名物「三色ライス」とカメラと昭和の浅草と――古き良き昭和のカレーが味わえる「浅草橋 一新亭」【何度でも行きたい町洋食#04】
オムライス・ハヤシライス・カレーライスを一皿に。店の名物「三色ライス」
JR浅草橋駅から徒歩約6〜7分、都営大江戸線蔵前駅からも7〜8分。鳥越神社から蔵前橋通りを挟んだ反対側にあるのが「浅草橋 一新亭」。創業は明治39(1906)年、約120年の老舗洋食店です。
「初代が、欧州航路のコックを勤めたのち丘に上がってね。最初は鳥越神社の前で営んでいたのですが、関東大震災で現在の場所に移ってきたんですよ」と話すのは3代目店主の秋山さん。
「昔は蔵前に材木のセリをする場所があってね、大体月2回ぐらいだったんだけれど。そのセリが終わった後、フルコースを食べにくる人が多かったんですよ」
現在の建物は昭和3(1928)年に建てられたもの。「昔は天井にシャンデリアがぶら下がっていたんだよ」。確かに天井を見上げると、洋風建築の名残を感じられます。
昭和37(1962)年に2代目だった父親が亡くなり、25歳から店主となって60年超、88歳になった今でも現役で料理を作り続けている、店主の温かみが伝わってくる3品を紹介します。

まずは店の名物。オムライス・ハヤシライス・カレーライスが一緒になっている三色ライスは、お新香とお味噌汁がセットになっています。
実はこの料理ができたきっかけが。あの有名漫画。
「今から30年ぐらい前に、3週連続、3人で食べにきた人たちがいてね、その3週目に名刺をもらったんです。実は『美味しんぼ』の関係者の方たちで、うちのハヤシライスを取り上げたいと。
いざ漫画に掲載されたら、全国からハヤシライスを食べにきてくれるようになってね。それでせっかく食べにきてくれるのなら、って3つを一皿に盛ったらお客様に喜ばれたんですよ」

遠方からはるばる来てくれたお客様に、ハヤシライス以外の味も食べてほしい、という気持ちで誕生した三色ライス。オムライスもカレーライスもハヤシライスも単品メニューとしてあるけれど、3つを一皿で楽しめるのは、確かに嬉しい!
ハヤシライスの中身は、牛肉とじっくり煮込んだタマネギだけ。毎朝継ぎ足しで作っています。「新しく作ると角が立つからね、継ぎ足すことで味に丸みを出しているんですよ」。
創業120年の店の継ぎ足して作るハヤシライスのソース。店主だけでも60年超え。これはかなり歴史のあるソースと言えそうです。
古き良き昭和のカレーに揚げたてのトンカツ。「カツカレーライス」
ザ・昭和のカレー、と言いたくなるような黄色いルー。「うちのカレーは横須賀海軍カレー、昭和のカレーなんですよ。豚とタマネギで作る、シンプルイズザベストのカレー。
へんちくりんにいじっちゃったらダメ」とにっこり微笑みながら話す店主。もちろん、三色ライスにかかっているのも同じカレーです。

店主はシンプルと言っているけれど、実際に味わうと、程よい辛さと香りの良さと旨みが一体化した、それこそ胃袋が許す限りずーっと食べていたいと思うカレー。昭和の時代、スパイスがさほど種類のない頃に作られた、調理人の創意工夫が詰まった味。それが黄色いカレー。
これは、初代が欧州航路のコックだった時のレシピなのかも? 今ではなかなか食べられない、老舗洋食店だからこそ味わえる、伝統の味わいです。
この組み合わせがメニューにあるなんて!「「オムライス 魚フライ付」
「具は鶏肉とタマネギ、ケチャップで味付けだね」のチキンライスに、ふっくらたまご、そしてアジフライ! さらにナポリタン、千切りキャベツも添えられています。
実は一新亭のオムライスメニューは4つあり、オムライスコロッケ付き900円、オムライスメンチカツ付き1000円、オムライストンカツ付き1200円、そしてこの魚フライ付きが950円で時期によりカキフライ付き1000円も。オムライス専門店で、追加メニューでフライものが頼める場合はあっても、最初からフライやカツが付いているのは珍しいのでは?
食べてみると、卵はトロトロではなくしっかりふわっと食感。そしてケチャップ味のチキンライス。そうそう、これこれ〜! と言いたくなる味わいです。

オムライスを堪能してからのアジフライは、衣のザクザク感がいい食感の違いを生み出しています。オムライスにかかっているケチャップと、ケチャップライスの濃さで、アジフライは何もつけなくてもいい。
卓上にはソースやお醤油などが置いてあるけれど、ケチャップの旨みでアジフライを味わっても良いと思う。
口の中が濃厚に感じたら、千切りキャベツやお味噌汁でリセット。さらにまた美味しく感じられます。

店内には昔の浅草や上野などのモノクロ写真が飾られています。実は店主、10代の頃からずっと街の風景などを撮り続け、今でも新聞で連載を持っているという、シェフとカメラマンの2つの顔を持っています。
「中学を出て都立第三商業に入ったんだけれど、配達の人の2人のうち1人が辞めて、うちに泥棒に入ったんだよね。そこで、うちの店に入れと親に強制的に学校を辞めさせられて。でも写真だけはやるよ、ってのと月500円の小遣いを条件に継ぐことになって。当時1万円くらいの写真の引き伸ばし機も買ってもらってね」。
最初に買ったカメラは『マミヤ35』。「NikonやKWANON(Canon)なんて高くて買えなかったよ!」と笑いながら話す店主。70年以上様々な風景を撮り続けてきたその総数はなんと47万カット!
「昭和の記録を残しておくことは大事だからね。30万カットぐらいはデジタル化が済んでいるんだけれど。JCII(日本カメラ博物館)の人からも、若い人を何人か手伝わせるから、一気にやれば? って言われたんだけれどね、撮影した時の記憶は自分の頭にしかない。だから一人でコツコツやるしかないんだよ」。
実はJCIIでカメラの指導もしているとのこと。平成以降に生まれた人だと、フィルムを入れるカメラを触ったことはないだろうし、オートじゃないズームやフォーカスの合わせ方とかわからないだろうなぁ。クラシックカメラで撮ってみたい人にとって店主は、憧れの存在と言えそうです。
カメラが趣味じゃない人にとっても、昔の浅草や上野の景色、当時のお祭りや子供の遊びなど、目を惹く写真は色々。

「最近は『べらぼう』が評判でしょ、だから戦後の吉原の写真を最近新聞に載せたんだよ」。浅草橋で生まれ育ったからこそ、吉原や秋葉原など今ではすっかり生まれ変わってしまった街の、昔の景色を今も見ることができます。
昭和の雰囲気を感じられる洋食だけではなく、カメラや街の昔話など、もっと話が聞きたくなる魅力的な店主。また近いうちに食べに行くこと、決定です!
店舗情報
「浅草橋 一新亭」
住:東京都台東区浅草橋3-12-6
TEL:03-3851-4029
営:11:30〜14:30
休:土日祝
※改築で臨時休業の予定あり
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