年間5万台売れても、使われ続けるとは限らない。カレーもホイップも作れる、シロカ新型ブレンダーが目指す“365日家電”
年間5万台以上売れるヒット商品が、抱えた課題
2024年発売のヒーター付き「おうちシェフブレンダー」の従来モデルは、底面ヒーターによる加熱と粉砕・攪拌を組み合わせ、ポタージュ、スムージー、豆乳、甘酒、おかゆまで自動で調理できる。発表会では年間5万台以上を売り上げるヒット商品と説明された。
それでも「もっとなめらかに」「作るものがいつも同じになる」という声が寄せられた。シロカが新型で掲げたのは、味の完成度とレパートリーの拡大だ。売れる理由を増やすだけでなく、購入後に使わなくなる理由を減らそうとしている。
ヒーター付きブレンダーは、材料を入れたら放っておける手軽さが魅力だが、ポタージュだけでは使用する季節や食卓が限られる。新型の狙いは、単なる調理性能の改善ではなく、キッチンでの役割そのものを広げることにある。
シロカの場合、モーターの摩擦熱に頼らず、底面に備えたヒーターでしっかり加熱できるのも特徴。だからスムージーのような冷たい飲み物だけでなく、熱々のスープやおかゆまで調理範囲に入る。既存の強みを生かしながら、もっと普段の献立へ踏み込もうとしている。

刃のヒントは「扇風機」ではなく「サーキュレーター」
今回、最も興味深かったのは刃の再設計だ。新旧とも8枚刃だが、新型は一部を長く、縦方向に立ち上げるように角度を変更した。発想源は、空気を広く送る扇風機と、直進性のある風を生むサーキュレーターの違い。空気の流れを作る羽根の知見を、液体と食材の攪拌に応用したという。
ガラス容器内側の突起(リブ)も深く長くし、持ち上がった食材を壁に当てて中央の刃へ戻す循環を強めた。会場では同じ水量・回転数プログラムで新旧を動かし、新型のほうが水流が高く立ち上がる様子を確認できた。力任せに回すのではなく、流れの設計で粉砕効率を高める。技術的な見どころはそこにある。
モーターの出力を上げれば、それだけ消費電力や発熱、騒音など別の課題が生じうる。今回は回転の条件をそろえて比較できること自体が、形状設計の意味を伝えていた。空気を動かすノウハウが食材を動かす技術へつながった点も、長年シロカの家電を見てきた立場から興味深い。

ポタージュの口当たりと、食材の使いやすさ
発表会では、かぼちゃのポタージュを新旧モデルで飲み比べた。新型は刃と容器だけでなく調理プログラムも見直し、なめらかさと甘みを引き出す仕上がりを狙っている。セロリとパイナップルのスムージーも披露され、従来機では残りがちだったセロリの繊維をより細かく砕けると説明された。
口当たりの改善は、濾す手間を減らせる可能性にもつながる。ただし、メーカーが示した豆乳の栄養価の比較は、従来機で作った「濾した豆乳」と「濾さない豆乳」の差。新型によって栄養成分が増えたというデータではない。
例えば、繊維が気になるからセロリを避けていた人にとって、口に残りにくくなることは材料選びの自由度につながる。おいしさの改善が料理の選択肢を広げるのであれば、それは単なる数値スペックの向上よりも生活者に伝わりやすい価値だろう。

カレー、ホイップ、生地まで。回転を使い分ける
バターチキンカレー、クラムチャウダー、チーズケーキ、ホイップクリームなど、主食からデザートまで提案が広がった。具材の形を残す「ごろごろスープ」では、縦長容器で生じやすい上下の温度差を抑えるため、攪拌の制御を見直している。
新たな「生地」モードは、クリームチーズなど粘度の高い材料を扱うため、回転数を下げてトルクを確保する設計だ。DCモーターによる細かな制御が、多用途化を支える。ただし小麦パンの生地をこねたり、餅をついたりはできない。生米から作る米粉パンも、焼き上げる工程には別の器具が必要だ。「これ一台ですべて完成」ではない点は押さえておきたい。
ここで着目したいのは、特定の料理に特化した専用家電を次々と増やすのではなく、一台を別の用途にも使えるようにする発想だ。ホイップ専用のハンドミキサーをしまい込んだ経験がある人なら、出しっぱなしの道具で別の調理もできる魅力が分かるはずだ。

ガラスを続ける理由と、「洗う不安」への対策
容器には今回もガラスを採用した。ステンレスに比べ放熱しやすい面はあるものの、傷、色移り、匂い残りへの配慮から、離乳食ややわらか食にも使う道具としてガラスを重視したという。素材の弱点は、加熱時間や制御の見直しで補う。
一方、底面に電気部品があるため、丸ごと水洗いはできない。そこで洗浄時の水はね対策として、底面用のシリコンカバーを付属。片手で装着しやすい形にこだわり、ガラスと樹脂の隙間にも汚れが入りにくいよう細部を改めた。開発側は、底部を取り外せる構造が理想だと認めつつ、今後の課題としている。
ガラス容器は重さや熱の逃げやすさでは不利な一面もある。それでも衛生面や日常の扱いやすさを優先した判断には、離乳食から高齢者向けのやわらか食までを視野に入れる商品の性格が表れている。見た目には地味でも、ユーザーの不満に応じた改良だ。

「売れる」だけでは定番になれない
新型はウォームホワイトとウォームグレーの2色。キッチンに出しておきたくなる落ち着いた色調を選び、価格は税込1万9800円に収めた。
発表会では、付属品を加えても「2万円を超えない」価格を重視したことが語られた。日常使いの道具として広く選ばれるには、機能だけでなく価格と置き場所の納得感が欠かせない。存在感が強すぎないカラーリングも、出しっぱなしにするための設計の一部といえる。
販売台数を伸ばすことと、購入後の使用頻度を高めることは別の課題だ。朝はスムージー、夜はカレー、休日はデザート。使い道を広げる一方、洗う手間や収納のストレスを小さくする。今回の改良は、その両方を狙っている。
もちろん、レシピ数が増えれば必ず365日使われるわけではない。材料を用意する手間も、使い終わって洗う手間も残る。それでも「今日はこれで何を作ろう」と思える回数が増えれば、家電はしまわれにくくなる。新定番に必要なのは、購入時の驚き以上に、使い続ける理由なのだ。
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