いったいなぜ幻の“W10”エンジンを搭載? 特別なBMW「M5」が落札 VW総帥フェルディナント・ピエヒが愛用した 世界に1台のみの「E39」の価値は
一見“普通の”E39型に見えるがM5として史上最高額で落札
一見すると、ごく普通のBMW「M5」に見えます。
しかし、ボンネットの下にはフォルクスワーゲンが開発した希少なW10エンジンが収まっています。
しかも、このクルマを作らせたのは、フォルクスワーゲン・グループの元会長であり、ブガッティ「ヴェイロン」の誕生にも大きな影響を与えたフェルディナント・ピエヒ博士です。

この特別な2000年式BMW「M5 W10プロトタイプ」が、2026年10月に開催されたブロードアロー主催のオークションに出品され、41万1250ユーロ(約7000万円)で落札されました。
これはE39型BMW M5のオークションにおける世界新記録であり、チャリティ目的の出品を除けば、M5として史上最高額となる結果です。
今回のオークションでは、希少なコレクターズカーをめぐって入札者の競争が繰り広げられました。そのなかで最高額を記録したのが、この異色のBMW M5でした。予想落札価格は25万〜35万ユーロでしたが、国際的な注目を集めた結果、予想上限を大きく上回りました。
開発のきっかけは1999年。当時、スポーツセダン市場でBMW M5が存在感を放つなか、ピエヒ博士はフォルクスワーゲン独自の高性能エンジンを模索していました。そこで開発されたのが、VR型エンジンの技術を応用したW10です。
W10は、狭角V型5気筒エンジンを2基組み合わせることで、5リッターの排気量を持つ10気筒エンジンとして構成されています。最高出力は約480馬力、最大トルクは592Nm。394馬力を発生する当時のBMW M5の4.9リッターV8エンジンを大きく上回るスペックでした。
トランスミッションは6速MTで、駆動方式は後輪駆動です。
興味深いのは、フォルクスワーゲンが自社の高性能セダンではなく、ライバルであるBMW M5をベースに開発を進めたことです。
ピエヒ博士は、実際の車両を使ってW10エンジンの性能を検証しました。開発費は約200万ユーロに達したとされますが、このエンジンが市販車に搭載されることはありませんでした。
W10のプロトタイプエンジンは、わずか3基しか製造されなかったといわれています。そのうちの1基が今回のM5に搭載されたもので、このエンジンを積んだ車両は本車だけとされています。
さらに注目すべきなのは、ピエヒ博士自身が開発期間中、このM5を自家用車として使用していたことです。単なる実験車両ではなく、開発責任者が実際に乗り、その性能を確かめていたという点でも興味深い存在です。

フォルクスワーゲンのW型エンジンといえば、のちにブガッティ「ヴェイロン」に搭載されたW16エンジンが知られています。W10はそのW16の技術的な系譜を理解するうえでも興味深い存在ですが、市販化されなかったため、一般に目にする機会はほとんどありません。
ライバルメーカーのスポーツセダンをベースに、将来のスーパーカーにもつながるエンジンを試す。そんなピエヒ博士の構想を今に伝えるBMW M5は、単なる希少車という枠を超え、自動車開発史の一端を物語る貴重な1台といえるでしょう。
今回の約7000万円という落札価格は、その唯一無二の来歴と技術的な価値が、世界のコレクターに高く評価された結果といえそうです。
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