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4200万円のレストア費が水の泡!? なぜ米軍の「失敗作」がソ連では「傑作」扱いに? 船舶設計のプロが生んだ“海のジープ”の数奇な運命とは?

船舶設計のプロが生み出した“失敗作”

 海を渡り、陸を駆ける……水陸両用車は昨今話題の“空飛ぶクルマ”に匹敵するほど夢があります。

 一般にこそ普及していない水陸両用車ですが、実は古くから存在しています。その一例が、先日、アメリカのオンライン・オークションサイトBring a Trailerに出品されたフォード「GPA」です。

 フォード「GPA」は、第二次世界大戦で活躍した軍用の水陸両用車。1942年4月に制式採用され、1年足らずで約1万2800台が製造されました。愛称は「Seep(シープ)」。これは「Sea Jeep(=海のジープ)」を略したもので、陸上でも水上でも活躍できることを目指して名づけられました。

 設計は、ヨット製造会社であるスパークマン&スティーブンスのロッド・スティーブンスJr.が担当。モノコック式の舟形車体に、元祖ジープであるフォード「GPW」のエンジンと走行に必要なハードウェアを組み込む形で完成しました。船舶設計のプロにより、独特の舟形ボディが生み出され、車体後部には、航行のためのスクリューと舵が備えられたのです。

 しかし、大きな問題がありました。設計時の“目標”重量は1200kgでしたが、実際に生産された車両は約1600kgと、大幅に重くなってしまったのです。

オークションに出品された1943年式のフォード「GPA」(C)Bring a Trailer
オークションに出品された1943年式のフォード「GPA」(C)Bring a Trailer

 結果、水上では乾舷(フリーボード)が低すぎて、おだやかな波でさえ対応できず、貨物は大した量を積み込むことができませんでした。実戦では、波がある状況で沈没したケースも報告されているのだとか……。プロトタイプをつくった時点で気づきそうなものですが、戦時中のドタバタでとりあえずつくってしまったのでしょうか?

 一方、陸上でも車体が重すぎて扱いにくく、兵士たちには不評だったそうです。兵士たちからは“バスタブに浸かったジープ”と呼ばれ、陸上での操縦性の鈍さ、外洋の波や深いぬかるみでの無力さが嫌われました。こうした問題から、1943年3月には生産中止となっています。

●4200万円以上を投じて当時の姿を再現するも……

 ところが意外なことに、この失敗作が大歓迎された場所がありました。

 当時、連合国の一員であったソビエト連邦(以下、ソ連)は、フォード「GPA」の全生産台数の約3分の1に当たる3520台を、レンドリース(武器貸与法)で受け取ったそうです。

 ソ連の広大な河川や湿地帯では、外洋での性能は問題にならなかったようなのです。そして大戦後、ソ連はフォード「GPA」に似た「GAZ-46 MAV」という独自の水陸両用車を開発。1952年から生産を開始しました。皮肉にも、アメリカ軍が見放した技術が、冷戦時代のソ連圏で花開いたのです。

 今回出品された当該車両は1943年製で、現在のオーナーの配偶者が1958年に取得し、67年間所有してきたものです。

 2021年から2022年にかけて、アメリカ・ウィスコンシン州ブルースにあるショップで、26万9000ドル(現在のレートで約4206万円)以上をかけてフルレストアが施されました。車体はオリーブドラブに塗装され、当時の姿が忠実に再現されています。

 気になるオークションでの落札価格は、15万1000ドル(約2361万円)でした。レストア費用の約半分、という残念な結果となりましたが、戦史を今に伝える車両として、その価値は金額だけでは測れません。

 成功とはいえなかった設計だったものの、思わぬ場所で評価されたフォード「GPA」。技術開発の複雑さ、同じ道具でも使われる環境によって評価が180度変わることを教えてくれる、興味深い歴史の証人といえます。

Gallery 【画像】“走るバスタブ”と呼ばれたユニークな軍用車! 4200万円投じて新車同様に蘇ったフォード「GPA」を写真で見る(21枚)

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