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ポルシェの工場で生産されたメルセデス・ベンツ「500E」の狂気めいたキャラとは【旧車試乗】

間違いなく90年代のモンスターだった「E500」の走りとは?

 メルセデス・ベンツ500Eと久方ぶりの対面を果たし、まず印象的だったのは、意外なほどにコンパクトなこと。スタンダードのW124はもちろん、フェンダーを拡幅した500Eであっても、現行型W206系Cクラスよりも全長×全幅ともにわずかながら小さいのだ。

M119型V8エンジンは吹け上がりは明らかにシャープ。2000rpmを超えたあたりからのサウンドも、よりスポーティなものとなる
M119型V8エンジンは吹け上がりは明らかにシャープ。2000rpmを超えたあたりからのサウンドも、よりスポーティなものとなる

●懐の深い大人の速さと、メルセデス・ベンツの本分

 しかしまじまじと見てみると、フェンダーの存在感は55mmアップという数値以上のもので、スタンダードよりも格段にワイルドなアピアランスを得ている。

 W210以降のEクラスでは失われてしまった、上質な金属とゴムによる「カンッ」という心地よい感触ともにドアを閉めると、コックピット周辺はウッドやレザーでいくばくか豪華にしつらえられつつも、4気筒/6気筒のW124と大きくは変わらない。

 そしてエンジンに火を入れると、即座にスムーズなアイドリングに移行するものの、依然として高級な実用セダンとしての印象を変えることはない。

 1960年代までの遊星ギア式ATからトルクコンバーター式ATに変更されたのちのダイムラー・ベンツ社製自動変速機は、W124後期型の4気筒モデル(E220)などで1速発進が採用されるまでは2速発進がデフォルト。したがって、50kgm近い最大トルクを誇る500Eであっても、動き出しの加速はスペックから想像すると肩透かしを食らうほどにおだやかである。

 聞いたところによると、スロットルを深く踏み込めば発進時でもキックダウンが効くそうなのだが、有効なトラクションコントロールもない上にこのトルク。筆者ていどの運転スキルと度胸で、借り物の500Eでドラッグスタートなど怖くてできたものではない。

 それでも、これもこの時代のメルセデスらしい重いスロットルを踏み込むと、M119型V8エンジンは少しずつ本性を見せてくる。W126系Sクラスセダンなどに搭載されていたバンク当たりSOHCのメルセデスV8たちと比べても、吹け上がりは明らかにシャープ。2000rpmを超えたあたりからのサウンドも、よりスポーティなものとなる。

 とはいえ、今世紀に入ってからのメルセデスAMGのごとく、エンジンが始動した瞬間からドロドロと露悪的な咆哮を放出することはなく、500Eに搭載されたM119型エンジンのフィールは緻密な印象に終始する。やや硬質なサウンドが高まるのと同時にナチュラルに車速を上げてゆくさまは、自然吸気の大排気量エンジンならではの極上のもの、と太鼓判を押したいのだ。

 一方、この時代におけるスーパーカー級の高性能セダンであれば気になるであろうハンドリングについては、日本初上陸当時のインプレッション記事でもことさら深掘りされることが無かったように記憶しているが、アネスト岩田ターンパイク箱根で500Eをマジメに走らせてみると、およそ30年前の識者の対応の理由が幾らかでも理解できたような気がする。

 スタンダードのW124からトレッドを拡幅し、タイヤも3サイズほど太いものに履き替えていながらも、その回頭性は変わらず穏当なもの。この時代のメルセデスでは常道だったリサーキュレーティング・ボール(ボール循環)式ステアリングは、油圧式パワーアシストとともにきわめて滑らかなフィールを誇るかたわら、ダイレクト感やクイックな操舵ではラック&ピニオン式には一歩ゆずる。

 加えて、W201系190とW124系EクラスがFRセダンにおける開祖のひとつと目されているマルチリンク式リヤサスペンションがよく粘り、コーナーの曲率を問わず、ハンドリングは安定志向に終始する。

 つまり、コーナーリングでドライバーを愉しませようというエンターテイメント性、あるいは過剰な演出とは一線を画し、ただひたすらに超高速セダンとしての本分を追求する。より分かりやすい現代のメルセデスAMGと比べると、そのドライブフィールは格段に深遠。玄人好みにも感じられる。

 そして、かつてのダイムラー・ベンツ社の社是「Das Beste oder nichts(最善か無か)」というモットーを全身全霊で体現していることに、深い感銘を受けたのだ。

 21世紀以降は同じグループとなった「メルセデスAMG」ブランド車にその役割を譲ってしまった感が強いが、かつての「メルセデス・ベンツ」の歴史には、「300SEL6.3」しかり「190E2.5-16エヴォリューションII」しかり、いささか狂気めいたものさえ感じさせる高性能車が時おり出現していた。500Eは、その系譜を受け継いだ最後の1台とみるべきだろう。

 電動化が否応なしに進む今後、これほどまでに明確なキャラと、懐の深さを両立したメルセデス・ベンツが生まれることはないと考えざるを得ないのである。

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