VAGUE(ヴァーグ)

見た目はほぼ同じ。だが、味は別物――バルミューダの新「BALMUDA The Toaster」に詰まった“11年分の回り道”

「変わっていない」と思ったのは、食べるまででした

 「フルリニューアル」と聞いて新型を見たとき、正直、それほど変わっていないのではないかと思いました。小窓のある扉に左右のダイヤル。窓まわりのダブルラインなど細部の変更はありますが、キッチンに置かれた姿は、見慣れたBALMUDA The Toasterです。

 ところが、会場で焼き上げたパンや料理を口にすると、その印象は一変しました。外観から予想した変化と、食べて感じる変化の大きさが釣り合いません。「同じような形だから、中身も大差ない」と考えると、この製品を見誤ってしまいます。

 ただし、従来のトーストがすべて別物になる、という話ではありません。今回、同社はトーストとチーズトーストで支持されてきたおいしさを継承したうえで、サワードウ、ベーカリー、スチームデリという3つのモードを新設・再編しています。

 発表会で担当者は、「これまで支持されてきたおいしさを中心に置きながら、楽しめるパンと食のシーンを広げる」と説明しました。

 変えたのは、おいしさの基準ではなく、その基準を届けられる範囲です。この違いを理解するには、機能表を読むだけでは足りません。

会場に並んだ新しい「BALMUDA The Toaster」。見慣れた外観のそばには、パンだけでなく肉料理や揚げ物も並びます。今回の進化は、朝のトーストから食事の仕上げまで、使う場面を広げたことにも表れています。
会場に並んだ新しい「BALMUDA The Toaster」。見慣れた外観のそばには、パンだけでなく肉料理や揚げ物も並びます。今回の進化は、朝のトーストから食事の仕上げまで、使う場面を広げたことにも表れています。

2015年、原点にあったのは「世界一おいしいトースト」

 会場には、初代の開発資料や試作機も展示されていました。焼き加減を記録した資料を見ていると、完成品の簡潔な外観からは想像しにくい試行錯誤が浮かび上がります。

 2015年に発売された初代の出発点は、「世界一おいしいトーストを焼けるトースターを作る」という思いでした。発表会では、雨の日のバーベキューでパンを焼いた経験から、水分を与えて焼く発想が生まれたことも紹介されました。スチームと緻密な温度制御を組み合わせ、「いつものパンがおいしくなる」という体験を製品の中心に据えたのです。

会場に展示された初代トースターの試作機。形や仕上げが異なる2台からは、完成品の簡潔な外観に至るまでの検討の跡が見て取れます。「いつものパンをおいしくする」という原点を、開発途中の姿から振り返る展示です。
会場に展示された初代トースターの試作機。形や仕上げが異なる2台からは、完成品の簡潔な外観に至るまでの検討の跡が見て取れます。「いつものパンをおいしくする」という原点を、開発途中の姿から振り返る展示です。

上場、異分野への挑戦と撤退。その11年間に起きたこと

 その後、バルミューダは2016年に電気ケトル「BALMUDA The Pot」、2017年に炊飯器「BALMUDA The Gohan」とオーブンレンジ「BALMUDA The Range」を発売しました。2021年にはコーヒーメーカー「BALMUDA The Brew」、2023年にはホットプレート「BALMUDA The Plate Pro」も登場しています。デスクライトやスピーカーなど、キッチンの外にも活動の場を広げています。

 2020年12月16日には東京証券取引所へ上場しました。さらに2021年には「BALMUDA Phone」でスマートフォン市場に挑みました。しかし、携帯端末事業は2023年に終了しています。

 この11年は、ひとつのヒット商品を守り続けた時間ではありません。自分たちの考える価値が、どこまで通用するのかを問い続けた時間でもありました。

北米で出会ったパン文化、Proの仕上げ焼き、ReBakerによる揚げ物の温め直し。会場の年表は、別々の挑戦が新型に至る過程を示していました。会社の11年間と製品の歩みを重ねて考える手がかりです。
北米で出会ったパン文化、Proの仕上げ焼き、ReBakerによる揚げ物の温め直し。会場の年表は、別々の挑戦が新型に至る過程を示していました。会社の11年間と製品の歩みを重ねて考える手がかりです。

「挑戦した」というだけでは、次の価値にはなりません

 筆者自身、事業を営む立場として、挑戦のすべてが計画どおりに進むとは思っていません。一方で、「失敗もいい経験だった」で片づけられないことも知っています。投じた資金も、関わった人の時間も、軽くはないからです。

 それでも、事業が終わることと、その過程で得た経験まで失われることは、同じではありません。重要なのは、何を学び、それを次にどのような価値として届けるかでしょう。

 もちろん、スマートフォンの開発技術が今回のトースターに使われた、と言うつもりはありません。会社の歩みと、製品の技術的な系譜は分けて見る必要があります。

 今回の発表会で直接のつながりが示されたのは、北米向けモデルや、仕上げ焼きを追求した「BALMUDA The Toaster Pro」、パンや揚げ物の温め直しに取り組んだ「ReBaker」で得た知見でした。Proは2022年、ReBakerは2024年に登場した製品です。

 別の市場や別の製品で向き合った課題が、主力製品の進化につながります。バルミューダの11年間を振り返る意味は、成功と失敗を数えることではなく、このつながりを見つけることにあります。

加熱条件や食感について書き込まれた開発資料。数字の検証と食べたときの評価を行き来しながら、焼き方を探っていたことが伝わります。試行錯誤を記録し、次の制御に生かす積み重ねも、おいしさを支える技術の一部です。
加熱条件や食感について書き込まれた開発資料。数字の検証と食べたときの評価を行き来しながら、焼き方を探っていたことが伝わります。試行錯誤を記録し、次の制御に生かす積み重ねも、おいしさを支える技術の一部です。

アメリカで向き合ったパンが、日本のトースターを変えた理由

 その象徴が「サワードウモード」です。

 サワードウとは、穀物と水から育てた発酵種を使うパンのことです。発表会で説明された開発の背景には、米国のパン文化があります。日本の食パンとは水分量や密度が異なるパンを、深い焼き色がつくまで焼いて楽しみます。日本で支持された焼き方を、そのまま持ち込めばよいわけではなかったといいます。

 そこで開発されたのが、北米向けの「Golden Toast Mode」です。現地で求められる焼き上がりを検証し、安全基準にも対応しながら、高温で香ばしく仕上げる技術を磨きました。その経験を日本向けに生かしたのが、新型のサワードウモードなのです。

 担当者によると、焼き上げの終盤には庫内温度を約260℃まで高め、パンの表面をしっかり加熱します。サワードウをはじめ、高加水のパンや密度の高いパンに合わせ、外側の香ばしさと内側のもっちりした食感を引き出す設計です。

会場でパンを焼き上げている新型。窓越しにパンと加熱中の庫内が見えます。サワードウモードでは焼成終盤に庫内温度を約260℃まで高めると説明され、日本の食パンとは異なるパンにも合わせた制御が紹介されました。
会場でパンを焼き上げている新型。窓越しにパンと加熱中の庫内が見えます。サワードウモードでは焼成終盤に庫内温度を約260℃まで高めると説明され、日本の食パンとは異なるパンにも合わせた制御が紹介されました。

海外の食卓で得た経験を、日本へ持ち帰る

 会場では、パンにチーズやトマトを合わせた試食も用意されていました。トーストを1枚焼くのとは違う、食事としてパンを楽しむ風景がそこにありました。

 興味深いのは、輸出によって商品を届けただけでなく、現地の食べ方を学び、国内製品の可能性を広げていることです。海外展開を販売台数や売上高だけで見ていると、こうした成果は見落としてしまいます。

 海外に出れば必ず技術が進む、という話ではありません。日本での成功体験では解けない課題に、実際に向き合ったことが大きいのです。慣れ親しんだトースターの中に、遠くの食卓から持ち帰った焼き方が入っているのです。

トマトとチーズを合わせた試食用のパン。焼き上げたパンを料理の土台として楽しむ提案です。1枚のトーストを焼くだけでなく、具材を組み合わせて食事にする使い方からも、新型が向き合ったパン文化の幅がうかがえます。
トマトとチーズを合わせた試食用のパン。焼き上げたパンを料理の土台として楽しむ提案です。1枚のトーストを焼くだけでなく、具材を組み合わせて食事にする使い方からも、新型が向き合ったパン文化の幅がうかがえます。

モードを増やすだけではない。技術で「迷い」を減らす進化

 もうひとつ、家電を取材する立場から注目したいのが「ベーカリーモード」です。従来のフランスパンモードとクロワッサンモードをひとつにまとめ、惣菜パンや菓子パンまで対応を広げています。

 単に名称を整理したわけではありません。発表会では、上下ヒーターの加熱バランスと仕上げの工程を設計し直し、異なるパンに対応できるようにしたと説明されました。

 「温度制御を磨いてきたからこそ、ひとつにすることが可能になりました」

 担当者のこの言葉に、今回の進化がよく表れています。

 機能が増えると、ユーザーが判断することまで増えてしまう家電は少なくありません。ですが、朝に欲しいのは、パンの特徴を分類して正しい設定を選ぶ仕事ではなく、おいしく食べる時間です。

 細かな制御を機械側が引き受けることで、選択を簡潔にします。技術の成熟は、操作項目が増えることより、考えずに使える範囲が広がることに表れる場合もあります。これは新しいモード名以上に、生活者にとって意味のある変化だと思います。

Proのモード選択ダイヤル。ベーカリーモードでは、従来別々だったフランスパンとクロワッサンのモードを統合しています。対応するパンを広げながら、使う人が焼き方を選ぶ際の迷いを減らす設計です。
Proのモード選択ダイヤル。ベーカリーモードでは、従来別々だったフランスパンとクロワッサンのモードを統合しています。対応するパンを広げながら、使う人が焼き方を選ぶ際の迷いを減らす設計です。

揚げ物の温め直しに生きる「ReBaker」の経験

 「スチームデリモード」には、温め直しを追求したReBakerの経験が生きています。

 発表会で紹介された加熱の流れは、下ヒーターで食材の中心まで温めた後、上ヒーターで表面を仕上げるというものです。そこにスチームを組み合わせ、揚げ物やデリを中まで熱く、表面はサクッと軽い食感に整えます。対象は揚げ物だけでなく、焼き鳥やグリルチキンなどにも広がるといいます。

本体上部の給水口へ水を注ぐ実演。スチームを使うという初代からの特徴は、新型にも受け継がれています。スチームデリモードでは水分と上下ヒーターの制御を組み合わせ、揚げ物などの温め直しにも対応します。
本体上部の給水口へ水を注ぐ実演。スチームを使うという初代からの特徴は、新型にも受け継がれています。スチームデリモードでは水分と上下ヒーターの制御を組み合わせ、揚げ物などの温め直しにも対応します。

朝のパンだけでなく、夕食の一品も任せたくなります

 会場でもパンとともに揚げ物が用意され、新型で楽しめる食の幅を確かめられました。筆者が外観以上の変化を感じたのも、新型が「トーストの焼き上がり」だけで評価する家電ではなくなっていたからです。

 仕事帰りに買った惣菜を、食べる直前にもうひと手間おいしくします。休日に選んだベーカリーのパンを、自宅で改めて楽しみます。調理を一から引き受けるのではなく、食べる前の最後の仕上げを担います。

 従来もトースト以外に使えましたが、専用モードが加わることで、そうした使い方を選びやすくなります。「何ができるか」だけでなく、「どんなときに使おうと思えるか」が変わるのです。

試食用に盛り付けられたエビフライと野菜。スチームデリモードは、揚げ物を中まで温めながら表面を仕上げることを狙っています。パン専用という先入観を離れ、夕食の一品を食べる直前に整える使い方が見えてきます。
試食用に盛り付けられたエビフライと野菜。スチームデリモードは、揚げ物を中まで温めながら表面を仕上げることを狙っています。パン専用という先入観を離れ、夕食の一品を食べる直前に整える使い方が見えてきます。

原点に戻るのではなく、原点を更新する一台

 新型は2026年9月29日発売しました。税込価格は通常モデルが3万9600円、上火で表面を仕上げるサラマンダーモードを備えたProが4万6200円です。3つの新モードは両モデルに共通します。

 決して安いトースターではありません。毎朝の食パンだけで十分な人と、ベーカリーのパンも夕食の惣菜も楽しみたい人では、新モードの意味も違ってきます。だからこそ、単に「高級だからおいしい」ではなく、自分の食卓にどんな役割を持たせられるかを見るべきでしょう。

 事業を広げることだけが、会社の成長ではありません。広げた先で得た知見によって、すでに支持されている製品の価値を深くすることも成長です。

 この11年間には、Proの登場など、BALMUDA The Toaster自体にも進化がありました。今回の新型は、その積み重ねに、ほかの製品や海外市場での経験を重ねた一台といえます。

 上場も、新分野への挑戦も、撤退も経験しました。そんな会社の“酸いも甘いも”の先にあるのが、この見慣れた姿の新型です。初代の成功に戻るのではなく、いまの食卓に合わせて、初代が示した価値を広げ直します。だからこれは、懐かしい製品への原点回帰というより、経験を積んだ会社による原点の更新なのだと思います。

会場に並ぶ新型。新しい3つのモードは通常モデルとProに共通し、Proには表面を仕上げるサラマンダーモードが加わります。見慣れた姿を残しながら使い方を広げる一台に、11年間の経験が重なります。
会場に並ぶ新型。新しい3つのモードは通常モデルとProに共通し、Proには表面を仕上げるサラマンダーモードが加わります。見慣れた姿を残しながら使い方を広げる一台に、11年間の経験が重なります。

 見慣れた姿を残すことは、立ち止まることと同じではありません。

 新型を食べて感じた驚きは、そのことを教えてくれました。11年間で最も変わったのは、BALMUDA The Toasterではなく、それを作っているバルミューダだったのかもしれません。

製品仕様
「BALMUDA The Toaster(バルミューダ ザ・トースター)」
型番:KTT02JP
価格:3万9600円(税込)
カラー:ブラック、ホワイト、グレー(限定カラー)
本体サイズ:W357×D321×H209mm
庫内サイズ:W275×D224×H178mm
重量:約4.1kg
定格消費電力:1300W。
運転モード:トースト、チーズトースト、ベーカリー、サワードウ、スチームデリ、クラシック(170℃/230℃)

「BALMUDA The Toaster Pro(バルミューダ ザ・トースター プロ)」
型番:KTT03JP
価格:4万6200円(税込)
発売日:2026年9月29日。
カラー:ブラック、ホワイト、ブラッククローム(限定カラー)。
本体サイズ:W357×D324×H209mm
庫内サイズ:W275×D224×H178mm
重量:約4.1kg
定格消費電力:1300W
運転モード:通常モデルの6モードに加え、サラマンダーモードを搭載

※限定カラーのグレー、ブラッククロームは2026年10月8日発売予定。バルミューダオンラインストアおよび「BALMUDA The Store Aoyama」をはじめとするブランドショップ各店での限定販売です。

Gallery 【画像】11年ぶりに刷新した新バルミューダの画像を見る
滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

VAGUEからのオススメ

前作超え感じさせる“ロケット級”の飛び実現へ! 新スリクソン「ZXi RKT」ドライバー4モデルの実力を試してみた【PR】

前作超え感じさせる“ロケット級”の飛び実現へ! 新スリクソン「ZXi RKT」ドライバー4モデルの実力を試してみた【PR】

RECOMMEND