VAGUE(ヴァーグ)

「えっ…!」“ミドル脂臭”まで家電が面倒を見る時代。――除湿機が「梅雨家電」を卒業した日

外に干せない時代が、除湿機を「通年家電」に変えます

 日本で除湿機というと、これまで梅雨の時期だけ使う家電というイメージが強くありました。実際、家電量販店でも販売のピークは梅雨前に集中し、典型的な季節商品として扱われてきました。

 しかし現在、その前提は静かに崩れ始めています。最大の理由は、環境の変化です。近年、日本は地球温暖化の影響もあり、高温多湿の傾向がさらに強まっています。

 さらに生活環境も変わりました。都市部ではマンションの管理規約などにより、ベランダでの洗濯物の外干しが制限されるケースが増えています。加えて花粉、PM2.5、黄砂といった大気環境の問題もあり、「外に干したくない」という家庭も確実に増えています。

 つまり、洗濯物を外に干さない理由は一つではありません。気候変動、住宅環境、大気環境。複数の外部要因が重なり、部屋干しは特別な行為ではなく日常の選択肢になりつつあるのです。

 こうした状況を踏まえると、除湿機を「梅雨だけの家電」と捉えるのは、もはや現実に合いません。むしろ湿度をコントロールする生活インフラとして、通年で使う家電へと役割が変わり始めています。

除湿器は全国の約1/4程度の家で使われている。沖縄、九州南部、北陸、東北や北海道などの高温・多湿・寒冷で雪の多い地域で所有率が高い傾向にある
除湿器は全国の約1/4程度の家で使われている。沖縄、九州南部、北陸、東北や北海道などの高温・多湿・寒冷で雪の多い地域で所有率が高い傾向にある

シャープが狙う「除湿機=365日家電」という市場

 こうした環境変化を背景に、シャープは除湿機を季節商品から通年商品へ転換する戦略を掲げています。今回発表された衣類乾燥除湿機「CV-UH160」は、その象徴的な製品と言えます。

 同社が打ち出したコンセプトは明確です。除湿機を365日使う家電にすることです。そのための鍵となるのが、衣類乾燥機能の強化です。

 新製品では、コンプレッサー方式とデシカント方式を組み合わせたオールシーズン・ハイブリッド方式を採用し、低温環境でも効率よく乾燥できる仕組みを採用しています。

 従来のコンプレッサー方式の除湿機は冬場の乾燥が苦手とされてきましたが、この方式ではその弱点を補うことができます。衣類約2kgを梅雨時は最短約54分、冬季でも最短約70分で乾燥できる性能は、冬の部屋干しでも十分実用的なレベルです。

 つまりシャープが狙っているのは、「梅雨に使う家電」ではなく、衣類乾燥を軸にした通年稼働の生活家電です。

シャープの衣類乾燥除湿機は、コンプレッサー方式とデシカント方式を組み合わせたオールシーズン・ハイブリッド方式を採用。冬の部屋干しでも効率よく乾燥できるのが特徴だ
シャープの衣類乾燥除湿機は、コンプレッサー方式とデシカント方式を組み合わせたオールシーズン・ハイブリッド方式を採用。冬の部屋干しでも効率よく乾燥できるのが特徴だ

家電が「ミドル世代のニオイ問題」に踏み込んできました

 今回の発表で興味深かったのは、衣類乾燥だけではありません。シャープは部屋干しの課題を「乾かすこと」だけではなく、ニオイまで含めて捉えています。

 新製品では同社の空気技術である「プラズマクラスター」によって、部屋干し臭の消臭や、衣類に付着した菌を除菌する機能が搭載されています。さらに今回、評価対象として取り上げられていたのがミドル脂臭です。

 これは30代半ば〜50代半ばの男性に多い体臭の一種で、枕や衣類などの布製品に付着しやすいことで知られています。展示では、衣類だけでなく枕などのニオイケアにも効果があるというデモが行われていました。

 ここで興味深いのは、家電メーカーがニオイの問題をより生活実感に近い形で捉え始めている点です。これまで除湿機は、湿度を下げる家電でした。しかし実際の生活者の悩みは、湿度だけではありません。

 部屋干しの不快感の多くは、乾きにくさとニオイの組み合わせによって生まれます。つまり家電は今、単に空気を制御する存在ではなく、生活臭ストレスそのものを減らす装置へと進化しつつあるのです。

30代半ば〜50代半ばの男性に多い「ミドル脂臭」への対応もアピール。枕など布製品のニオイケアにも活用できるという
30代半ば〜50代半ばの男性に多い「ミドル脂臭」への対応もアピール。枕など布製品のニオイケアにも活用できるという

日本の除湿機市場は、まだ成長途中にあります

 今回の発表会では、日本市場だけでなく海外市場についての話も多く語られていました。特に興味深いのが台湾市場です。

 台湾は年間を通じて湿度が高く、除湿機は家庭の必需家電として広く普及しています。リビング用、寝室用と複数台を使い分ける家庭も珍しくありません。つまり台湾では、除湿機はすでに生活インフラなのです。

 一方、日本の除湿機普及率は約25%程度とされており、空気清浄機の普及率の半分ほどにとどまります。言い換えれば、日本の除湿機市場はまだ大きな伸び代を持っているということです。

 シャープはこうした市場の可能性を見据え、除湿機事業を拡大する方針を掲げています。具体的には、2027年度に100億円規模の事業へと成長させるという数値目標を示しました。

 この数字は、単なる新製品だけでは達成できません。除湿機の役割そのものを変える必要があります。つまり梅雨家電 → 通年家電という市場構造の転換です。

台湾など湿度の高い地域では、除湿機はすでに生活インフラとして普及。ベトナムも新興市場として急拡大中とのこと。日本市場にもまだ大きな成長余地があると見られている
台湾など湿度の高い地域では、除湿機はすでに生活インフラとして普及。ベトナムも新興市場として急拡大中とのこと。日本市場にもまだ大きな成長余地があると見られている

湿度管理は「住宅資産」を守る話でもあります

 湿度の問題は、実は衣類乾燥だけにとどまりません。近年、住宅業界では結露による住宅劣化が改めて注目されています。特に猛暑によって建物内外の温度差が拡大すると、真夏でも外壁の室内側(壁の内部)で結露が発生するケースがあります。いわゆる夏型結露です。

 壁内部に湿気がたまり続けると、カビの繁殖を招く可能性があります。こうした状態が長期間続けば、建材の劣化を引き起こすリスクも否定できません。

 住宅は多くの家庭にとって最大の資産です。とくに30代〜50代にとっては、住宅ローンを抱えながら資産形成を考える世代でもあります。

 そう考えると、湿度管理は単なる快適性の問題ではありません。住宅を長く良い状態で保つための環境管理という意味も持ち始めているのです。

家電は「生活課題」から進化します

 家電市場は成熟したと言われて久しいです。しかし実際には、生活課題が明確になると市場は再び成長します。空気清浄機がその典型です。

 かつてはニッチな家電でしたが、花粉症やPM2.5の問題を背景に、一気に普及しました。除湿機も同じ道を辿る可能性があります。部屋干しの常態化、住宅の高気密化、そして気候変動による湿度問題。

 これらの要素が重なれば、除湿機は「あると便利な家電」から「生活に必要な家電」へと変わります。

シャープの空気清浄機はセンサーに依存することなく目標温度付近で、温度を自ら制御するPTCヒーターを採用する
シャープの空気清浄機はセンサーに依存することなく目標温度付近で、温度を自ら制御するPTCヒーターを採用する

 今回のシャープの新製品は、そうした変化の入り口にある製品と言えるでしょう。家電の進化は、技術だけで起きるわけではありません。社会環境、生活スタイル、そして人々の価値観。その三つが重なったとき、家電市場は新しいフェーズに入ります。

 除湿機が日本中で「365日使う家電」として再定義される日は、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。

製品概要
シャープ 衣類乾燥除湿機「CV-UH160」
・除湿方式:オールシーズン・ハイブリッド方式(コンプレッサー方式+デシカント方式)
・最大除湿能力(60Hz)16L/日
・除湿可能面積(50Hz/60Hz)木造16/19畳 鉄筋32/38畳
・衣類乾燥時間(60Hz)(約2kg)梅雨時(室温20度、湿度70%)約54分
冬季(室温10度、湿度70%)約70分
・サイズ:幅365×奥行245×高さ660mm
・重量:約16.2kg
・価格:オープン価格(実勢価格:8万5千円前後)

Gallery 【画像】どんな用途が? 365日使う除湿機を画像で見る(16枚)
「カチッ」と日常をオフに。至福の時を刻む、マインドフルネス
滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

VAGUEからのオススメ

“時を愉しむ”という究極の贅沢――カンパノラ「星響」と巡る、足利・静寂とウェルネスの旅【PR】

“時を愉しむ”という究極の贅沢――カンパノラ「星響」と巡る、足利・静寂とウェルネスの旅【PR】

RECOMMEND