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モバイルバッテリーは“安さ”で選ぶと危ない! 航空機内での持ち込みが厳しくなったいま 「発火するもの・しないもの」を見抜くための最低限の視点とは

そもそも「発火しないもの」を見分けることはできるのか

 スマートフォンを取り出すより先に、充電残量を気にしてしまう日がある。移動が続く日、出張の日、子どもの行事を見に行く週末、あるいは旅先で地図も決済もカメラもスマホ1台に預けているとき。いまやモバイルバッテリーは、単なる周辺機器ではなく、現代の外出を支える“保険”のような存在になった。

 だが、その安心を担うはずの製品が、ときに不安の火種になる。

 最初に結論を言ってしまえば、見た目だけで「これは発火する」「これは絶対にしない」と断定することはできない。モバイルバッテリーの多くはリチウムイオン電池を使っており、その性質上、内部で異常が起これば発熱や発火のリスクはゼロにはならない。

 消費者庁も、異常のない製品であっても、衝撃や圧力、高温放置、水ぬれ、コネクタ破損などが事故の引き金になると注意喚起している。

モバイルバッテリーはちゃんと知識を持って選びたい
モバイルバッテリーはちゃんと知識を持って選びたい

最低限の分かれ道は「PSEマーク」と「事業者の実在感」

 では何を見るべきか。ここで大事なのは、“発火しないもの”を当てにいく発想から、“危険度の高いものを外していく”発想に切り替えることだ。家電選びの世界では、性能比較より前に、まず市場から地雷を外す視点が必要になることがある。モバイルバッテリーは、まさにその典型だ。

 いま日本でモバイルバッテリーを選ぶうえで、まず見るべきなのがPSEマークである。経済産業省は、規制対象となるモバイルバッテリーについて、PSEマーク表示のない製品は販売できないと案内している。

 加えて、届出事業者名、定格電圧、定格容量の表示も必要だ。つまり、PSEマークは単なる飾りではなく、「最低限の法規制を通っている」ことを示す入り口なのである。

 もっとも、ここで誤解してはいけない。PSEが付いていれば無条件で安心、という話でもない。実際には、リコール対象になったモバイルバッテリーも存在する。消費者庁のリコール情報サイトでも、発火のおそれを理由に回収・返金対応となった事例が公開されている。

 つまり、PSEは「絶対安全」の証明ではなく、「確認すべきスタートライン」に過ぎない。

 そのうえで、もうひとつ重要なのが、売っている相手の顔が見えるかどうかだ。メーカー名、輸入事業者名、問い合わせ先、保証窓口が明確か。企業として継続してサポートする意思があるか。

 これは家電スペシャリストとしてだけでなく、事業を営む立場から見ても極めて重要である。製品安全は、モノ単体の品質だけでは完結しない。何か起きたときに追跡できるか、回収できるか、責任を持てるかという“事業の設計”まで含めて安全だからだ。

筆者が実際に使用しているモバイルバッテリーにはPSEマークが刻印されている
筆者が実際に使用しているモバイルバッテリーにはPSEマークが刻印されている

「安すぎる」は魅力ではなく、情報不足のサインかもしれない

 市場を見ていると、モバイルバッテリーは非常に価格競争が激しいカテゴリーだ。容量が大きく、急速充電対応で、ケーブルまで付いていて、それでいて妙に安い。生活者から見れば魅力的に映るが、家電の世界では、こういう商品ほど「何を削ってその価格を実現したのか」を疑うべきである。

 NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)は2024年、非純正バッテリーによる事故について、「低価格・高リスク」と表現し、2014年から2023年までの10年間で235件の事故が通知され、そのほとんどが火災事故に発展し、中には建物が全焼したケースもあったと公表した。

 これはモバイルバッテリーだけの統計ではないが、リチウムイオン電池搭載製品全体に共通する現実として重い。価格だけで選ぶことが、結果的に最も高くつくことがある。

 ここには、いまの消費社会の縮図もある。ECでは比較が容易になり、最安値にすぐ手が届く一方で、生活者は“見えないコスト”を見落としやすくなった。

 安全対策、セル品質、保護回路、検査体制、回収体制、問い合わせ対応。これらは商品画像からは見えにくい。しかし、本来はそうした部分にこそコストがかかっている。

NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)も異常発生時の対処方法についてYouTubeで注意喚起している
NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)も異常発生時の対処方法についてYouTubeで注意喚起している

見分け方は「買う前」より「使ってから」のほうが重要になる

 モバイルバッテリーの怖さは、購入時に問題が見えなくても、使用中にリスクが顕在化する点にある。消費者庁は、膨らんでいる、熱くなっている、変な臭いがするなど、いつもと違う異常を感じたら使用を中止するよう呼びかけている。

 高温環境への放置、強い衝撃や圧力、可燃物の近くでの充電も避けるべき行為として明示されている。

 特に夏場は要注意だ。NITEは、真夏の車内にモバイルバッテリーを置いたままにしたことで発火する事故を紹介し、炎天下の自動車内放置に注意を促している。

 スマホもそうだが、モバイルバッテリーもまた“持ち歩く精密な蓄電池”であることを忘れてはいけない。バッグに放り込めるサイズ感が、つい扱いを雑にさせる。しかし小さいからこそ、危険まで小さいわけではない。

 大人の持ち物は、機能だけでなく扱い方まで含めて美意識が出る。床に落としたまま使い続ける、真夏の車内に放置する、寝ている間に布団のそばで充電する。そうした“ちょっとした雑さ”が、生活の質を上げる道具を一転してリスクに変えてしまう。

ケースが不自然に膨らんできたモバイルバッテリー
ケースが不自然に膨らんできたモバイルバッテリー

では、何を基準に選べばいいのか

 実践的には、購入時に以下の5つのポイントを意識すること。

①PSEマークがあること
②事業者名と連絡先が明確であること
③相場より異常に安すぎないこと
④リコール対象ではないこと
⑤使い始めてから膨張・異臭・異常発熱がないこと

 絶対ではないが、この5点を外さないだけで、危険な製品に当たる可能性はかなり減らせる。加えて言えば、信頼できる量販店や公式ストア、正規流通から買うことにも意味がある。

 価格だけ見ればECモールの最安値に惹かれるが、家電は“購入後”が長い。問い合わせ、保証、回収、交換。この導線がきちんとあるかどうかは、製品そのものと同じくらい重要だ。

モバイルバッテリーは、いまや「モノ選びの教養」を映す道具である

 かつてモバイルバッテリーは、スマホ時代の便利グッズだった。だがいまは違う。仕事も移動も遊びも、スマホの電源が切れれば止まってしまう生活の中で、モバイルバッテリーはインフラの一部になった。だからこそ、その選び方には、その人のリスク感度や生活の解像度が表れる。

 見た目がいい、軽い、薄い、安い。それらは確かに魅力だ。だが本当に成熟した選び方とは、その先を見ることだろう。この製品は、どこの誰が責任を持っているのか。異常が起きたときに止められる設計になっているのか。もし不具合が起きたとき、自分の暮らしを守れる導線があるのか。

モバイルバッテリーの相場観は容量や機能により10,000mAhクラスで2500円〜5000円前後
モバイルバッテリーの相場観は容量や機能により10,000mAhクラスで2500円〜5000円前後

 モバイルバッテリーの発火するものとしないものを分ける線は、実のところ製品そのものだけにあるのではない。選ぶ側が、どこまで情報を見ようとするか。その視線の有無が、最後は大きな差になる。

 便利さを買う時代は終わった。これからは、安心まで含めてモノを選ぶ時代である。

Gallery 【画像】大事になってからでは遅いよね... モバイルバッテリーの購入で気おつけるべきことを写真で見る(7枚)
「カチッ」と日常をオフに。至福の時を刻む、マインドフルネス
滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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