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待望のスマートバンド「wena」が復活! 事業責任者が語る想いと、現代人に寄り添う“本気のウェルネス”とは【家電で読み解く新時代|Case.39】

ソニーの中で生まれ、外に出て生き延びたプロダクト

 ソニー発の異色プロダクトとして、腕時計ファンとガジェット好きの両方から支持を集めてきた「wena」。その系譜は一度、事業として区切りを迎えた。だが、そこで終わらなかった。

 開発責任者だった對馬哲平氏が特許や商標を引き継ぎ、新会社augment AIを立ち上げ、プロダクトを次の10年へ連れ出したのだ。

 新たな「wena X」は、単なる後継機ではない。腕時計とスマートバンドを行き来する“2way”構造、独自OSによる世界最小サイズ、そして睡眠・運動機能の大幅強化まで含めて、これまでのwenaが抱えていた課題に真正面から答えた1台である。

 正式名称は「wena X」、腕時計スタイルとスマートバンドスタイルをワンタッチで切り替えられる第4世代モデルとして位置づけられている。

スマートバンド
スマートバンド

製品概要
「wena X(ウェナ クロス)」
クラウドファンディング価格(税込): 4万6800円〜34万9800円(GREENFUNDING)
サイズ:約W21.8×D12.7×H44.2mm
ディスプレイ:1.53インチ 曲面AMOLED
主素材:SUS316Lステンレス(DLCコーティング)
センサ:6軸 加速度/角速度センサ
心拍センサ(3波長,受光面積3倍)
近赤外線(IR)センサ
環境光センサ
OS:独自OS「wena OS」(RTOSベース)
連携:Appleヘルスケア/Googleヘルスコネクト
データ管理:国内サーバー保管・自社管理

 まず印象的だったのは、スピンアウトの経緯を語る對馬氏の言葉だった。

「ソニーから特許や商標を継承して、開発チームがスピンアウトする形になりました。会社としての設立は去年の7月です。ソニーとしてはwena 3までが商品としての区切りになりますが、それ以降は新会社の商品になります」

augment AI CEOの對馬哲平氏。ソニーでwenaシリーズの事業を率いた後、特許や商標を引き継ぎスピンアウト。新会社として第4世代「wena X」の開発を進めた
augment AI CEOの對馬哲平氏。ソニーでwenaシリーズの事業を率いた後、特許や商標を引き継ぎスピンアウト。新会社として第4世代「wena X」の開発を進めた

 一般的に、大企業からの事業分離は複雑な事情を伴うことも多い。しかし對馬氏は、今回の経緯を“円満だった”と語る。

「むしろ応援しているという言葉もいただきました。会社として事業を続けることはできなかったけれど、個人として挑戦するならできる限りの応援はする、と」

 この言葉には、ソニーという企業のDNAも感じる。社内で続けられない挑戦があるなら、外で続けてもいい。そうした文化がなければ、こうしたスピンアウトは成立しないだろう。では、なぜそこまでしてwenaを続けようと思ったのか。

「やっぱり諦めきれなかったんです。10年間やってきた事業で、自分にとっては子どものような存在でした」

 さらに背中を押したのはユーザーの声だった。

「wena 3のサポート終了を発表したあと、SNSや問い合わせフォームに『続けてほしい』『後継機はないのか』という声をたくさんいただいたんです。それを見ていると、やっぱりやめるわけにはいかないなと思いました」

 既存事業を引き継ぐスタートアップは、ゼロからの起業とはまた違う難しさがある。期待値は高く、比較対象もはっきりしている。しかもハードウェアだ。それでも對馬氏は言う。

「借金も含めて人生をかけることになります。でも、それでもやってみようと思いました」

第4世代は“後継機”ではない。思想そのもののアップデートだ

 wena Xを触ってまず感じるのは、これが単なる「wena 3の続き」ではないということだ。確かに文脈は地続きだ。だが、今回はコンセプトの芯が一段深いところへ進んでいる。

 従来のwenaは、「腕時計をスマートウォッチにする」製品だった。これは今見ても非常に美しい発想だ。腕時計の顔である文字盤を残し、スマート機能をバンド側に委ねる。

 だからこそ、時計好きに受け入れられた。実際、wenaの思想は初代の頃から「アナログ時計としての美しさ」と「スマートウォッチの利便性」の両立にあった。筆者もその思想に共感し、wena 3を実際に購入、ユーザーであった。

 ただし、その思想には弱点もあった。腕時計をつけたまま寝る人は少ないし、ランニングやトレーニング時に機械式やアナログ時計を優先する人も多くはない。

 つまり、wenaの美点はそのまま、睡眠と運動という現代スマートウォッチの主要ユースケースとは少し距離があったのだ。

「腕時計スタイルとスマートバンドスタイルを切り替えられるようにしたんです」

 對馬氏はそう言って、新しい構造を見せてくれた。外出時は腕時計。睡眠や運動のときはスマートバンド。

腕時計スタイルとスマートバンドスタイルをワンタッチで切り替え可能。生活シーンに合わせて使い分けられる2way構造が最大の特徴だ。
腕時計スタイルとスマートバンドスタイルをワンタッチで切り替え可能。生活シーンに合わせて使い分けられる2way構造が最大の特徴だ。

「腕時計をつけたまま寝る人はあまりいないですし、ランニングのときも軽いデバイスの方がいいですよね。そこで生活シーンに合わせて使い分けられるようにしました」

 レバーを操作すると、バンド部分がワンタッチで外れる。

「2wayのスマートウォッチですね。こういう構造はあまりないと思います」

 wena Xは生活のシーンに合わせて姿を変える。便利さを押し付けるのではなく、暮らしの文法にテクノロジーを合わせる。この発想こそ、wenaの本質なのだろう。

小型化と機能向上を両立した設計

 wena Xのもうひとつの特徴は、小型化への徹底したこだわりだ。「世界最小サイズ」をうたうが、その背景には単なる小型化競争ではない思想がある。

 腕時計として自然に見えること。その装着感を邪魔しないこと。そのためにモジュールを小さくし続けてきた。その蓄積の上に、今回の第4世代がある。

世界最小サイズを実現するため、筐体そのものをアンテナとして活用。さらに曲面ディスプレイや曲面バッテリーを採用するなど、内部構造にも工夫が凝らされている。
世界最小サイズを実現するため、筐体そのものをアンテナとして活用。さらに曲面ディスプレイや曲面バッテリーを採用するなど、内部構造にも工夫が凝らされている。

「まずアンテナを筐体と共通化しています。普通はアンテナ部品が必要なんですが、外装の金属部分をアンテナとして使っています」

 さらに内部構造にも工夫がある。

「ディスプレイだけでなくバッテリーもカーブしています。内部の基板配置も工夫して、カーブに合わせて立体的に部品を配置しています」

 こうした設計によって、wena Xはwena 3より全長を約8.5%小型化しながら、1.53インチのフルカラー曲面AMOLEDディスプレイを搭載。表示領域は72%向上し、精細度も118%向上している。寸法は44.2×21.8×12.7mm、最薄部6.67mmだ。

 もうひとつ面白いのは、バックルと生体センサーの両立だ。

「普通の腕時計はバックル部分があるので、心拍センサーを配置しにくいんです。でも今回はバックルに穴を開けて、そこにセンサーを通す構造にしました」

背面のバックルリンクに穴を開け、そこに心拍センサーを貫通配置することで、長手寸法の短縮と生体計測を両立した。
背面のバックルリンクに穴を開け、そこに心拍センサーを貫通配置することで、長手寸法の短縮と生体計測を両立した。

 さらに素材も抜かりない。SUS316LにDLCコーティング。表面硬度は従来比で5倍以上向上したとされる。

 高級時計でも使われる素材と仕上げを、スマートウォッチの文脈に持ち込む。

 この選択もまた、wena Xが普通のウェアラブルではなく、あくまで“腕時計文化の延長線上にある生体センシングデバイス”であることを物語る。

独自のwena OSに“睡眠と運動”を手に入れた

 今回、もうひとつ見逃せないのがwena OSの存在だ。汎用OSを載せて終わりではなく、wena X専用のRTOSベース独自OSを作り込んだ。

 複数モデルでOSを共通化せず、wena Xだけに特化させることで、極めて細かいスリープ制御を行い、他社の1/3~半分程度のバッテリー容量で1週間の電池持ちを実現した。

wena X専用のRTOSベース独自OS「wena OS」を搭載。80mAhの小型バッテリーながら、最大約1週間の駆動を目指した省電力設計となっている。
wena X専用のRTOSベース独自OS「wena OS」を搭載。80mAhの小型バッテリーながら、最大約1週間の駆動を目指した省電力設計となっている。

「デバイスを1つに特化しているので、余計な機能を入れる必要がないんです。その分、効率を上げることができます。スマートウォッチは通常300mAhくらいのバッテリーを積むものが多いですが、wena Xは80mAhしかありません。それでも1週間駆動を目標にしています」

 そして第4世代を“本物の進化”にしているのが、睡眠と運動機能の強化だ。ここは今回のwena Xを評価する上で欠かせないポイントである。

 まず睡眠について、對馬氏はこう説明する。

「特に力を入れたのが睡眠解析です。東京大学発のスリープテックスタートアップACCELStarsと資本業務提携して、AIによる睡眠解析を共同開発しました」

睡眠解析は東京大学発のスリープテック企業ACCELStarsと共同開発。AIを用いた独自アルゴリズムで睡眠状態を推定する。
睡眠解析は東京大学発のスリープテック企業ACCELStarsと共同開発。AIを用いた独自アルゴリズムで睡眠状態を推定する。

 医科学研究に基づいたアルゴリズムをベースに、wena専用に最適化した睡眠解析を行うという。

「医療機器ではありませんが、ウェルネス領域のプロダクトとして、かなり本気で作り込んでいます」

 運動機能も大きく進化している。

エクササイズは130種類以上に対応。心拍センサーや6軸センサーの強化により、トレーニング効果や回復度などを可視化できるようになった。
エクササイズは130種類以上に対応。心拍センサーや6軸センサーの強化により、トレーニング効果や回復度などを可視化できるようになった。

「エクササイズは130種類以上に対応しています。トレーニング効果や負荷、筋肉の回復度、フィットネス年齢なども可視化できるようにしました」

 センサー面でも強化が図られている。搭載センサーは6軸化され、心拍センサーも3波長・受光面積3倍へと進化。測定精度も約86.8%から約93.3%まで向上したという。さらに、データの扱いにも配慮している。

「日本発のスマートウォッチなので、ヘルスデータは国内保管で自社管理にしています。AppleヘルスケアやGoogleヘルスコネクトとの連携も予定しています」

 便利さが広がるほど、データがどこにあり、誰が管理するのかは重要になる。その点でも、wena Xは日本メーカーらしい慎重さと誠実さを残している。

 wena 3の時点では「時計文化に寄ったスマートウォッチ」だったものが、wena Xではようやく「現代のヘルスウェアラブルとしても戦える腕時計」へと進化したと言えるだろう。

10周年記念モデルが示す、“時計好き”への本気

 取材の最後に、對馬氏はこう語った。

「wenaは10年前、クラウドファンディングから始まりました。なので今回も、新しいスタートとしてもう一度クラウドファンディングを行います」

10周年記念モデル「wena X - 10th Special Edition -」。スイス製機械式ムーブメントとJean Rousseauのレザーバンドを組み合わせた特別仕様だ。こちらもクラウドファンディングで400台限定で発売される
10周年記念モデル「wena X – 10th Special Edition -」。スイス製機械式ムーブメントとJean Rousseauのレザーバンドを組み合わせた特別仕様だ。こちらもクラウドファンディングで400台限定で発売される

 さらに今回、wena Xは10周年記念モデルまで用意した。フルスケルトン仕様の「wena X – 10th Special Edition -」である。

 ムーブメントにはスイス製機械式SELLITA SW200-2 S b Power80+を採用し、約65時間のパワーリザーブを確保。

 バンドにはフランスの老舗メゾン、Jean Rousseauのレザーを使う。ここまで来ると、もはやおまけの記念モデルではない。時計好きへのラブレターだ。

 wenaは終わらなかった。それどころか、第4世代でようやく自分の本当の姿にたどり着いたのかもしれない。腕時計をスマートウォッチにする、から、腕時計文化とスマートウォッチ文化を自由に行き来する、へ。

 そしてその背景には、事業を諦めきれなかった開発責任者の覚悟がある。数字や機能だけでは説明できない、プロダクトへの執着と愛着。そういうものが最後に道具の魅力を決める時代に、wena Xはきわめて誠実なプロダクトだと思う。

 家電もガジェットも、突き詰めれば人の暮らしに寄り添う道具である。だからこそ、生活の文脈を理解し、文化への敬意を失わないプロダクトは強い。wena Xは、まさにそのことを教えてくれる1本だった。

Gallery 【画像】時計バンドがスマートウォッチになる「wena X」を画像で見る(35枚)
「カチッ」と日常をオフに。至福の時を刻む、マインドフルネス
滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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