新潟・田上の放置竹林が“光のアート”に! 5万人規模の「たがみバンブーブー」が生む地域再生とウェルネス
“厄介者”だった竹林が、5万人を呼ぶ町のシンボルに
新潟県田上町で2022年に始まった「たがみバンブーブー」。放置竹林を光のアートへ変え、町民や子ども、トップアーティストを巻き込みながら約5万人規模へ成長しました。その現場で見えたのは、地域資源の再発見と、人をつなぐ“ウェルネス”の新しい形でした。
新潟駅から車で南へ約40分。田上町に入ると、のどかな田園風景の背後に、青々とした竹林が連なる小高い山々が見えてきます。「竹林の中に町がある」と表現されるほど、竹と人々の暮らしが密接に結びついてきた場所です。
しかし、かつては生活の道具として重宝された竹も、プラスチック製品の普及とともに需要が激減。さらに安価な外国産タケノコに押され、いつしか竹林は放置され「荒れ果てた厄介者」となりました。
そんな町に大きな変化が起きたのは2022年のこと。地元の道の駅「たがみ」の駅長・馬場大輔氏が中心となり、放置竹林を整備し、その竹を使って無数の「竹あかり」を作り、町をライトアップするプロジェクト「たがみバンブーブー」がスタートしました。
現地を訪れたその日は、ちょうど今年のお祭りの開幕を告げる「光のパレード」の開催日でした。道の駅からメイン会場の竹林まで、約300人の町民の皆さんがランタンを手に練り歩きます。パレードの終着点である竹林に到着し、カウントダウンとともに明かりが灯ると、そこには息を呑むような幻想的な空間が広がっていました。
「最初はサッカー場くらいの広さの竹林をきれいにして、竹あかりを少し置いただけの小さなスタートでした。でも、1年目に1万人が来てくれて、町に20年ぶりに渋滞ができたんです」と馬場氏は振り返ります。年々規模を拡大し、今年(5回目)はなんと約5万人を動員する予定だそうです。

「何もない町」の宝に気づく。子どもたちが繋ぐ地域の未来
これほどまでの熱狂を生み出している理由を探ると、単に「綺麗なイルミネーションだから」というだけではないことがわかってきました。バンブーブーの最大の強みは、「町民全員で作るお祭り」である点にあります。
馬場氏がこのプロジェクトを始めた根底には、強い危機感がありました。
「2020年に道の駅の駅長に就任した時、県民へのアンケートで田上町の特産品を聞くと、8割が『何もない』と答えました。残りの10%が『タケノコ』です。町の人たちはタケノコに誇りを持っているのに、外の人は誰も知らない。このギャップに可能性を感じました」
田上町には高校がなく、子どもたちは中学を卒業すると町を出て行ってしまいます。大人たちも「自分の代で竹林は終わりだ。もう価値がない」と諦めかけていたそう。
「だからこそ、バンブーブーを通じて、身近にあるものに視点を向けるだけで、すべてが価値に変わるんだということを子どもたちに伝えたかったんです」
その言葉通り、今では町内の小中学生全員(約800名)がこのプロジェクトに関わっています。メイン会場の設営だけでなく、廃業した元割烹旅館を再生した「バンブーブーミュージアム」のプロデュースを中学生が担い、小学生たちは竹林整備の過程で出る間伐材を利用した「メンマ」の新しい食べ方や販売方法を提案してくるそうです。
自分たちの町の価値を、自分たちの手で磨き上げる。子どもたちにとって、これ以上の生きた学習はないのではないでしょうか。

無心になれる竹アート体験。トップアーティストが支える「美の完成度」と「社会的ウェルネス」
さらに興味深いのは、このイベントが大人たちにとっても「ウェルネス(心身の健康)」の場として機能している点です。
バンブーブーで展示される何千本もの竹あかり。その竹を切り出し、ドリルで穴を開けて模様を作る作業は、ボランティアによるワークショップ形式で行われています。今年は約2,500名(延べ人数)もの人々が参加しました。筆者も実際に穴あけ作業を体験しました。
竹に型紙を貼り、番号に合わせて様々な太さのドリルで穴を開ける。最初はドリルの振動と音に戸惑いましたが、慣れてくると「竹を削り抜く感覚」がなんとも心地よく感じられます。没頭して無心で穴を開けていると、日々の仕事の雑念がスッと消えていくのが分かります。
この体験、感覚としては日曜大工(DIY)の延長線上にある手軽さなのですが、それだけに終わらない奥深さがあります。なぜ素人が開けた穴の集合体が、これほどまでに洗練された「アート作品」へと昇華するのか。その秘密は、作品の原型やデザインを気鋭のトップアーティスト陣が手掛けている点にあります。
「たがみバンブーブー」には、日本を代表するクリエイターが結集しています。全国で竹あかりを手掛けるパイオニア「ちかけん(CHIKAKEN)」の三城賢士さんをはじめ、果物袋に笑顔を描く「ひかりの実」で知られる光の演出家・髙橋匡太氏、パフォーマンスカンパニー「toRmansion(トゥーアールマンション)」、廃材アートの加治聖哉氏、そしてロゴやグラフィックを手掛ける迫一成氏ら、第一線の表現者たちがその基盤を支えています。
プロが設計した完成度の高いデザイン(型紙)があるからこそ、参加者は「失敗の恐怖」から解放され、安心して作業そのものに没頭できます。そして自分の手が加わった竹に明かりが灯った瞬間、プロのクオリティと素人の達成感が融合した最高の感動が生まれます。
「昼間に別の仕事をしている人たちが、夜に集まって作業すると『なんだかリフレッシュした』と言って帰っていくんです」と運営スタッフが語るように、今年はこの取り組みに東京藝術大学も注目し、「参加者の社会的健康(ウェルビーイング)にどう寄与しているか」の調査研究に入っているそうです。
居場所を問わず、世代を超えて同じ作業に向き合い、会話が生まれる。手を動かす没頭感と緩やかな繋がりが、現代人の疲れを優しく癒やしてくれます。

消費から循環へ。たがみバンブーブーが示す、これからの地域創生の在り方
たがみバンブーブーは、外部のコンサルタントやイベント会社が主導する「消費型の町おこし」とは一線を画しています。
行政の予算に頼り切るのではなく、地元の商工会が全面協力し、民間企業の協賛で運営資金を賄っています。放置竹林を整備してイベントに使い、残った竹はメンマとして販売したり、飲食の器として再利用したりするアイデアも次々と生まれています。さらには、イベント期間中に地元の温泉旅館(湯田上温泉)に宿泊客が流れる仕組みを作り、地域経済にもしっかりと還元しているのです。
「ただのイベントではなく、地域の風物詩として育てていきたいです。この町には美味しいお酒も、温泉も、そして竹という素晴らしい資源があります。視点を変えれば、できることは無限にあるんですよ」
数え切れないほどの竹あかりの光は、単なるイルミネーションではなく、町の人々一人ひとりが自らの手で灯した「誇り」と「未来への希望」の光とも感じられました。
地方の過疎化や産業の衰退が叫ばれる中、田上町の挑戦は、私たちによりよい生き方や、これからの地域再生の確かなヒントを教えてくれています。
【イベント情報】
たがみバンブーブー
開催期間:9月12日(土)~10月12日(月)
点灯時間:18:00〜20:30(道の駅たがみのみ22:00まで)
会場構成:
【有料会場】竹林会場(原ヶ崎運動広場脇)、旧割烹旅館、椿寿荘
【無料会場】道の駅たがみ、JR羽生田駅前、湯田上温泉街 各施設 ほか
参加アーティスト:ちかけん(竹あかりプロデュース)、髙橋匡太(光の演出/ひかりの実)、toRmansion(演出/パフォーマー)、迫一成(グラフィックデザイン)、小出真吾、加治聖哉(廃材アート)、岸本智也氏(プロジェクション) ほか全8名
主催:たがみバンブーブー実行委員会(お問い合わせ:道の駅たがみ)
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