯垢をしっかり除去します。

 新開発のフロス音波振動はタタキ動作で歯間の隙間に入り込みますが、その速度は従来モデル(EW-DT73)の毎分約12,000ブラシストロークから約20,000ブラシストロークへと大幅アップしています。

 この2つの振動の組み合わせ(W音波振動)により、手磨きでは難しい立体的なブラッシングが可能となり、磨き残しが多い歯間部のプラークまで効率よくかき出せるわけです。
 

8年ぶりのフルモデルチェンジで登場した「ドルツプレミアム EW-DT88」の発表会では、開発秘話を商品開発に携わったメンバーたちがそれぞれの立場から語った
8年ぶりのフルモデルチェンジで登場した「ドルツプレミアム EW-DT88」の発表会では、開発秘話を商品開発に携わったメンバーたちがそれぞれの立場から語った

新ブラシ&ナビ機能が“磨き残し低減”をアシスト

 磨きの要となるブラシヘッドも刷新されました。新開発の「歯間フィットブラシ」は、先端2列に山切りカットを施した毛束を配置し、極細毛とひし形断面の毛をハイブリッド植毛しています。

 これにより歯と歯のすき間や奥歯のさらに奥の領域まで毛先が届き、効率良くプラークを除去できる設計です。電動歯ブラシに求められる歯間ケア性能を高めているのが新ドルツの大きな特徴と言えるでしょう。

 ハードウェア面でも日本メーカーならではの心配りが光ります。2つのモーターを内蔵しつつも細身で握りやすい本体設計を追求し、従来モデルよりもスリム化を実現しました。

 欧米人に比べ手が小さい日本人でも扱いやすく、口内の狭い部分にもブラシが届きやすいデザインになっている点は、日本市場を熟知するメーカーならではのアプローチです。

 さらに本製品では、「ブラッシングナビ」と呼ばれる新機能を搭載しています。

 これはブラシの柄(ネック部分)が発光することで、ユーザーに適切な磨き角度や押しつけの防止、動かしすぎの防止をリアルタイムにガイドしてくれる仕組みです。

 ブラウンやフィリップスの上位機種にも過圧防止センサーやスマートフォン連携によるブラッシング指導機能がありますが、スマホ不要で直感的に使える光ナビは、シンプルさと実用性を両立するアプローチと言えます。

柄の透明部が発光し、適切なブラッシング角度や圧力をガイドする「ブラッシングナビ」を新搭載
柄の透明部が発光し、適切なブラッシング角度や圧力をガイドする「ブラッシングナビ」を新搭載

コストと技術のバランス──競合モデルと比較した優位性

 気になる価格帯ですが、新型ドルツの想定市場価格は約4万8500円(税込)とアナウンスされています。

 これはブラウンの最上位モデル(Oral-B iOシリーズ10)が実売5万円前後、フィリップスのプレミアムモデル(ソニッケアー 9900プレステージ)も同程度であることを考えると、僅かながら割安と言える設定です。

 しかもドルツの場合、替えブラシなどの消耗品も価格が安く、抑えられる傾向があります。

 総合的に見れば、最新テクノロジーを詰め込みつつ競合より手頃な価格を実現したことで、コストパフォーマンスの面でも優位性を打ち出した形です。

ブラシスタンドや携帯用ケースなど付属アクセサリーも充実。清潔な収納環境をサポート
ブラシスタンドや携帯用ケースなど付属アクセサリーも充実。清潔な収納環境をサポート

日本市場トップ奪取へ──ドルツが勝てる理由

 新型ドルツが放つインパクトは、単なる製品スペックの向上に留まりません。それは、日本の電動歯ブラシ市場におけるシェア争いの構図そのものを塗り替え得るポテンシャルを秘めています。

 ではなぜ今回のドルツ刷新が、フィリップス&ブラウンの牙城を崩し国内トップに立つ可能性を秘めているのか――その理由を家電スペシャリストの視点から分析してみましょう。

 一つ目の理由は、日本人ユーザーのニーズへピタリと照準を合わせた製品コンセプトです。前述のように、新型ドルツは歯間部の歯垢除去や歯周ケアを徹底的に強化しています。

 これは裏を返せば、日本の消費者が電動歯ブラシに求めるものがまさに「歯間をしっかり磨けること」であるという調査結果に呼応したものです。

 厚生労働省のデータによれば、日本における歯間清掃(デンタルフロスや歯間ブラシ)の実施率は2016年時点で約3割でしたが、2022年には約5割に増加しています。

 国民のオーラルケア意識が年々向上し、「歯と歯の間まできちんとケアしたい」というニーズが高まっているのです。

 この時代の空気とも言えるトレンドに合致した製品をタイミング良く投入できたことは、ドルツにとって大きな追い風となるでしょう。

毎分約20,000ブラシストロークに強化されたフロス音波振動が歯間に入り込み、プラークを効率よく除去
毎分約20,000ブラシストロークに強化されたフロス音波振動が歯間に入り込み、プラークを効率よく除去

オーラルケア意識の変化とドルツの“時代適合性”

 また、日本市場固有の事情として高齢化と健康志向の高まりが挙げられます。平均寿命が延びる中、「健康寿命」を延ばす取り組みが社会的課題となっており、口腔内の健康維持は全身の健康に直結する重要テーマです。

 とりわけ30~50代の男性にとっても、加齢とともに歯周病リスクが高まることへの関心が高くなっています。

 パナソニックはその点を見据え、長年培った歯周病研究の成果を新ドルツに投入したとしています。

 実際、ドルツブランドは従来から「歯周ケアなら、ドルツ」と銘打って歯ぐきケア重視をアピールしてきました。

 今回の新モデルでそのメッセージ性は一層強まり、「テクノロジーで毎日のセルフケアの質を高める」という価値提案が、健康志向のユーザーに響くことが期待されます。

歯間ケアのニーズは近年で急上昇。ドルツはこの“時代の空気”に応える
歯間ケアのニーズは近年で急上昇。ドルツはこの“時代の空気”に応える

製品力と価格競争力──2つを両立させた戦略的勝機

 二つ目の理由は、製品力と価格競争力の両立です。

 新型ドルツは前述のとおり、技術面でブラウンやフィリップスの最上位機種と肩を並べ、さらには独自のW音波振動技術で優位性も示しました。

 そのうえで価格設定を強気に抑えたことは、市場シェア拡大に直結する要素です。特に日本の消費者は性能と価格のバランスに敏感であり、「同じ投資をするならより効果の高いものを」「同程度の性能ならより安価なものを」と考える傾向があります。

 ブラウンとフィリップスという海外ブランドの最上位モデルはいずれも高価格帯ですが、ドルツはほぼ同等の機能を備えつつ僅かに手頃な選択肢を提示することで、乗り換えや新規ユーザー獲得を狙える立ち位置に立ったと言えるでしょう。

 加えて、パナソニックというブランドに対する信頼感とサポート体制も無視できません。

 家電メーカーとして国内で圧倒的な知名度と販売網を持つ同社は、アフターサービスや消耗品の供給面でもユーザーの安心感を支えます。

40年以上「歯周ケア」研究に向き合い、商品開発を続けてきたドルツの過去モデル
40年以上「歯周ケア」研究に向き合い、商品開発を続けてきたドルツの過去モデル

総合力で牙城を崩す──3拍子揃った“勝てる”条件

 新型ドルツが日本市場でトップに立てる理由は、技術革新×ユーザーニーズ×ブランド力の三拍子が揃った点にあります。

 それは単なる一製品の成功に留まらず、ガラパゴスとも揶揄される日本市場において国内メーカーが存在感を発揮し得ることの好例ともなるでしょう。

 筆者は、今後もドルツの動向とそれに応じた競合各社の戦略を注視し続けたいと思います。日本発のイノベーションが電動歯ブラシ市場の勢力図を塗り替え、ひいてはグローバル市場を席巻する日も、決して遠くないのかもしれません。

NextNEXT:製品紹介とスペック
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