「家電だけでもスマートフォンだけでもない」EV事業にも乗り出したシャオミの副社長が語る日本戦略とは【家電で読み解く新時代|Case.17】
シャオミの副社長が語る「Human Car Home」と日本戦略
起業家であり、家電スペシャリストでもある滝田勝紀氏が、連載「家電で読み解く新時代」と題してテクノロジーの奥に潜む“時代の空気”を紐解きます。
今回取り上げるのは、スマートフォンメーカーの枠を越え、家電や自動車まで視野に入れたエコシステムを掲げるシャオミ(Xiaomi)のビジネス戦略だ。
9月末に東京・秋葉原で開催された新製品発表会では、スマートフォン「15T」シリーズやロボット掃除機、タブレット、チューナーレステレビなど幅広い製品が披露された。
同時に副社長の鄭彦(てい・えん)氏が登壇し、「Human Car Home」というビジョンの下で日本市場をどう攻略するのかを語った。その言葉から、シャオミの現在地と未来図を読み解いていく。

発表会で示された“Human Car Home”の全体像
会場で真っ先に語られたのが、スマートフォン、車、家をシームレスにつなぐ「Human Car Home」というミッションだ。
シャオミは世界で9億8910万台以上のスマートデバイスを自社プラットフォームに接続しており、2023年にこのコンセプトを掲げてエコシステムをアップグレードした。
人が持つスマートフォンやタブレット(Human)、電気自動車(Car)、テレビやロボット掃除機といったスマート家電(Home)を同じOSで連携させ、生活の95%以上のシナリオをカバーすることが目標だ。

そのビジョンを体験できる場所として力を入れているのが直営店「Xiaomi Store」である。2025年春に浦和美園と川口に初出店すると、グランドオープン初日だけで約5000人が来店し、売り上げは1000万円を超えた。
好調な滑り出しを受け、同社は年内にイオンレイクタウンkaze店、イオンモール幕張新都心店、さらに東京23区内の商業施設に新店舗を構え、首都圏での展開を拡大する計画だ。
各店では200以上の製品を展示・販売し、製品体験の場として機能させる。2026年には大阪と名古屋にも進出し、直営店網を全国へ広げる。
サービス面では、スマートフォンの購入後サポートを強化する「Xiaomi Care」と、古い端末を下取りする「にこスマ買取 for Xiaomi」を9月26日から導入した。
「Xiaomi Care」は、落下や水没などの物損故障に対応する有償保証で、交換端末は最短翌日発送される。キャンペーン期間中は1年分の料金で2年プランにアップグレードできる。
また、「にこスマ買取 for Xiaomi」は、mi.comやXiaomi Storeで買い替える際に専用QRコードから同サイトにアクセスし、見積金額の確認から申込みまで行える。
こうした総合的なサポートは、低価格製品の保証に対する不安を払拭し、所有コストまで見据えたサービスに進化している。

“単なる家電メーカーではない”という自負
発表会後に、鄭副社長は筆者の単独インタビューで「シャオミは家電だけでもスマートフォンだけでもない」と繰り返した。
実際、中国本社ではスマートフォンやタブレットを中心に、ロボット掃除機、空気清浄機、スマートカメラなど500種類以上のAIoT製品を展開している。日本ではそのうち約3分の1しか導入されておらず、2028年までにほぼすべてのラインナップを投入し「Human×Home」を完成させるのが目標だという。
大型家電については「今年の導入はない。日本の100V電圧や狭いキッチンの寸法、電安法といったローカル基準に合わせた次世代モデルを用意した上で、来年後半の導入を目指す」と語り、慎重かつ確実なローカライズを進めている。
洗濯機や冷蔵庫のような白物家電が家庭に入れば、同社のエコシステムは一段と実生活に溶け込む。

競合との違いについて尋ねると、鄭氏は「競合他社を意識していない」と笑う。ただしその背景にあるのは、製品点数の多さやOS連携に基づく“面”での勝負だ。
中国や韓国メーカーが大型家電への進出を急ぐ中で、シャオミはスマートフォンとタブレットを核に、個々の家電をHyperOSで束ね、ワンストップで生活全体を変えるアプローチを採る。
「Human Car Homeを実現するには大量のSKUとコア技術が必要で、そこに参入できている会社はほとんどない」と言うように、同社はOSを自社開発し、複数のサプライヤー製品でも本社がデザイン言語を統一。
車も含めた全デバイスに一貫した美学を通じてブランドの世界観を作り上げているのが特徴だ。

Human Car Homeのロードマップと大型家電の位置付け
会場では電気自動車「SU7 Ultra」が展示されたが、日本展開はまだ未定だ。副社長は「EVは最後のピース。まずはスマートホームを完成させる」と語る。
車載版HyperOSと家電が連動する未来像は見せつつも、当面は住宅内のユーザー体験を磨くことが優先だ。
大型家電の導入スケジュールは2026年以降で、まずは冷蔵庫や洗濯乾燥機、エアコンなどの白物家電を投入する予定。これらは帰宅前にエアコンを自動でつけ、冷蔵庫の急冷モードを起動し、夜間は静音洗濯機が働く、といったシナリオを実現するための基盤となる。
最新のスマートカメラC701は8メガピクセルで4K映像を撮影し、AI処理を端末内で行うことでプライバシーを守る。
Xiaomi Homeアプリ経由でカメラや空気清浄機を遠隔操作できるため、外出先からでも帰宅前に空気を浄化することが可能だ。
ロボット掃除機5 Proは20,000Paの吸引力と伸縮アームを搭載し、ホコリをミリ単位で取るだけでなく、80度の高温洗浄と高速温風乾燥でモップの衛生管理まで自動化する。
こうした製品群が家庭の様々なタスクを代替し、やがてEVと連携する未来の“土台”となる。

販売チャネルと価格戦略——適正価格を守るために
日本における販売チャネルは、直営店と公式オンラインストアを軸に据える方針だ。
量販店やキャリアとの協業も続けるが、日本の流通コストは高く、「良いものを適正価格で届ける」という同社の信念と折り合いをつける必要があるという。
直営店では製品体験と会員化、eコマースでは利便性、アフターサービスでは安心を提供する三位一体の運営を目指す。キャンペーンを組み合わせたサブスクリプション型保証や下取りサービスも、所有コストを抑えながら最新製品へ移行できる導線として注力する。
国内での認知度はまだ高くないが、鄭氏は「体験すれば分かってもらえる」と自信を見せる。実際、浦和美園店では開店初日に200製品を一望できる体験が評判を呼び、多くの来店者がファンクラブ化している。
若年世代に向けてはスマートバンドやシンプルなスマートライトなど1万円台から始められるスターターキットを用意し、段階的にロボット掃除機やテレビ、白物家電へと広げる導線を検討中だ。

2028年までに目指す「Human×Home」の完成
取材の最後に、筆者が「2028年の到達点」を尋ねると、鄭副社長は「日本でHuman×Homeを完成させること」と即答した。
2025年時点で日本に導入しているIoT製品は全体の3分の1に過ぎないが、今後3年間でほぼ全ラインナップを投入し、家全体をシャオミのエコシステムで包み込む計画だ。
そこには、適正価格で高品質な製品を提供しつつ、デザインやOS連携で“統一された暮らし心地”を実現したいという強い意志がある。
会場で披露されたロボット掃除機や空気清浄機、パーソナルケア製品などはその第一歩であり、直営店の拡大や保証サービスの強化は、より多くの人にその価値を届けるための布石である。
3年後、日本の街角で「シャオミの車が走っている」と誰もが振り向く日が訪れるまでに、まずは家庭の中で“Human Car Home”のうち“Human×Home”が完成するという。
そのとき、家電選びは単なる機能比較ではなく、ライフスタイルをどうデザインするかという問いへと変わるだろう。
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