日本のモノづくりは本当に“オワコン”なのか? VAIO安曇野工場で見た「日本PCの正しい進化論」とは【家電で読み解く新時代|Case.33】
「賢さ」はAIだけではなく、出し方に宿る
賢さのわかりやすい例として、VAIOが業界に先駆けて搭載したAIノイズキャンセリングがある。オンライン会議中にAIが人の声とノイズを学習して分離し、相手には話者の声だけを届ける機能だ。
さらに、カメラの正面およそ左右40〜50度の範囲内の声だけを拾うプライバシーモードや、会議室全体の声を均一に拾う「会議室モード」など、現場の声を反映した機能が用意されている。
しかし筆者が強く感心したのは、その「出し方」である。これらの機能は、キーボード上の専用キー一つで立ち上げられる。林氏は言う。

「こういう機能って、Web会議をしている“その瞬間”にすぐ切り替えたくなるはずなんです。でも、メニューの階層の深いところに埋もれていたら、存在していても使われない。
だからこそ、専用キー1発で呼び出せるようにした。便利な機能は、すぐ届く場所に置かなければ意味がないと思っています」
また、画面を180度開いて対面の相手と共有できる「画面反転機能」では、画面だけでなくタッチパッドの動きまで反転させている。
「対面の人に画面を見せて、タッチパッドを操作しながら説明するとき、こちらから見て右に動かすと、相手から見ても右に動いてほしいですよね。直感的に使えることが大事なので、タッチパッドの動作も合わせて反転させました」
こうした0.5歩先の賢さは、スペック表には載りにくい。しかし、ユーザーの毎日のストレスを確実に減らしてくれる。VAIOの賢さは、AIや新機能の“派手さ”ではなく、現場の感覚と細部への配慮に宿っている。

Reborn VAIOが示す、サーキュラーな未来
今回の取材で、筆者が強く惹かれたもう一つの取り組みが「Reborn VAIO」である。法人営業本部でReborn VAIO事業室長を務める花村氏は、冒頭から率直だった。
「今の林の話を聞いて、VAIOっていいなと思っていただいたかもしれませんが、正直、新品は高いですよね」
だからこそ、メーカー保証付きのリファービッシュブランド「Reborn VAIO」を立ち上げたと花村氏は語る。
「徹底した動作確認とクリーニングに加えて、天板とキーボード、パームレスト、それからバッテリーも新品に交換しています。ビスやラベルのような細かい部分も全部交換する。
ACアダプターも新品を付ける。メーカーだからこそできる範囲までやり切ったうえで、1年保証をつけて“高品質な再生品”として出すのがReborn VAIOです」

元になる中古VAIOは、主に法人向けに販売したリースアップ機である。VAIO側は、自社がどこにどんなスペックのPCをいつ納めたかというデータをすべて把握している。
「だいたい3~4年でリースアップして戻ってくるタイミングが読めるので、そこを狙って新品を提案しつつ、中古を買い戻す。どのスペックを売ったかも分かっているので、今のトレンドにマッチするモデルを選んで仕入れられるのも強みです」
興味深いのは、OSの入れ直しにとどまらず、シリアルナンバーまで取り直している点だ。
「中古PCのトラブルで多いのが、前の企業の登録情報が残っていて、立ち上げた瞬間に“前の会社のようこそ画面”が出てしまう、みたいなケースです。
Reborn VAIOではシリアルを書き換えるので、もし登録解除を忘れていたとしても、物理的に関係を断ち切ることができる。そこは、中古でも安心して使っていただけるポイントだと思っています」
環境への負荷軽減にも貢献している。新品のVAIOと比べた場合、Reborn VAIOのCO₂排出量は約60%に抑えられるという。

「サーキュラーエコノミーの文脈でいうと、リサイクルだけでなく、リユースをどう仕組みとして回すかが重要です。リースやレンタル会社、企業のIT資産、VAIOの工場やサービス部門、それぞれがメリットを享受しながら循環できるエコシステムをつくりたいと思っています」
実際、現在販売されているReborn VAIOの一部は、税抜9万9800円という“経費で落としやすい”価格帯で展開されている。11世代Core i5、タッチパネル、LTE対応という、かつて新品なら35〜36万円クラスだった仕様のPCが、3年後には約10万円で手に入る。
「まずは“味見”で1台買っていただいて、どんなものか試してもらう。そこで評価していただければ、次はロットで導入してもらう。そんなケースが増えています」と花村氏は言う。
これは単なる安売りではない。きちんと作られた“本物のPC”を、きちんと整備し直して、きちんと説明しながら届ける。Reborn VAIOは、日本のメーカーがリユースビジネスに本気で取り組んだときの、一つの解答である。

ノジマ傘下で、コンシューマー復権は起きるか
VAIOは昨年より、ノジマグループの傘下に入っている。量販現場とユーザーとの距離感を熟知したノジマと組むことで、法人で磨いてきた価値提案を、再びコンシューマーにも届けやすくなった。糸岡氏は、今後の方向性についてこう語る。
「VAIOのユーザー層は、どうしても年齢が高めになっているのは事実です。かつて使っていた人がCIOや社長になっていて、法人営業のファーストコンタクトが取りやすいというメリットもありますが、一方で若い世代にとっては“親世代のブランド”になりつつある。そこを変えていきたい」
実際、Reborn VAIOは大学生や若手社会人を強く意識した商品設計になりつつある。4年保証やSIM内蔵モデルなど、学びとモビリティを両立させる仕様も準備しているという。
「若い人たちは、中古という言葉に対して、上の世代ほど抵抗がないと感じています。それどころか、自分の好きなカラーのPCにステッカーを貼ったり、アイドルのイメージカラーと合わせたり、ポジティブに楽しんでいる。
そこに、VAIOならではのカラーバリエーションとReborn VAIOの価格帯が、きれいにハマる可能性があると思っています」
グリーンやディープエメラルド、アーバンブロンズといった、法人PCとしては大胆なカラーが、実際には想像以上に選ばれているというのは象徴的だ。社内の保守的な声を押し切ってでも、デザインと色にこだわってきたことが、ここにきて実を結びつつある。

日本のモノづくりの「正しい進化」はここからだ
安曇野の工場を歩きながら、筆者は何度も「日本のモノづくりは本当に終わったのか」と自問した。VAIOの現場には、かつての“職人芸”の延長線上にあるこだわりと、世界の評価軸の変化を冷静に見据えた戦略が、同居していた。
・PCはアウトプットを生み出す道具だと再定義すること。
・決裁者とユーザーという二人の顧客の満足を同時に追求すること。
・カッコイイ・カシコイ・ホンモノというシンプルな価値軸に集約し、機能美として形にすること。
・Reborn VAIOのようなサーキュラーな仕組みを、メーカー自らのビジネスとして成立させること。
これらはすべて、「世界の評価軸が変わったあと、日本のモノづくりはどう振る舞うべきか」という問いに対する、VAIOなりの答えである。
VAGUEは“オフタイムを充実させるライフスタイルメディア”だが、30〜50代の読者にとって、仕事の時間もまたライフスタイルの中核である。
一日中向き合うPCが、ただの“灰色の箱”か、それとも「自分の感性に合ういい道具」かで、その人の毎日は大きく変わる。

日本のモノづくりは、本当に否定されるべきなのか。安曇野でVAIOの現場と三人のキーパーソンの話を聞いた今、筆者はむしろ逆だと確信している。
世界の評価軸を理解し、自らの強みをそこに接続し、価値をきちんと伝えさえすれば、日本のPCにも、家電にも、まだまだ「正しい未来進化」の余白は残っている。
法人市場ですでに起きつつある変化が、コンシューマーの世界にも波及していくことを、家電スペシャリストとして、そして起業家として、心から期待している。
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