アメリカ版『¥マネーの虎』を10分で攻略した敏腕CMOが、アイロボットに再び「マッチョな進化」をもたらすと確信した理由
アイロボットに再び「マッチョな進化」をもたらすと確信した理由
ロボット掃除機の代名詞としてかつて世界市場を独占していた「ルンバ」。しかし、競合の台頭と激化する価格競争の中で、アイロボットは今、大きな転換期を迎えている。
この再建の鍵を握るのが、2025年3月にCMO(最高マーケティング責任者)に就任したアテナ・カスヴィキス氏だ。
彼女の経歴は異色かつ強烈だ。食品やパーソナルケアなど多様なジャンルで15年以上にわたりマーケティングを手掛け、P&Gで本流を歩む傍ら、自身が主宰するランジェリーブランド「Behave」を起業。
全米大人気の投資リアリティショー番組『シャーク・タンク』(アメリカ版『¥マネーの虎』)に出演し、わずか10分という番組史上最速記録で資金調達を成功させた伝説を持つ。
単なるエリートマーケターではない。投資家のシビアな目を一瞬で釘付けにする勝負強さと、徹底した消費者視点を併せ持つ彼女が、新生アイロボットで描く「ルンバの未来」とは何か。
日本市場向けに開発された戦略モデル「ルンバMini」を切り口に、彼女の本音に迫る。

王道のマーケティングと起業家精神の融合
アテナさんは非常にユニークな経歴をお持ちですね。まずはそのキャリアの流れについて詳しく聞かせてください。
アテナ氏:たしかに一見ユニークに見えるかもしれません。でも私の中では、ずっと一貫している部分があります。私はこれまで年商数十億ドル規模のブランドを担当してきましたし、自分自身のブランドもゼロから立ち上げました。
ですが、常に変わらないのは「消費者に喜びを届けること」「消費者をワクワクさせること」へのフォーカスです。
扱う商品やカテゴリーが何であっても、本質は同じです。「どうすれば消費者が必要としているものを届けられるか」「どうすれば消費者を喜ばせられるか」。私の軸はずっと“コンシューマーマーケティング”です。
『シャーク・タンク』への出演経験は、現在のiRobotでのマーケティングにどう活かされていますか?
アテナ氏:『シャーク・タンク』ほどプレッシャーの高い状況は、正直ほとんど経験したことがありません。あれは生放送で、極限の場です。それでも私が番組史上最速でディールを獲得できたのは、まさにマーケティング、とくに消費者マーケティングの力でした。
私は短い時間で、彼ら(投資家)に「消費者にとっての価値」を“すぐ理解できる形”で伝えられました。
それはルンバでも同じで、消費者が「なぜこれが自分の家にとって最適なのか」を、簡単に、素早く理解できるようにする。そこは非常に似たチャレンジだと思っています。
アイロボットでも考え方は同じです。ルンバは世界中で愛される象徴的なブランドです。私たちは“がんを治す”ような仕事をしているわけではありませんが、日々、消費者の生活を少しでも良くできる力があります。それはとても大事なことです。

彼女の言葉から伝わってくるのは、「技術」を語るのではなく「感情」と「価値」を売るという強烈なプロ意識だ。多くの家電メーカーは、未だに「モーターの回転数」や「吸引力の数値」といったスペックの訴求に陥りがちだ。
しかし、現代の消費者が求めているのは「自分たちの生活がどう良くなるのか」というSo what(だから何?)の答えである。
極限のピッチの場で投資家を動かした彼女の「瞬時に価値を伝える力」は、コモディティ化が進むロボット掃除機市場において、アイロボットの最大の武器になるはずだ。
直感的なメリットを伝える「カオス」な広告戦略とメディアシフト
アテナ氏がCMOに就任して以降、アイロボットのメッセージングは明確に変わりつつある。その片鱗が見えたのが、最近展開されている”Made for this”というキャンペーン動画だ。
まさにその「分かりやすさ」が、”Made for this”のキャンペーン動画にも表れていると感じました。子ども博物館のようなカオスな状況でもルンバがしっかり掃除できるなら、家庭でも安心して任せられる、というメッセージだと思います。
このクリエイティブには、マーケティング戦略としてどんな狙いがありましたか?

アテナ氏:私たちが競合よりも上手くできていることがあるとすれば、「消費者にとって分かりやすくする」ことだと思います。私たちは消費者に“工学の博士号”を取らせたいわけではありません。忙しい消費者が、製品のメリットを直感的に理解できることが重要です。
あのCMはまさにそのためのものでした。さらに次のフェーズ(Phase2)もすでに検討していて、もっと分かりやすく、もっと広く伝えられるようにしていきます。
メディア戦略についても伺います。日本でもアメリカでも、テレビCMだけでなくストリーミングやコネクテッドTV、SNSなどへシフトする流れがあります。アイロボットがそうした方向へ寄せる背景には、どんな考えがありますか?
アテナ氏:従来のテレビにも役割はあります。私自身、伝統的なテレビが好きです。ただ、私たちは“本当に届けたい人”に、最も受け入れられやすい形で、より効率よく届ける必要がある。
コネクテッドTVやストリーミングは、ターゲットをより明確にできる。ルンバが響く人に、より早く、より適切にリーチできる。その点が大きいですね。
再建フェーズにおける技術と消費者理解のシナジー
アイロボットは今、中国・深圳市の企業・杉川机器人(PICEA・パイシア)傘下に入り、新たな再建フェーズへと舵を切っている。これまでの「自社開発至上主義」から、外部の技術力やアセットを活用するオープンな開発体制への移行だ。
これは一見するとブランドのアイデンティティの喪失と捉えられがちだが、アテナ氏の視点は全く異なっていた。
ニュースでも報じられていますが、アイロボットはパイシア傘下で再建フェーズに入りました。マーケティング視点で、今後市場でマッチョな存在感を取り戻すには何が重要だと考えていますか?
アテナ氏:私は、いまがアイロボットにとって最もエキサイティングなタイミングだと思っています。新しい時代(NEW ERA)の幕開けです。
パイシアとのパートナーシップは、私たちに世界クラスの技術力とスピードを与えてくれます。そして私たちの強みである「消費者理解」や「消費者行動の洞察」と組み合わさることで、イノベーションをより速く市場に届けられる。
“技術のための技術”ではなく、消費者主導で製品を作り、市場に出していける体制が整いました。より速く、より強くなれる。「Roomba Mini」はその始まりです。

「Roomba Mini」のクリエイティブ資料を拝見すると、「小さい」という事実そのものより、「小さいからこそカテゴリーを広げる」という思想が見えました。既存のアイロボットユーザーだけでなく、新規ユーザー獲得のための戦略商品なのでしょうか?
アテナ氏:はい、その通りです。私たちのミッションはロボティクスで消費者の生活を良くすることですが、それはあらゆるタイプの消費者にとっての“解決策”がなければ実現できません。
多くの人がこれまでロボット掃除機を買わなかった理由は「大きすぎる」「家が狭い」「部屋が物でいっぱい」といったものです。
でも床はきれいにしたい。床掃除は最も嫌われる家事のひとつであるという調査結果があります。だからこそ、より多くの人にとって“手が届く”製品にする必要があります。
小さいだけでなく「だから何なのか(So What?)」にメッセージを置いていますよね。「Roomba Mini」で、どんな新しい生活体験を提示しようとしているのでしょうか?
アテナ氏:「Roomba Mini」は小さい。でもパワフルです。私たちは消費者にトレードオフを求めません。ロボット掃除機を買う理由の中心は“掃除力”です。
でも、私たちは消費者の家に迎え入れられる存在でもあります。消費者は、自分の家に置く製品が“自分らしさ”を反映していてほしいと思うはず。
これはテクノロジー家電ですが、家は生活の場です。だから機能だけではなく、ライフスタイルにもフィットするべき。Roomba Mini」はまさに“ライフスタイルプロダクト”としての意図があります。
日本市場への最適化:「SAKURAピンク」が示すライフスタイルへの適合
「RoombaMini」のエントリー層への訴求力を決定づけているのが、その絶妙なカラーリングだ。日本向けに展開される「WAKABA(若葉・グリーン)」「SAKURA(桜・ピンク)」は、単なるカラーバリエーションの域を超えた、ブランドの意思表示である。
「Roomba Mini」の特徴として、カラー展開が非常に象徴的だと思います。黒や白だけでなく、「WAKABA(若葉・グリーン)」「SAKURA(桜・ピンク)」という日本らしいカラーを採用しています。
どういうプロセスで決定し、どんな狙いがありましたか?また、日本法人の新社長・山田毅さんとはどんなコミュニケーションをされましたか?
アテナ氏:本当はもっと多くの色を出したい気持ちもありました。ですが、日本チームと密接に協力して、消費者の声を聞くだけでなく、日本の消費者テストも行いました。その結果、まず最初に出すべき“カラフルな2色”として、この2色が最も支持されたのです。
「Roomba Mini」は日本向けに最適化した製品です。山田さん(Takeshi)とは非常に近い距離で一緒に仕事をしていますし、日本のマーケティングチームは消費者の「目」と「耳」であり、推進力です。世界クラスだと思っています。

アテナさんご自身が4色の中で家で使うならどれを選びますか?
アテナ氏:もし最初に見たのが「SAKURA(桜・ピンク)」なら、私は即買いします。私は特別ピンクが好きというわけではないのに、あれはユニークで、違っていて、予想外で、家電であのピンクを見たことがありません。だからすぐ買います。
次は「WAKABA(若葉・グリーン)」です。自分の家の雰囲気やスタイルに合う。枕カバーやクッションとも合うので、次に選ぶならそれです。
従来のルンバは高性能家電としての印象が強かったですが、「Roomba Mini」は日常に溶け込むプロダクトに見えました。これは今後のアイロボット/ルンバブランドの進化のサインでしょうか?
アテナ氏:私たちはこれからも常に“プレミアム・パフォーマンス”のブランドです。品質と高性能は絶対に守ります。ただ同時に、消費者のライフスタイルにフィットするべきです。
ルンバは家に迎え入れられ、信頼され、家族の一員のように扱われる存在でもあります。だからもっと“ライフスタイルフレンドリー”になります。それが成長の方法です。
5年以内に日本のすべての家庭にルンバを届ける。そのためにやります。「どちらか」ではなく「両方」です。高性能は土台で、ライフスタイル適合はその上に積み上げる進化です。
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