VAGUE(ヴァーグ)

「太陽のほうが狂っている」夏の旅情を奏でる、ボール ウォッチの“GMTウォッチ”と名著『八十日間世界一周』のカンケイとは

衝動の夏と、ジュール・ヴェルヌの壮大な世界

 深夜に突如飛び起き、「何かを成さねば!」という衝動に駆られることが、ある。しかし、大概は、そんな意気も霧散し、日常を漫然と過ごす。まあ、それでいい。

 とはいえ、強い日差しが照りつける夏には、やはり旅が似合う。

『海底二万里』――そう聞けば、往年の名作アニメ『ふしぎの海のナディア』のモチーフとなった潜水艦ノーチラス号や、怪人物ネモ船長の名を思い出す人も多いだろう。この不朽の名作を生み出したフランスSF文学の父、ジュール・ヴェルヌ。彼が1872年に発表したもう一つの金字塔こそが、『八十日間世界一周』である。

 物語の主人公、イギリス紳士フィリアス・フォッグは、時間に対して極限までの完璧さを求める男だ。毎朝8時25分に起床し、9時37分に髭剃り用の湯を受け取り、11時30分ちょうどに革靴の紐を締め直してロンドンの「改革クラブ」へと向かう。彼の生活には、1秒の曖昧さも許されない。

 劇中で、周囲から「まるで幾何学の図形が旅をしているようなものだ」と評された男である。

 そんな彼が、クラブの紳士たちと「80日間で世界を一周できるか」という2万ポンドの賭けをし、ロンドン・ヴィクトリア駅を飛び出すことから壮大な冒険が始まる。

『八十日間世界一周・上、下(ジュール・ヴェルヌ)』(光文社)
『八十日間世界一周・上、下(ジュール・ヴェルヌ)』(光文社)

列車事故の悲劇と「ボール・スタンダード」の誕生

 なぜ今回、この物語に合わせる時計としてボールウォッチを選んだのか。

 それは、このブランドの歴史そのものが、19世紀の「鉄道と時間」の過酷な交差点から生まれているからだ。

 1891年、アメリカ・オハイオ州キプトンで二列車の正面衝突事故が発生した。原因は、機関士の懐中時計がわずか「4分」遅れていたことだった。ほんの数分の誤差が、多くの尊い命を奪う惨事となったのだ。

 この事故調査を任された時計師ウェブスター・クレイ・ボールは、過酷な環境に耐えうる厳格な精度・耐久基準「ボール・スタンダード」を構築した。蒸気機関車の激しい振動や磁場に晒されても、決して狂わない時計――それこそがボールウォッチのルーツである。

 鉄道網と蒸気船の発達によって世界が一つの時間で繋がれようとしていた時代に書かれた物語と、列車事故の反省から生まれたタフな時計。要するに、これ以上ないほどウマが合うコンビが、時を超えて出会ってしまったというわけだ。

アメリカの時計史を大きく変えた、1891年4月19日にアメリカ・オハイオ州キプトンで起きた列車同士の正面衝突事故(提供:ボール ウォッチ)
アメリカの時計史を大きく変えた、1891年4月19日にアメリカ・オハイオ州キプトンで起きた列車同士の正面衝突事故(提供:ボール ウォッチ)

愛すべき「異端児」と、過酷な旅に耐えるモンスター規格

 物語が単なる冷徹なタイムアタックに終わらないのは、フォッグ氏が伴ったフランス人従者、ジャン・パスパルトゥーの存在があるからだ。

 元アクロバット芸人で消防士という異色の経歴を持つパスパルトゥーは、情に厚くおっちょこちょいな、愛すべきトラブルメーカー。靴を脱ぐルールを知らずにインドの寺院へ押し入って暴動を起こし、阿片窟で泥酔させられ、アメリカ大陸ではインディアンに拉致される……。正確無比なフォッグ氏が「精密な機械」であるなら、パスパルトゥーは「旅に血を通わせる、人間性そのもの」だ。

「本当の障害物とは、人が予想もしないものだ」

 劇中で語られるこの言葉の通り、予想外のアクシデントに次ぐアクシデント。屋根から飛び降り、暴徒と殴り合い、疾走する列車から客車を切り離すようなパスパルトゥーのハードアクションに同行できる腕時計とは何か。

 それこそが、「エンジニア III アウトライヤー」である。

「アウトライアー(Outlier)」とは、英語で「異端児」や「規格の外側」を意味する。フォッグ氏の異様な生活様式、パスパルトゥーの破天荒さ、そして既存のツールウォッチの常識を打ち破るボールウォッチの挑戦心を象徴するネーミングだ。

 本機は、耐食性と硬度に極めて優れ、高級時計でも限られたブランドしか使用しない最高級ステンレス鋼「904Lスチール」をケースとブレスレットに採用。さらにミューメタル製インナーケースによる80,000A/mの驚異的な耐磁性能と、5,000Gsの耐衝撃性能を備える。

 文字盤と針には、バッテリーも日光での充電も一切不要で暗闇で自発光し続ける29個の「自発光マイクロ・ガスライト」を装備。深夜の夜行列車や荒れ狂う船のデッキであっても、暗闇の中で瞬時に時刻を判別できる視認性を誇る。

BALL WATCH(ボールウォッチ) 「エンジニア III アウトライヤー(ターコイズダイヤル)」
BALL WATCH(ボールウォッチ) 「エンジニア III アウトライヤー(ターコイズダイヤル)」

「太陽のほうが狂っている」――時差を束ねる自社製GMT

 世界を東へ東へと急ぐ旅において、彼らの前に立ちはだかる最大の見えない壁――それこそが「時差(タイムゾーン)」だ。

 ロンドンを基点に経度を越えるたび、頭上の太陽の位置と、腕元の時計が示す「故郷の時間」はズレていく。パスパルトゥーは亡き父から受け継いだ大切な銀の懐中時計を持っていたが、故郷ロンドンの時間のまま一向に針を合わせようとしなかった。刑事のフィックスから太陽とのズレを指摘されても、彼はこう言い張る。

「この時計は1秒たりとも狂ったことがない! 太陽のほうが狂っているんだ!」

 この可愛らしくも頑なな態度こそ、旅人が直面する「故郷の時間」と「現在地の時間」の葛藤そのものだろう。

 この時差の問題を、現代の腕元で完璧に解決するのが、本機に搭載されたマニュファクチュールムーブメント「Cal. RRM7337-C」である。

 スイス公認クロノメーター(COSC)を取得した高精度を誇り、リューズを1段引くだけで、秒針を止めることなく短針だけを1時間単位で前後に独立可動させられる「リアル(フライヤー型)GMT機能」を搭載。日付表示も連動するため、国境やタイムゾーンを跨いだ際にもローカルタイムへ即座にアジャストできる。

 さらに、文字盤外周のインナーリングと両方向回転ベゼルの2箇所に24時間目盛りが配されているため、最大で「3つのタイムゾーン」を同時に読み取ることが可能だ。

 ロンドンのホームタイムをベゼルで維持しつつ、パスパルトゥーが飛び込んだ未知の都市の時間を瞬時に把握する――まさに世界を渡り歩く冒険者のための「知的な計器」なのである。

暗闇でも高い視認性を誇る自然発光するマイクロ・ガスライト
暗闇でも高い視認性を誇る自然発光するマイクロ・ガスライト

夏の空と海、そして情熱を宿す「ターコイズ」

 そして何よりも美しいのが、ドーム型のボックスサファイアクリスタル風防越しに覗く「ターコイズダイヤル」の存在感だ。

『八十日間世界一周』の魅力は、イギリスの灰色の霧を抜け出し、地中海の眩しい青、紅海の深遠な紺碧、太平洋を渡る爽快な潮風といった、世界各国の「水と空の色」に出会う旅でもある。

 黒や白といった無彩色のツールウォッチが多い本格GMTの中で、この限定モデルが魅せるターコイズブルーは、まさに夏のアドベンチャーへ向かう高揚感そのもの。ソリッドな両方向回転スチールベゼルの精悍さと、鮮やかなターコイズが見事なコントラストを描く。

 それはどこか、冷静沈着なフォッグ氏の隣で、熱い情熱とユーモアを撒き散らしながら旅を彩るパスパルトゥーの鮮やかな存在感にも重なって見えないだろうか。

現代の冒険者たちへ

 80,000A/mの耐磁性能に、5,000Gsの耐衝撃性能。そして暗闇で自発光するマイクロ・ガスライトと、3つのタイムゾーンを同時に捉えるフライヤー型GMT。これだけの怪物スペックを備えた「エンジニア III アウトライヤー」を腕に巻けば、いつどんな予期せぬアクシデントに巻き込まれても準備は万全だ。

 深夜に突如飛び起き、「何かを成さねば!」と猛烈な衝動に駆られて家を飛び出したとしても、この時計があれば世界一周だって走破できる気がしてくる。

 まあ、実際に私が衝動的に新幹線に飛び乗って向かう先といえば、せいぜい熱海の温泉か、仙台で餃子の食べ歩き程度……。インディアンに襲われることもなければ、阿片窟で眠らされることも、もちろん、ない。あるわけがない。

 それでも、腕元の鮮やかなターコイズブルーを眺めていると、まるで80日間の大冒険を成し遂げたかのような壮大な達成感に浸れるのだから、今日もまたクーラーの効いた部屋で惰眠を貪れるというものだ。

【紹介プロダクト】
BALL WATCH(ボールウォッチ)
「エンジニア III アウトライヤー(ターコイズダイヤル)」
品番: DG9000B-S4CJ-TQ
ムーブメント:自動巻き(自社製 Cal. RRM7337-C、スイス COSC 認定クロノメーター)
機能:時・分・秒・日付表示、時針独立可動型 GMT 機能(最大3タイムゾーン表示)
ケース・ブレス素材:904L ステンレススチール
ケース径・厚さ:40.0mm/厚さ 13.8mm
風防:ドーム型ボックスサファイアクリスタル
夜光:針・文字盤に29個の自発光マイクロ・ガスライト
性能:200m 防水、耐磁性 80,000A/m(ミューメタル製インナーケース)、耐衝撃性 5,000Gs
価格: ¥594,000(税込)/日本限定モデル

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三宅隆
三宅隆
VAGUE編集長
1978年生まれ。モノ・ライフスタイル誌等の編集部を経てWebメディア『VAGUE』編集長に就任。スイスで行われる世界最大の時計見本市「Watches & Wonders Geneva」を取材するなど、腕時計からモビリティ、最新家電、アウトドアまで大人の審美眼にかなうモノを幅広く追究。自らもキックボクシング歴17年の非常勤インストラクター(KNOCK OUT GYM)として活動し、ビジネスパーソンにウェルネスを提唱。「自分らしく輝く」ために自らをデザインする前向きな生き方の基準として、心身を整える実践者の視点を交え、自分らしい豊かさへの指針を発信中。

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