“アップルどっぷり世代”をどう動かす?――Windows生誕40周年を迎えたマイクロソフトの“AI戦略のカギ”とは

戦略3:オープンなエコシステムで「心地よい庭」に挑む
3つ目の柱は、「オープンなエコシステム」としてのWindows+Android/iOS連携を、あえて前面に出していくことだ。アップルの強さは、「iPhone」「Mac」「iPad」「Apple Watch」といったハードウェアと、iCloudや各種サービスが“美しく閉じている”ことにある。
この「心地よい庭(Walled Garden)」は、ユーザー体験としては素晴らしい一方で、他エコシステムへの乗り換えコストをどんどん高めてしまう。
これに対してマイクロソフトは、「Windows PCから多様なプラットフォームに寄り添う」「様々なPCメーカーがWindowsベースでAI PCを出せる」「Copilot自体も、マイクロソフトが企業向けに提供する開発環境では既に複数の言語モデルが自由に選択できる」という“多様性前提のエコシステム”で勝負している。
「私たちは、できるだけ“選択肢を増やす側”にいたいと思っています」と當野氏。
「スマホはお好きなものでいい。PCも、好きなメーカーを選んでいただいて構いません。そのうえで、“真ん中”にWindowsとCopilotがいて、どの組み合わせでもきちんと働いてくれる。そんな『つなぎ役』のような存在を目指しています」
短期的には、ブランド囲い込み力が弱まるように見えるアプローチだ。しかし長期的には、ユーザー側の選択肢を増やし、市場全体のイノベーションスピードを上げる方向でもある。
「AIの時代は、どこかひとつの企業だけで完結する世界ではないと思います」と當野氏は言う。
「そもそもマイクロソフトという会社は、OS を自社ハードに閉じるのではなく、さまざまなメーカーに提供し、パートナーと一緒に市場を広げてきた歴史があるんです。世界中の各OEMメーカーのパートナーと共に Windows を育ててきました。その文化は今も全く変わっていません」

だからこそ、AI PC 時代でも“囲い込む”という発想はない。
「AI になっても姿勢は同じです。私たちだけで完結するのではなく、パートナーとともに“最適な体験”をつくり、そこにユーザーが自由にアクセスできる構造を提供する。
クローズドに囲い込むのではなく、“どんな端末でも、どんな生活でも繋がる”。それがマイクロソフトの一貫した思想なんです」
Windows はハードではなく、ハードを“つなぐ”存在へ──。OS の存在感が空気のようになりつつある今、その思想は AI PC 時代においてむしろ重要性を増している。
「クラウドサービスも、生成AIのモデルも、それぞれの得意分野があります。ですから、Windowsは“つなげやすさ”で貢献したい。オープンであることは、私たちにとって競争戦略であると同時に、日本のお客さまにとっての安心材料にもなると考えています」
同調圧力の強い文化の中では、「みんなが使っている閉じたエコシステム」のほうが分かりやすく、安心感もある。それでもなお、マイクロソフトがオープン路線を貫くのは、「AI時代の10年単位の競争は、クローズドではなく“連携のしやすさ”で決まる」と見ているからだと分析できる。

「AI PC」はいつか“ただのPC”になる
AI PCという言葉は、まだ“新しいカテゴリ”として扱われている。しかし、その本質はむしろ逆だと感じる。AIを特別扱いしない未来──PCの裏側で当たり前のようにAIが動き、ユーザーは意識せずにその恩恵を受けている、そんな世界へ向かうための過渡期の名称に過ぎないのかもしれない。
「いずれ『AI PC』という言葉は、あまり使われなくなるかもしれませんね」と當野氏は最後に言った。
「かつて“インターネット対応テレビ”と言っていたのが、今はただのテレビになったように。すべてのPCにAIが入るようになれば、AI PCは“PCそのもの”になる。その未来に向けて、今はできるだけ多くの方に『最初の一台』を体験していただきたいですね」
家電がそうであるように、PCもまた、道具としての成熟に向かっている。“アップルどっぷり世代”のなかに、どれだけ「開かれた選択肢」としてのWindows+AI PCを差し込めるか。
40周年を迎えたWindowsの次の10年は、日本人の“当たり前の道具感”を、もう一度塗り替えられるかどうかにかかっている。
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