SFの名著『星を継ぐ者』をめくる腕元に――オメガ「グレーサイド オブ ザ ムーン」が呼び覚ます“人類と月のロマン”とは
現代のエンタメから受け継がれる「月の裏側」というミステリー
オメガの「スピードマスター」が、NASAの過酷なテストをクリアし、人類初の月面着陸に同行した「ムーンウォッチ」であることは、時計好きでなくとも知る有名な逸話だ。
しかし、その系譜において異彩を放つモデルがある。
――「ダークサイド オブ ザ ムーン(Dark Side of the Moon)」
この「月の裏側」という甘美で不穏な言葉を聞いて、多くの現代人がまず脳裏に浮かべるのは、映画『トランスフォーマー』シリーズのあの冒頭のシークエンスではないだろうか。
月の裏側に眠る未知のテクノロジーを巡る陰謀を描いた物語は、私たちの「見えない領域」への好奇心を大いに刺激した。
そして昨今、トランプ大統領によるUFO(UAP)情報の開示に向けた動きや、人類を再び月へと送る「アルテミス計画」の本格化など、私たちの視線は再び宇宙の深淵へと向けられている。
人類が地球という揺りかごを飛び出し、次なるステップへ進もうとする今、この時計が持つミステリアスな世界観は、かつてない現実味を帯びて迫ってくるのだ。いやほんと、毎日ワクワクが止まらない。

ガンダムの宇宙世紀にも息づく、正統なるSFの系譜
この時計を眺めているといつも、ひとつのフレーズを思い出す。
――『星を継ぐ者』。
この言葉にピンときたアニメファンも少なくないだろう。そう、あのロボットアニメの金字塔『機動戦士Zガンダム』の新訳劇場版三部作において、記念すべき第1部のサブタイトルとして掲げられたのが『星を継ぐ者』であった。
宇宙へと進出した人類(ニュータイプ)の可能性と、地球という重力に縛られた人類の相克を描いた名作に同名タイトルが冠されたことは、単なる偶然ではない。と思う。
この言葉の源流こそが、1977年にジェイムズ・P・ホーガンが発表した不朽のSF小説『星を継ぐ者』だ。
ネタバレを避けてその冒頭を語るなら、物語は月面ベースでひとつの「死体」が発見されるところから始まる。赤い宇宙服を着たその遺体(通称チャーリー)を調査した結果、驚くべき事実が判明する。
彼はなんと、「5万年以上前に死んだ地球人」だったのだ。
なぜ、人類の歴史が始まる遥か昔の月面に人間がいたのか。この“究極のミステリー”を解く鍵こそが、まさに「ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」に刻まれた、あの特徴的で過酷なクレーターの謎と深く結びついていく。

地球の盾となり、激しく傷ついた「見えない半分」の宿命
そもそも、月の「表側」と「裏側」は、全く異なる表情を持っている。
地球から決して見ることのできない裏側(ダークサイド)。この永遠のブラインドスポットこそが、ピンク・フロイドの伝説的名盤『狂気(The Dark Side of the Moon)』を筆頭に、古今東西のアートや文学、映画に無限のインスピレーションを与え、人々を惹きつける魔力の源泉となってきた。
しかし、アポロ計画によって人類が初めて目にしたその裏側は、私たちがいつも見上げる穏やかな「海」の広がる表側とは異なり、無数のクレーターが激しく重なり合う凄まじい損傷痕に覆われていた。
現代の天文学では「月が地球への隕石の身代わりになった」と説明されるこの非対称性。だが、ホーガンが『星を継ぐ者』で仕掛けたミステリーは、その科学的常識の遥か先を行く。
地球の歴史が始まる以前の遥かなる太古、この『見えない半分』で一体何が起きていたのか。チャーリーという死体が残した空白の5万年と、裏側の凄絶なクレーター群の謎が、小説のなかでパズルのピースのようにカチリと噛み合っていく。
そのあまりにも美しく、知的興奮に満ちた解決篇に辿り着いたとき、私たちは月という天体が出現した途方のない宿命に、ただただ息を呑むことになる。
最近、ちょうど10年ぶりくらいに読み返してみたが、やはり圧巻の内容。ここまで壮大なスペースオペラはそう体験できない。

漆黒からプラズマの「グレー」へ。コレクションの進化と審美眼
話を時計に戻そう。オメガは、この「月の諸相」を、ハイテクセラミックを駆使したプレミアムコレクションとして展開している。漆黒の「ダークサイド」から始まり、純白の「ホワイトサイド」など、セラミックの限界に挑み続けてきた系譜だ。
一連のコレクションにおいて、近年アップデートを遂げて大きな話題を呼んでいるのが、今回私が特に強い磁力を感じた「グレーサイド オブ ザ ムーン(Grey Side of the Moon)」である。
特筆すべきは、ケースに秘められたオメガの執念だ。白セラミックを約2万度もの高温プラズマで処理することにより、一切の金属を使わずに、金属のような深みと魔性的な美しさを湛えた「グレー(灰色)」へと昇華させている。
人知を超えた謎を秘める、あの荒涼たる月面の色を、時計素材の最高峰テクノロジーで表現する――まさに人類の叡智が生んだ、グレーセラミックの最高傑作と言える。
レーザーアブレーションが再現する、息を呑む月面の質感
この「グレーサイド オブ ザ ムーン」のスケルトンダイヤルは、まさに「月面」そのものの臨場感を、驚異的な精度で再現している。
文字盤やムーブメントに施されたのは、最新の「レーザーアブレーション技術」。
ブラックコーティングされた地板やブリッジに、月面のクレーターや山脈を緻密にエッチングしている。さらに秀逸なのは、ダイヤル(表側)からは「穏やかな表側の月面」が覗き、シースルーのケースバック(裏側)からは、かつて人類が誰も見たことのなかった「激しい裏側の月面」が描かれているという、あまりにも小憎いストーリー設計だ。
光の角度によって表情を変えるグレーのクレーターは、遥かなる太古に刻まれた宇宙の歴史をその身に直接宿しているかのよう。
まさに『星を継ぐ者』の舞台となる、荒涼とした凄絶極まるであろう大地を想起させる。
人類の叡智に宿る「神秘性」:マスター クロノメーターという回答
さらに、ダークサイド・ムーンが単なる「SFファン向けのキャラクターグッズ」に終わらないのは、オメガというブランドが持つ「圧倒的なリアリズム(実用性)」が担保されているからだ。
搭載される手巻きキャリバー(Cal.3869)は、スイス連邦計量・認定局(METAS)による厳しいテストをクリアした「コーアクシャル マスター クロノメーター」。1万5000ガウスという、現代のデジタル社会(スマートフォンやPCの磁気)をものともしない超高耐磁性能を誇り、日差0〜+5秒という驚異的な精度を維持する。
最先端のセラミックケース、堅牢な構造、そして極限の精度。
これは、宇宙飛行士たちが命を預けたスピードマスターの「タフネス」そのものの現代的進化であり、多忙を極めるビジネスパーソンにふさわしい、日常の究極のパートナーでもある。
しかし、なぜ私たちは、この極限の「実用スペック」のなかに、これほどまでにロマンチックな引力を感じるのだろうか。
それは、オメガの職人たちがこの時計に注ぎ込んだテクノロジーが、単なる機能の集積を超えて、人類が宇宙に対して抱いてきた「畏敬の念」──すなわち『星を継ぐ者』たちが追い求めた、人知を超えた「神秘性」そのものを、腕元にそっと封じ込めるための儀式のようであるからだ。

『星を継ぐ者』をめくる、腕元のパスポート
オメガの「グレーサイド オブ ザ ムーン」は、ただ時を刻む道具ではない。人類の叡智とロマンが凝縮された、いわば「腕元に携えた、時空を旅するためのパスポート」だ。
今夜はスマートフォンの通知をオフにして、グラスを傾けながら、かつて世界を熱狂させた『星を継ぐ者』を開いてみよう。
「彼らは、自分たちが何者であるかを知っている。そして彼らの祖先が、かつてあの夜空にさんざめく星たちのあいだを歩いたのだということも。……彼らはすべて、星を継ぐ者なのだ」
文字盤に刻まれたクレーターの陰影こそが、どんな饒舌な言葉よりも深く、人類の遥かなる旅路を案内してくれる。
腕元に浮かび上がる美しいクレーターに目を落とし、遥かなる月の裏側へと、思いを馳せてみてはいかがだろうか。
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